第4話『俺の武器を買ってくれ!』
「ここは武器の店だ。どんな用だい?」
少し離れたところから街の武器屋の声が聞こえてくる。勇者と思しき者たちが入れ替わり立ち替わり、武器を触ったり店の主人に話しかけたりしている。
俺は昨日のうちに客として店内に入り、偵察は済ませていた。
剣や槍といったスタンダードな武器がそろっており、さすがに大きい街の武器屋だけあって、品質も悪くはなさそうだった。
だが、それでも俺が先日作った最新の武器に比べれば大したものではないと、自信を持って断言できる。……村にいた頃の俺だったら、負けていたかもしれないがな。
とはいえ、こちらはあの立派な店舗と比べてただの屋台。
さすがに勇者たちはほとんど寄って来ないし、来たとしても冷やかしに終わることが多かった。
まあ、いいさ。
本命はあの娘だ。あの娘にさえ買ってもらえればそれでいい。
噂をすれば影がさし、マルシャナが街の武器屋の前にやってきた。期待の表情をはりつかせて店内に入るのが見える。
くっ……先にこちらの屋台を見つけてくれたらよかったのだが……。
歯がみしながら待つことしばし。
彼女はどうやら何も買わずに出てきたようだ。肩を落としているのが遠目でも分かる。お気に召すものがなかったのだろう。
よし! そうだ! その店にお前が求めるような武器はないんだ! こっちに来い!
俺の念が通じたのか、間もなく彼女が俺の屋台と武器屋の看板を視認した。
こちらに向かって歩いてくる。
俺は悪だくみともいえる自分の行為にちょっとドキドキしながらも、すました顔で彼女が来るのを待った。
屋台の前にやってきたマルシャナが、おずおずと口を開く。
「こんにちは……」
久しぶりに近くでマルシャナの顔を正面から見た。
肩まで伸ばした銀色の髪。琥珀色の虹彩が特徴的な、どことなく眠たそうに見える瞳。
……相変わらずぼーっとした表情をしてやがるな。これでモンスターと戦う時は凛々しい顔つきになって凄まじい強さになるんだから、分からんもんだ。
「ここは武器の店だ。どんな用だい?」
内心を押し隠し、一般的な武器屋のセリフを口にする俺。
「このへんのモンスターが手強いから……今持ってる武器より強いやつが欲しい」
そう言って、かつて俺が鍛えた剣を俺に見せてくる。
さすがに刃こぼれも目立つようだ。村近くのモンスター相手なら無双できる業物だったんだが、まさか次の街でお払い箱になってしまうとは。村にいた頃の俺だったらショックを受けていたことだろう。
しかし、俺も成長したのだ。あの時作った剣の出来栄えに満足していたことが恥ずかしく思えるほどにな。
「それならこの剣がオススメだ」
筋力がアップしたであろう彼女にふさわしい、以前のものよりもやや大振りの刃になった片手剣。
村にいたときは手に入らなかった素材のおかげで、耐久力も切れ味も大幅にアップしている。
きっとマルシャナも気に入ってくれるはず……!
「……」
無言で手に持ち、軽く素振りをすること数回。マルシャナの目が驚きに見開かれる。彼女は剣を正面にかざしてじっくりと見据えた。刃に彼女の顔が映り込む。
「不思議……この剣、なんだか、あたしにしっくりくるかも……」
「嬉しいことを言ってくれるね、お嬢ちゃん!」
やはり、こいつをサポートすると決めた俺の判断に間違いはなかった。
「これ買う……」
「まいどあり!」
こっちも商売だからな。1ゴールドたりともまけるつもりはねえぜ。……まあ、古い武器を下取りしてそのぶんくらいは値引きしておいてやろう。
「……いい買い物ができた」
新しい剣を手にはにかむマルシャナ。年相応の笑顔に、俺は大人として、こんな少女を勇者として戦わせていることに申し訳なさを覚えてしまう。
しかし、魔王を倒せるのは勇者だけ。俺にできることはサポートだけなのだ。
「ありがとな! 魔王討伐、応援してるぞ!」
立ち去る彼女に俺は声援を投げかける。
彼女は後ろ姿のまま、こぶしをつきあげてそれに応えた。