第二章 序幕
「愛がない故に美しい……美しさがない故に……愛がある!」
『殺し屋1』山本英夫
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【Abnormal paraphhilia】……異常性癖と呼ばれるそれは、その名の通り世間一般の性癖とは大きく掛け離れたものを指し示す。
素人知識だが、大きな乳房が好きとか、脚部が好きとか、筋肉が好きとか、臀部が好きとか、そう言ったものが一般的な性癖ではないかと思う。
対して、私の知る限りの異常性癖とは、往来で自らの裸体を晒す行為が好きだったり、自分の性とは異なる仕様の衣服を着用するのが好きだったり、自らが入り込んだ椅子の上に美女を座らせる事が好きだったりと、考えたところでおよそ思い付きもしないものだ。
人間という生き物は、進化の過程で『社会性』を発達させて来た。家族、親族、友人、クラスメイト、同僚、出身地、国。人間はその大小様々な単位の社会に身を置いて、協力し合い己を守って生きて来た。
しかしその社会に置いて、必ずしも全員が同じ方向を向いている訳ではない。友人の中でも、ノリの合わない者、相性の悪い者は存在する。クラスメイトの中でも、行事に非協力的な人物は存在する。会社だろうが国だろうがそれは同じで、必ずハミ出し者というのは存在するのだ。
そんな者達を排斥しようとする感情は人間の本能であり、仕方のない事なのかもしれない。だけど、私達人間は考える生き物だ。自分と違うからと言って、向いている方向が違うからと言って、考えなしに否定して攻撃して追い出して……そんな事をして良い訳がない。
意図して逆の方向を向いている人も中には居るだろう。でも、中には生まれ付き別の方向しか向けない人も居るのだ。
そんな人達の感情に共感する事は出来ないかもしれない。だけれど、話を聞いて理解に努める事は出来るのだ。理解して、寄り添う事だって出来るのだ。
これは、私が高校二年生の初夏に覚えた事の一つだ。
私の名前は篠嵜恵子。ひょんな事から、この初夏に始めたアルバイトで様々な異常性癖者と出会う事となった。
これは、そんな異常性癖者達の物語。
まずは、【サディスティックチンピラマゾヒスト】と、【アニマルセ⚫︎クス博士】の話をしよう。