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2. 廃課金


ーーこうしてバカバカしい前世の生涯を終えた俺は、気が付くと見覚えのある階段を上っていた。見上げるとそこには壮麗な黄金の門が、扉を開いて俺を迎え入れようとしている。

神々しい光景だが、あまりに既視感が強すぎてさほどの感動はない。なにしろこのシーンを三百回もスキップしたんだから。

間違いない。これはあの大爆死ゲー、天界恋奏ティアピュリカのガチャ演出だ。どうやら未練のあまり、昇天先の天国を間違えたらしい。

門が近付くほどに胸の高鳴りを抑えられないのが腹立たしい。あれだけ裏切られて、俺はまだこの門の先に何かを夢見るのか?いい加減に目を覚ませ。望みなんか持つな。手に入るはずのない天使にこれ以上執着して何になる?

どうせこの先に待っているのはーー


「天界恋奏ティアピュリカの世界へようこそっ!さまよえる魂さんっ」


脳天気な満面の笑みを浮かべ、こちらに両手を広げる聖天使マノン。ゲームのチュートリアルガイド役として最初に出会うマスコット的キャラであり、全キャラの中でも屈指の人気を誇る童顔巨乳ドジッ娘あざカワ天使というポジションだが、俺がコイツに対して抱く感情はただ一つ。「コレジャナイ」だ。


何度コイツを引いたことか。なんならレア枠の五、六回に一回はコイツだった気がする。極めつけにあの最後のSSS演出。今度こそはと散々期待を持たせておいて、ジャジャ〜ン、私で〜すと言わんばかりのあのドヤ顔。思い出すと発狂しそうになる。三千枚のガチャで俺が引いたSSSはたったの四枚。そのうちの三枚がコイツだった。顔を見るだけで(はらわた)が煮えくり返る。


「ぅぼああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


マノンと目が合った瞬間、俺は獣のような咆哮を上げて全力で殴りかかっていた。


「ええぇぇぇぇっ!?ななななっ、なんですか突然っ!!?」


突然錯乱した異常者の襲撃を受け、怯えて身を竦める聖天使。

女子の、それも天使の顔面を本気のグーで殴打するのは人道に反する所業かもしれないが、俺だってあれだけ鬼畜な仕打ちを受けたんだ。別にコイツが悪いわけじゃないってのはわかってる。だからどうした?逆恨みですが何か?八つ当たり上等。理性なんか前世に全部置いてきた。俺はこいつに一発ブチ込まなきゃ気が済まねぇんだよぉぉぉっ!!!


「ほっ、聖なる護りホーリー・プロテクションっ!!」


天使の防御結界が俺の突進を阻む。おのれ往生際の悪い!


「いいから大人しく一発ヤらせろぉぉぉぉっ!!」


ああいや、変な意味じゃなく。通常攻撃(素手)を一発、ね。俺は根性で結界を突き破り、なおも復讐の手を伸ばす。


「ひっ……イヤぁぁぁぁぁっ!!」


「逃がすかぁぁぁぁぁぁっ!!」


掴みかかり、華奢な肩をガッシリ捕まえる……はずの手が、僅かに届かず空を切り、その下の別のモノを掴んだ。


ムニュンッ


手のひらに感じる柔らかさと弾力のベストバランス。思わず一瞬怒りを忘れ、我に返る。


「………E。いやFか?」


ムニュムニュン


「ふぇっ?!……あっ……きっ……きゃあああああああああああああああっ!!!!」


何か硬くて重いモノが俺の顔面にメリ込み、頭蓋が砕けるのを感じた。このあざといロリ巨乳キャラが標準装備している魔法少女のステッキ風ファンシー鈍器の一撃。顔面に向かってフルスイングとは天使にあるまじき所業だ。俺はロケット噴射のごとく鼻血の軌跡を残しながらはるか上空まで吹き飛び、跡形もなく消滅した。


ーーこうしてバカバカしい前世の生涯を終えた俺は、気が付くと見覚えのある階段を上っていた。見上げるとそこには壮麗な黄金の門が、扉を開いて俺を迎え入れようとしている。

