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絶対に仕事はしたくない!

 な、何が起きたの?一瞬過ぎて何が起きたのかわからなかったけど、とてつもない轟音を聞いたのは確か。雷のような轟音。

 まさか雷に打たれたなんてことはないと思うけれども、いや、打たれてもおかしくないかもしれない。打たれていなかったらこんな鬱蒼とした森の奥にいるわけないし。

 さっきまで道路を歩いていたよね!?なんでこんな森の中にいるわけ?


 徹夜明けではやく家に帰りたかっただけなのに。睡眠不足のためか、超巨大なペリカンみたいなものが見えてきた。

 なぜかこのペリカン青色だし、ペリカンのくせして爪があるし、たぶん幻覚。でもなんか足音するし「ケンケン」って変な鳴き声で鳴いているし。


「とりあえず、落ち着け」


 雷に打たれたとして、今私は死んでいるかもしれないし、気絶して病院で意識不明かもしれない。死んでここにいるというのは意味が分からない。だって生きてたままの雷に打たれたままの姿だから。

 だとしたら、私は多分気絶している夢の中にいる。それなら、ここでこのペリカンに食われようとも痛覚もないし、死ぬこともない。


「夢と分かったからには、怖くはない。なぜならば、この世界の創造主は私だということだから」


 ペリカンが余裕をかます私の腕をついばんできた。皮膚に衝撃が走る。


「痛!」


 腕を見てみると来ていたスーツが破けて、血が地面に滴っている。

 嘘嘘嘘嘘。これ、私生きてるじゃん。いや、でももしかしたらこの血は鉄の味がしないかもしれない。病院で誰かが私の腕を掴んでいるのかもしれない。

 軽く腕の血を舐めてみる。


「鉄の味じゃん。まず」


 完全に私、この世界に生きてる。ということは必然的にこのおかしなペリカンは存在している生物で、私を殺す死の兵器。


「嘘でしょ…」


 詰んだ。こんなおかしな生物に勝てるわけない。カバンも何もなくなってしまっているし、なにも道具を持っていない。それにこの森の中、命が助かる道具なんてあるわけないだろうし。


 おかしな鳴き声のまま、距離を詰めてきて、今にも私のことを襲おうとしている。ぎょろぎょろと無駄に大きくて焦点の合わない目、私なんて一口で食べられてしまうほどに大きい嘴。羽も、何もかも私を恐怖のどん底に陥れるには容易すぎる。


 終わりだ。私は死ぬんだ。こんなおかしな生き物に。


パァァン!!


 銃声?すごく伸びの良い銃の音。目の前の青色のペリカンはその音を聞くなり、周りを見渡して、どこかへ走り去っていった。

 無意識に入っていた力が抜け、後ろにあった木に背中を預け座り込んだ。木々の木漏れ日、程よく吹く風その風に乗って聞こえてくる獣の叫び声。


「そこに誰かいるのか?」

「い、います!います!助けてください!」


 それでもすぐに力の抜けていた足に力が入り、手を大きく振った。木の陰から出てきたのは白髪の青年だった。二十歳ぐらいの若者。フィンランドとか、アイスランドとかに居るような、イケメン。手には見たこともない銃。

 その隣に灰色の毛をした、大きな狼。


「大丈夫か?なぜここにいる」

「なぜって、私もよく分からないんです。仕事の帰りに雷に打たれたら、ここに居て」

「なんだかよく分からないから、僕の家まで来てくれ。山を下りたすぐそばだから」


 彼は多分目が見えていない。私と全く目が合わないし、木々や草をわざと手で触りながら近づいてくる。


「ここは危ない。早くこっちに」


 手を伸ばそうとしたのだけれども、なんだか前が良く見えない。彼が伸ばす手がぼやけて、二重に見える。どんどんとぐるぐると視界が回っていく。頭の中がかき乱されていくよう。


「ありがと…ござい…」


 高校受験に失敗して、大学だっていいところへは行けなかった。特になりたい職業もなくて、ただ何となく人と同じように、高校に進学して、大学に進学して、いつの間にか就職していた。友人もいれば、先輩との関係も良好だった。

 だけど仕事はあり得ないほどに辛かった。先輩が残業していれば、私も残業して、飲みにケーションと題して、居酒屋に連れていかれて。


 高校や、大学でのコミュニケーションが通用しなくなった。年上の人とのコミュニケーションはまた違うやり方だった。

 だから疲れた。先輩に、上司との、かみ合わない話。労働基準法を無視したブラックな仕事内容。それがとにかく辛くなってしまった。生きるということがこれほどに大変で、お金を稼ぐ大変さが身に染みた。


「異世界人か。ありえなくはないけれども」


 そんな彼の言葉が聞こえてきた。

 異世界?異世界転生?


 え!?異世界転生?は?んなことあるわけないでしょ!それって漫画とかアニメとかの話でしょ!異世界転生なんて非現実的なことあってたまるものか!これはただの夢、雷に打たれたのだってたぶん夢!


「異世界なんてあってたまるか!!」


 視線の中に見えるのは天井と天井に向かって腕を伸ばす私の手。右を見ると、私の声に驚いた白髪の男性が目を丸くしている。


「うそぉん」


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