ミズカネ
レビュー執筆日:2021/7/14
●突き抜けるほどのポップなメロディと、一筋縄ではいかない実験性を合わせ持つ傑作。
【収録曲】
1.低迷宮の月
2.ラストソング
3.オレンジテトラポット
4.ポルツ
5.おいしいパン食べたい
6.グッドパエリア
7.氷に似た感応
8.創造的進化
9.マザー
10.伝言
11.沈黙 (月まで響くような彼らの幻灯)
12.名前の無い色
13.いわし雲
今から10年ほど前、動画サイトで視聴した『伝言』が印象に残って、それをきっかけに当時の彼らの最新作である今作を聴いてみたのですが、その完成度の高さに驚いたのを今でも覚えています。
今作を語るうえでまず欠かせないのは、「突き抜けるほどのポップなメロディ」でしょう。決して勢いに任せることなくしっかりとメリハリを付けて丁寧に綴るメロディラインは非常に良くできていますし、それによって『低迷宮の月』においてはファンタジー性、『マザー』においては暖かさ、先程挙げた『伝言』においてはメッセージ性……等といった様々な要素が歌詞とともに上手く増幅され、しっかりと芯の通った「ドラマ性」を持った楽曲が仕上げられているように感じられます。
また、所々で実験的な面を強調させてくるのも面白いところ。『ポルツ』では2番になると急に歌い方が変わりますし、『グッドパエリア』は牧歌的で楽しげな雰囲気で始まったかと思いきや途中でパンク調になるのが非常にユニーク。『創造的進化』は同じフレーズをループさせてダークで不可思議な空気を醸し出すダンスナンバーになっています。こういった楽曲をアルバムの流れを崩さないように上手く配置されているのもさすがと言えるでしょう(例えば、続けて収録されている『創造的進化』と『マザー』は曲の雰囲気はかなり異なりますが、『創造的進化』の終盤にピアノソロを入れることによって上手く繋いでいるように感じられます)。
どうやら彼らは当初は「青春パンクバンド」みたいな感じでデビューしたようなのですが、そのイメージとは大きく異なる複雑さを持ち、そうでありながらも突き抜けるほどのポップな面も持ち合わせた傑作。藍坊主というバンドはそこまで大きくブレイクしているというわけではありませんが、それにもかかわらず、「ブレイクしたバンドがその勢いに上手く乗ってリリースした完成度の高い作品」を聴いたかのような印象さえ抱かせるアルバムでした。
評価:★★★★★