神々しい光景だが、あまりに既視感が強すぎてさほどの感動はない。なにしろこのシーンをちょっと前に見たばかりだ。

幸い門はまだ開かれたままで、その向こうにふくれっ面の天使が仁王立ちしていた。


「………………天界恋奏ティアピュリカの世界へよくもまた現れやがりましたね性犯罪者さん」


「いや誤解だ。無駄にいいモノ持ってるが、俺はお前にもお前の無駄肉にも用はない」


「なっ……」


天使は頬を膨らませて再び鈍器を構え、俺は間髪入れずに土下座した。それはもういい。シャレにならん。


「今度あんなコトしたら地獄に落としますよ!」


「わかったわかった。で?俺はなんでここにいる?はっきり言ってあの門もお前の顔も金輪際見たくないんだが」


「さっきからなんでそんなに私に当たりが強いんですか!私に何か恨みでもあるんてすか!」


ついさっき俺の前世を終わらせた鈍器フルスイングも含めて恨みつらみを言い始めたらキリがないんだが、まぁ言っても仕方ないし話が進まない。そんなことより俺は理由が知りたかった。なぜここにいるのか。このクソゲー世界で俺に何をさせようってんだ?三千枚のガチャチケットをことごとく失ったこの俺に、これ以上どうしろと?


「いいですか?あなたはこれからこのティアピュリカ世界に転生し、新しい人生をスタートするんです。どんな才能や特徴を持って生まれるか、ここではその大事な初期ステータス決定を行います」


知ってるよ。まず職業(ジョブ)選択だよな。たしかランダムで選択可能なジョブが表示されるはずだが……


「あ、待ってください……あなたのジョブはもう決まっているみたいです。本来この世界には存在しない特別なジョブみたいですよ?凄い!こんなこと初めてです!」


ガイドブックを開きながら天使が興奮気味に言う。なんと、まさかこの俺にそんな展開が待っていようとは。これはアレか?異世界に転生したらトントン拍子にチートスキルが手に入り、何の苦労もなく魔王を倒したり国を救ったりしてみんなから尊敬され、美女が俺を取り合ってウハウハなハーレムで一生幸せに暮らしました的なよくあるやつか?

俄然期待が高まる。この世界でたった一つだけの特別なジョブって、一体何なんだ?


「ちょ、ちょっと待ってくださいね…………ここだけ異世界の文字で書かれてるので、どう読んだらいいのか…………えぇっと、ハイ………カ?………この字は何でしょうか………」


ハイ………ってことはハイプリーストとかハイウィザードとか、何かの上級職ってことか?どっちかっていうと剣士や武闘家みたいな肉体派のジョブよりも魔法系がいいな。楽そうだし、派手でカッコいいし。


「あっ、ありました!ここに説明が書いてあります……えーっと、このジョブは行動の結果すべてがガチャで決定される特殊な仕様です。財力に物を言わせてガチャをたくさん回せば回すほどすべてがうまくいき、激レアを引き当てればどんな望みも思いのまま………やりましたね、素晴らしいジョブじゃないですか!おめでとうございます!あなたのジョブは………ハイカキンです!」


「廃課金は職業(ジョブ)じゃねえっ!」


ナメてんのか。それじゃ前世……いや、前前世と何も変わってねぇだろ。行動の結果すべてがガチャで決まるってどういうことだよ。俺のガチャ運がゴミカス以下ってお前知ってるよな?天使に怨念のこもった目を向ける。


「し、知りませんよそんなのっ」


ティアピュリカ(このゲーム)ではジョブが決まると自動的に能力値(アビリティ)異能(スキル)が決まるシステムになっている。廃課金って何ができるんだ?祈るような気持ちでステータスウインドウを開いてみる。


攻撃力1

防御力1

素早さ2

賢さ2

幸運−99

HP6

MP7


……思った以上にゴミだった。ちなみに全ジョブの初期アビリティの平均値は10だ。HPとMPは20。


「な、何をやっても結果はガチャ次第なんですから、能力値は関係ないじゃないですかっ」


チュートリアル天使も、おそらく初めて目にしたであろう惨憺たるゴミステータスに表情を引きつらせながらフォローにならないフォローを口にした。そのガチャが問題だっつってんだろ。この幸運値を見ろ。説得力ありすぎてぐうの音も出ねえわ。

スキルはどうだ?どうせろくでもないゴミスキルなんだろうが、使い方次第でどうにか……


泣きの一回(ワンモア・チャンス)

所持金がゼロになる代わりにガチャを一回引き直せる。


最後の一回(ラスト・チャンス)

