最終話『勇者を出迎えて』
俺が村に帰還してから数日が経った。
今日はいよいよマルシャナが帰ってくる日だ。
魔王討伐の噂はもちろんこの村までも伝わっており、村での会話はずっとそのことで持ちきりだった。
なお、俺自身も帰ってきた日は、あんた今までどこに行ってたのよ!? ……みたいなことを皆から散々言われたが、適当にごまかしておいた。
勇者のあの娘を陰からずっとサポートしてたんだ、なんて言っても寝言としか思われないだろうからな。
何食わぬ顔で皆と並んで、一緒にねぎらいの言葉でもかけてやるとするか。
やがて、遠くにマルシャナの姿が見えてきた。俺は駆け出したい気持ちを抑えて、彼女が近づいて来るのを待つ。もちろんそれは村の皆も同様だったろう。
歩いてくるマルシャナの姿が少しずつ大きくなり、ついにマルシャナが入口を通って、村に足を一歩踏み入れた。その顔は旅立った時とあまり変わっておらず、どことなくぼーっとした表情だ。
でも、村の皆に向けて浮かべた控え目な笑みからは、大事をやりとげた充足感が伝わってくる。
ふたたび村の一員となったマルシャナのそばに、皆がわっと駆け寄った。
マルシャナはそれに戸惑いながらも、にこやかに応えている。
俺はその姿を、遠巻きに拍手をしながら見守った。
しかし間もなく、マルシャナは誰かを探しているかのようにキョロキョロとしはじめ……。
……ん? 誰かを探す?
俺が疑問に思ったちょうどその時、人込みの奥にいる俺と目が合った彼女は、ぱっと顔を輝かせた。
そしてすごい勢いで周りの人波をかきわけ、こちらへと駆けてきて……。
飛びつくように抱きついてきた彼女を、俺は後ろに倒れながら受け止めることになった。
「見つけた……! 武器屋のおじさん……!」
「!? ……お、お前、俺の顔が分かるのか!?」
「うん……あなたのことは分かるの。……いつの頃からか、あなたのことだけは分かるようになったの」
相貌失認。
それが、彼女をずっと悩ませていたものの正体だ。
彼女は他人の顔を認識できず、一人一人を見分けることができない。もちろん、この俺を含めた村の皆についても同様だ。
だからこそ、俺は旅先で彼女に会う時も顔を隠したりせずにいたのだが……。
「……やれやれ、念のために変装くらいはしておくべきだったかもしれないな」
「……そんなことしても、絶対に分かったはずだもん」
口をとがらせて、不平を述べるマルシャナ。死闘をくぐりぬけてきた者には似つかわしくない、年相応の可愛さだ。
彼女がそう言うのなら、そういうことにしておくか。
マルシャナは俺だけを見つめながら、恥ずかしそうな表情でゆっくりと唇を動かす。
「……結婚、しよ」
魔王を倒して名実ともに勇者になった彼女からの、唐突なプロポーズ。
衝撃の発言に、周りがふたたびどよめいた。
村の皆にはどこから説明すればよいのやら。
俺はあの時に抱いた感情を今度は隠すこともせず、彼女を優しく抱きしめた。
これにて完結です!
最終話までお読みいただき、ありがとうございました。
子供のころ、ファミコンでドラクエシリーズをよく遊んだものですが、武器屋などのNPCはみんな同じようなドットで描かれていました。
それで「ゲーム内の勇者から見たらみんな同じ顔に見えているのかなあ」みたいなことを考えたのが、今回の作品を書くきっかけになりました。
私なりにその考えを形にしてみましたが、いかがでしたか?
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