第5話『不穏な噂を耳にして』
いくつかの街で同じように先回りして武器屋の屋台を開き、たまたま通りがかったマルシャナに武器を売ること、はや数回。
彼女もずいぶんと成長し、俺もそれに追いつけ追い越せと鍛冶の腕を磨いた。
ちょうどそんな時期だった。
――相当数の勇者がやられている。
旅の先々でそういった心ざわつく話がそこそこ耳に入るようになったのは。
勇者として選抜された者たちはもちろん一般人よりははるかに強いが、不死身でも無敵でもない。
強いモンスターと戦えば、負けるのは必定だった。
最初は一人で旅立った勇者たちも、敵の強さに対抗するため、もしくは孤独や不安を埋め合わせるため、近頃は勇者同士でパーティーを組むことが多いと聞く。
当然の考えだと言えよう。
だがしかし、あの娘は誰かと組む気はないようだ。
ずっと一人で旅を続けている。
他の誰ともパーティーを組まないのは、きっとあのことが理由なんだろうな……。
村にいたときも、そのせいで色々とつらい思いをしていたことを、俺は知っている。
なんとなく予想はしていたものの、こうして目の当たりにすると悲しい気持ちになる。
たった一人でモンスターの群れと戦い、たった一人で焚き火の前に座り、たった一人で毛布をかぶって眠りにつく。
もちろん食事をする時も一人だ。誰かとにこやかに会話することもない。
……今ほど、あの娘を追いかけて来てよかったと思ったことはない。
せめて俺だけは、彼女を陰ながらサポートしてやらなきゃな。
俺は改めて心に強く誓ったのだった。