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第三章 序幕

 「どうかこのまま手を握って話し続けてくれないか」


『The Phone Call』Mat Kirkby


……………………


 「恋愛」というものは何なんだろう。


 一冊の本を読み終わった時。湯船に浸かっている時。友人と氷菓を食べている時。暮れの空を見上げた時。そんな時にふと浮かんで来る私の中の幾つかある疑問の一つがこれだ。

 勿論、作品を介して大まかな概要は把握している。特に食わず嫌いはないので少女漫画も、恋愛小説も、その手の映画、ドラマにアニメもそれなりに触れて来たつもりだ。

 しかし、それに対する私の反応と言えば、単純な理解であって共感とは程遠い。

 登場人物が明らかに恋に落ちたと分かる描写や、それを示す言葉が無いと、私はそれを理解できない。ストーリー展開による登場人物達の関係性は理解出来ても、感情までは理解出来ないのだ。

 私が思うに、恋愛物の作品は見る側の共感力が重要であると考えている。

 理屈やお約束をすっ飛ばしての感情に重点を置く展開を楽しむには、ただ理解してインプットする事ではなく、自身の経験からインプットされている物を、作品を通してアウトプットする事が必要なのでは無いかと思う。

 だから、恋愛の経験も無ければ全く理解の足りていない私は一般的な人間と比較して、恋愛物の作品を楽しみ難い立場にいると思うのだ。


 なので、私は「恋愛」とやらをやってみようかと思っている。

 幼い頃に兄が、「何事もやってみなきゃ分からねえ。出来る出来ねえ、好き嫌いは、やってみなきゃわかんねぇだろ」と良く口にしていた。正にその通りだと今の私は思う。TAKUYA∞も「全部やって確かめりゃいいだろ」って言ってたしね。

 私が今やっているアルバイトだって、始めてみなければ「怪しいバイトもあるんだなー」という感想が生まれるだけで、あの退屈で靄のかかったような日々から抜け出せていなかったに違いない。

 とりあえずは経験あるのみだ。


 今、私の目の前には見知らぬ男子生徒が一人立っている。

 場所は校舎裏で、時間帯は昼休みになったばかり。朝登校したら下駄箱に「昼休みに校舎裏に来て欲しい」との旨が認められた手紙が入っていたのだ。とりあえずはその内容に従い校舎裏に来ると、彼が待っていた。

 そして目の前の彼はたった今、私に向かってこう言った。


 「貴方の事が好きです。僕と付き合って下さい」


 所謂告白と言うやつだ。

 経験が無い訳では無い。私は美少女なのでそれなりにモテる。

 今の今まで、私はこの手の告白を全て断って来た。何故か、と尋ねられたら、「興味が無かったから」としか言いようがない。

 しかし、今は違う。私は本気で恋愛とは何だろうかと考え始めている。

 これは良い機会だ。「片思い」という名の恋愛経験は一人でも出来るが、「お付き合い」というものは一人では出来ない。

 なので私は彼にこう返した。


 「私は恋愛をした事がありません。貴方の事は顔も名前も知らないから好きかどうかも判断しかねます」と。


 それに対して彼は……「ですよね」と答えた。

 断られる前提で告白したのだろうか?よく分からないな。

 しかし、私の言葉には続きがある。

 「でも、私は「恋愛」というものがなんなのかを知りたい。なので、貴方さえそれで良ければ付き合いたいとは思っています」

 と答えた。だが、勿論これにも続きがある。

 「でも、貴方と付き合ってみて……この先貴方を好きになる保証は何処にもありません。結局訳も分からないまま貴方に別れ話を切り出す可能性がある事を、許容してくれると助かります」

 こんな自分勝手で、最低な文句は無いだろう。直様断られても言い訳は出来まい。

 しかし、目の前の彼の言葉は私の意に反するものだった。

 「分かりました。それでも僕は大丈夫……ていうか、嬉しいです。フラれるつもりで貴方に告白したので」

 と、言った。

 丁度私が恋愛について考え始め、理解を深めようと努めた矢先に彼が告白して来た。

 タイミングが良かっただけだ。ただ、それだけに過ぎない。

 それでも私と付き合えることが嬉しいと、彼はそう言うのだ。


 「僕の名前は、掛川学。二年A組です」

 そう名乗った彼、カケカワマナブ君はどうやら隣のクラスだったようだ。因みに私はB組。


 「……篠嵜恵子です」


 「……知ってます」


 ……それもうか。


 こうして、私に人生初の彼氏が出来たのであった。

 お付き合いから生じる恋愛もあると、何かの本に書いてあった。本当にそうなのかは分からない。分からないから、とりあえずはお付き合いをするのだ。

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