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 全てが壊れたのは、あまりにもあっけなくだった。


 この日、僕たちは無駄に露出している魔族と戦っていた。

 魔族はさほど強くなかったので、追い詰めるのは容易だった。


 慢心していた。それが命取りになるとわかっていたのに。

 露出狂の魔族は、僕に手を向けて何かを叫んだ。


 露出狂の手から光が放たれる。


 ま、まずい。


 とっさに、近くにいたマジカを盾にしようと思った。


 しかし、それよりも先に肉の壁の役割をマジカは果たしてくれた。


「ランスロット!危ない!」


 マジカは僕の前に飛び出した。直後、光に包まれた。


「ふははは!」


 露出狂は、笑いながら消滅した。


「マジカ!大丈夫か!」


 マジカの光はすぐに消えた。

 見た目も変化はなさそうで、僕は安堵した。

 しかし、マジカの悲鳴を聞いて僕は眩暈を覚えた。


「な、なんで、どうして!?」


 マジカの声は明らかに高く。変声期前の少年のような声をしていた。

 よく見ると体が縮んでいる。

 そんな事よりもマジカの戸惑う様子に、僕は不安になった。


「ぼ、僕、女の子になってしまったようなんだ」


 マジカは股間を押さえて叫び出した。

 よく見ると胸が少しだけ大きくなっている。


 僕はレオンと顔を見合わせた。


 どうやら、露出狂は淫魔だったようで、性別逆転の呪いを死ぬ間際に、最後っ屁のように僕にぶちかまそうとしたようだ。許せん。


「ランスロットが女にならなくて良かった。僕、恋人なんていないし、たぶん、そういう機会もないから別にいいかなと思って」


 マジカは、強がりなのだろう。そう言って微笑む。


 僕は、絶対にマジカを元に戻してやろうと心に誓った。


「……僕が絶対にお前の呪いを解くからな」


 淫魔の潜伏先を見つけると、そこにあったのは膨大な量のモテテクの書物だった。

 中身を確認したい衝動に駆られて、それを抑えながらマジカの呪いを解く方法を探したが、残念ながら見つからず。


 僕はそれを誰にも気づかれないように亜空間の中に入れた。


「やはり、呪いを解くヒントはないのか……」


 マジカはどこか諦めた様子で呟くのが聞こえた。

 マジカを気の毒に思いつつも、僕は手に入れたモテテクの本が気になってしかたなかった。

 イザベラのスパダリになれるかもしれないからだ。


 だから、気が付かなかった。


 マジカが女になってから、レオンがどこかよそよそしくなっていることに。


 ラブストーリーは突然だった。


「何から伝えればいいのか……、俺、マジカの事が好きになってしまった」


 いつものように、三人で次はどの敵を倒すのかテントの中で話し込んでいると、唐突にレオンが切り出してきた。


「マジか……」


 無意味で意味不明すぎて、思わず呟いていた。


 マジカもマジかという表情をして、レオンの事を見ている。


「な、なんで、僕がいいの?」


 マジカの恐る恐るの質問に、レオンは頬を赤らめて口を開いた。


「ずっと、運命の相手を探していたんだ。でも、見つからなかった」


 お前、女性不信だっただろ。行く先々で声をかけてくる女性にビビってただろ。

 結構人気あったの知ってるんだぞ。


「俺の運命の人はすぐ近くにいたんだ」


 レオンはマジカの手を握りしめた。

 マジカの顔からどんどん血の気が引いていく。

 そりゃそうだ。コイツ、ブツは失くなっても男だし。


 異性愛者なのに同性に好きって言われたら、ちょっと怖い。レオンの身体が大きいのもそれに拍車をかけていると思う。


「俺の運命の相手は君だ、マジカ」


 ……お前、女性不信すぎて近場で見つけただけだろ。

 僕はそう思ったがあえて口にはしなかった。


「落ち着いてよ。レオン」


 マジカは必死になってレオンを窘める。


「ずっと、気がついてた。長い前髪の下にある青い目がすごく綺麗な事。実は綺麗な顔してる事。ランスロットの役に立ちたくてこっそり魔法の特訓してる事」


「……レ、レオン!」


 マジカは少し嬉しそうな顔をしていた。

 チョロいなこいつ。


「俺は、お前のそういうところ、好ましく思っていたんだ。だから、俺を受け入れてほしい」


「い、いや、いやいや、落ち着こう」


 マジカは壊れたおもちゃのように「落ち着こう」と何度も言い続ける。


 正直、僕はうんざりしていた。

 レオンは、女なら何でもいいという状態なのだろう。軽く女性不信になりかけているし。


 ……止めるべきだとわかっているが、夢なら見てから醒めたほうがずっと現実を知る事ができるかもしれない。


 マジカと一度二人きりで話し合った方がいい。

 正直話についていけない。


 それに、マジカは、身体は女になっても心は男のままだ。

 話し合えばきっとわかるはずだろう。


「二人で話し合った方がいい。僕は席を外す。ここを使うといい」


 僕は言うなりテントから出て結界を張った。

 それがどんな結果になるのか考えもせずに。


 正直、二人のことよりも淫魔のモテテクの本が気になって仕方なかった。

お読みくださりありがとうございます


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