表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/53

第一章 どうして

 私の母は、真面目で融通の効かない、ちょっと面倒な人だった。

 身内の目から見てもしっかりとした人だと思う。父は仕事であちこちを回っていたから、私の世話は殆ど母の役割だった。

 幼い時分に、私にも友達っぽい人は居た。

 でも、友達にはなれなかった。

 母には口癖が幾つかあった。


 「普通の、まともな人間になりなさい」


 「普通ってなあに」

 その時私は母にそう尋ねた事をよく覚えている。それに対して彼女は、「普通は普通よ」としか答えられなかった。


 「あの子の家は親御さんが……」「あんな乱暴な子と連んじゃダメ……」「もうちょっとちゃんとした子と友達になりなさい」

 私の遊び相手を見て、母はよくそんな事を口走っていた。

 もう名前も思い出せない同級生の彼らは、別に悪い子達じゃなかったと思う。普通の、普通の人間だった。

 結局、母の言う「普通」とやらが分からないまま、私は友達を作るのを諦めた。

 友達を作ろうとしても、母に否定される気がして、それが怖くて、だったら初めから友達なんて居なくてもいいかって……そう思ったのを今でも覚えている。

 次第に他人への興味も、物事への興味も無くなって……いや、無くなったフリをしていたのが、そのうち本当にそうなって、何となく生きるだけの装置になった。

 程々に勉強して、程々の学校に進学して、程々の企業に就職して、程々の、普通の人生を歩むんだと思っていた。

 でも、違った。

 中学の二年生くらいになった時に母に言われたのだ。

 「そろそろ友達の一人くらい連れて来たら?普通の子みたいに」と。

 気が付くと、私は普通の女子中学生ではなくなっていた。

 元々生まれ付き口数は少なく、表情も乏しい気難しい質だったと思う。

 だが、友人と呼べる者は一人もおらず、趣味も、好きなものもない空っぽの人間になっていた。

 人に興味が持てない、空っぽな人間になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