HPが1になる代わりにガチャを一回引き直せる。


スペシャルスキル「越えてはいけない一線(デッド・ライン)

状態異常(バッドステータス)「多重債務」になる代わりにガチャを一回引き直せる。


……破滅の匂いしかしねえな!多重債務って、ファンタジー世界にそんなドス黒いバッドステータス要るか?生まれ落ちる前から最悪の負け犬人生が手ぐすね引いて待ち構えてるようだ。


「持って生まれた能力だけが全てじゃないですよ!人生には色々あるじゃないですか、ホラ、地道な努力とか、時の運とか、人の縁とかっ」


懸命に綺麗事を並べ立てる天使を冷ややかに見つめる。努力が報われず、時の運が無くて想い人との縁に恵まれなかった結果、前前世に別れを告げて今ここにいるわけだが。他に何かあるか?


「えと、えぇっと……………お金とか?あ、ホラ、次のガチャですよ?」


そういや所持金や初期装備も普通はジョブによって決まってるんだが、廃課金はそれもガチャで決めるらしい。もはや嫌な予感を通り越して嫌な確信しかない。


まず所持金ガチャ………ハイ出ました「一文無し」!じゃあ早速だが心置きなく「泣きの一回(ワンモア・チャンス)」を使わせてもらおうか。なにせハナから所持金はゼロだからな!


引き直しの所持金ガチャ………「20G」

まあゼロよりマシだが、正直かなり心許ない。「最後の一回(ラスト・チャンス)」に賭けるか?いや、やめておこう。一文無しに逆戻りする未来が見えすぎている。最悪、生活保護(ログインボーナス)だけでも生きていけないことはない。


あとは初期装備だ。剣や鎧なんて贅沢は言わない。さすがに服ぐらいは着させてくれ、頼む。

心の準備をする間もなくガチャが回り始める。

ん?なんか急に周りが明るくなったぞ?キラキラ光のシャワーみたいのが降り注いでくる。


「これは高レアガチャの演出です!やりましたねっ」


天使が指差す天上から、羽衣のような薄衣がヒラヒラと降ってきた。まばゆい黄金の輝きに包まれている。こ、これは…………


SSレア「攻めすぎな水着」(女性専用、装備不可)


着れないんかい!

こんな紐みたいなバカ水着でも能力の足しになるなら迷わず俺は着るんだが、装備不可じゃどうしようもない。服ぐらいは着させてくれが見事に前振りすぎて自分を呪いたくなる。

俺は泣く泣くSSレアを諦め、スキル「泣きの一回(ワンモア・チャンス)」を発動させた。生まれ落ちる前に残りHP1って。

で、引き直しの装備ガチャはというと……


Sレア「ビキニアーマー」(装備可能)


いやこっちは着れるんかい!

……まあ胸当ての一種といえないこともない、か?どう見ても胸と股間以外守ってない意味不明な鋼鉄のビキニだが、一応Sレアだけあってなぜか防御力は高いし、オマケに普通の剣(ノーマルロングソード)も付いてて攻撃力もアップする。この際着れるなら何だっていい。多少奇異の目で見られたとしても、素っ裸で街を歩いて捕まるよりはマシだ。


「そ、そんなに違和感ないですよ?意外と可愛くないこともない……かも……」


笑い堪えてんじゃねえ。もう一回揉むぞ無駄肉。

天使は慌てて俺から距離を取り、両手で胸の前をガードしながら早口でデフォルトのナレーションを読み上げ始めた。


「さあこれで全ての準備が整いました!いよいよこのティアピュリカの世界であなたの新しい物語が始まります!どんなステキな出会いや胸躍る冒険が待ってるか楽しみですねっ!」


いや早口すぎるだろ。目をそらすな。こっち見ろ。心にも無いこと言ってんじゃねぇぞ。


「それでは良き人生をっ!フルフルピュアハート・フィルユーアップ!(ピュアハートいっぱい買ってね!)」


謎呪文とともに俺の体が光に包まれ、どこかに運ばれてゆく。それCMのキャッチフレーズで使ったら課金煽ってるって炎上したセリフだよな?待てやコラ、誰がこんなクソゲー世界に転生するかよ!ふざけんな!何が廃課金だ!俺はもう二度と課金はしないって誓ったんだよっ!!


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