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第97話

街にある仕立て屋に着いた一行。

銀貨30枚くらいのものから金貨数枚のものまで、様々なドレスが飾られている。


「わぁ!素敵なドレスがありますね御主人様!」

「まあ金貨一枚くらいしかないから大したものは買えないかもしれないけれど・・・」

「私なんかには十分すぎます!」


そう言ってサンが目を輝かせる。

ドモンがあーでもないこーでもないと指を差し何着かを選び、サンを試着室へと行かせた。


「やっぱり私もドモンが選んだ服が欲しい・・・」

「だからお前の胸が入る服がないんだって言ってるだろ。自分のスキルを考えてみろ。永遠の巨乳美女だぞ?」

「一体それは何に役立つスキルなのよ」

「知らねぇよ。ずっと巨乳美女のままなんじゃねぇか?俺は嬉しいぞ」

「そ、そう?ドモンが嬉しいなら私も嬉しいけど」


会話をしながらつんつんとナナの謎のスキル部分を指で突いて遊ぶドモンが「こらっ!」と怒られる。

そうこうするうちに「どうでしょうかぁ?」とサンが試着室から出てきた。


店員が「うおっ!」という叫び声を思わず出してしまったが、ドモンは渋い顔。

まるで天使が地上に遊びに来たような風貌であったが、ドモンの趣味ではなかった。

次から次へと試着を繰り返すも、やはり一流の店の物とは雲泥の差があったのだ。



「うーん、どうもイメージと違ったな」

「申し訳ございません御主人様・・・」

「いやサンが悪いんじゃない。やっぱり最初にメイド服を見て可愛いと思っちゃったから、メイド服のイメージが抜けないんだよ。俺の頭から」

「私はメイド服で結婚式に参加でも構いません!」

「じゃあ最後にこれを着てみて」


ドモンがそう言って渡したのは黒のドレス。


「ドモン、あれって誰かが亡くなった時とかに着るやつじゃ・・・」

「いやなんかサンって黒の服のイメージだから。メイド服もそうだし」


しばらくしてサンが試着室から出てくる。

黒のドレスはやはり似合っていたが、どう見ても葬式の恰好であった。


「うーん・・・よし!これを買う!」

「ほ、本当に?!」焦るナナ。


「店主、ちょっと・・・」

「えぇ?!ほ、本当にそんな事を?!」


ゴニョゴニョと店主と相談したドモンが、サンが着ていたドレスを持って店の奥に向かった。

ドモンが先に出てきてしばらくした後、青い顔をした店主がドレスを持って出てくる。


それは袖と背中の部分がごっそりと切り取られた、布面積が少なすぎる黒のドレスであった。

いわゆるハリウッド女優達の「これは・・・ノーブラなのか??」と毎回思う、大きく背中の開いたドレスをイメージして、ドモンがハサミで思い切ってジョキジョキと切り取ってしまったのだ。


「ど、どうやって着るのよこんなもの・・・」ナナも思わず疑問に思う。

「そんなの上半身裸になって着るんだよ。下着は着けるなよサン」

「ふぁ、ふぁい・・・」


ふぅふぅというサンの荒い息遣いが試着室から聞こえた後、カーテンが開きサンが出てきた。

その瞬間、店主が一番に感嘆の声を上げる。


「うおおっ!!う、美しい!!!」


ドモンとナナは絶句し、息を呑んだ。

まさに黒の天使。黒翼の天使。


「ドモン欲しいよ・・ねえドモンずるいよ!!」

「ナナじゃ着れないってば。仕方ないだろ」


ナナが着ると胸の部分が過剰に浮き上がってしまうので、どうしても似合わないのだ。


「は、恥ずかしいです」

「そんなことはございませんよお嬢様!大変お綺麗です!!」


恥ずかしがるサンに思わず声が出る店主。

そしてサンをドモンとナナの娘と間違えていた。


「いやぁ少し私は混乱しております。いやぁ・・・」


仕立て屋の店主は心底驚いた。

買ったドレスをドモンが切り取りだした時には、頭がどうかしていると思ったのだ。


だが実際に着ている姿を見ると・・・落ち着いているのに華やかで、清楚でありセクシー。

心臓の鼓動が速くなる。


「これお金出すから切った部分を綺麗に仕立て直してほしいんだけど、来週まで急ぎで出来るかな?」とドモン。

「やります!仕上げてみせます!お代は結構でございます!」

「いや流石に悪いよ」

「その代わりと言ってはなんですが、このようなドレスをこれからこちらで作っても宜しいでしょうか?」

「それはもちろんかまわないけど」

「あ、ありがとうございます!・・・ありがとうございます!!!」


後に王族や貴族、歌手や女優などからも愛される事になるブランドが誕生した瞬間であった。



すっかり日も暮れた帰り道。

ナナがドモンの左腕に絡まり、サンがドモンの右腕の袖をつまみながらゆっくりと歩く。


「御主人様、ありがとうございます。なんだか夢みたいです」

「それは良かったな」

「いいドレス買ってもらったわねサン。私羨ましいよ」

「えへへ。奥様申し訳ございません」

「いいのよ」


サンは本当に夢のようだと思っていた。

何年も笑うこともなかった自分が、今、一日に何度笑っているのか数え切れない。

もちろん主人であるドモンの体調のことも心配だ。

だけどそれを乗り越えてしまうほどの幸せが、次から次へとやって来てしまうのだ。


「あ、あの御主人様、奥様・・・」

「どうしたのサン?」ドモン越しにサンの顔を覗くナナ。

「私は欲張りになってしまったのかもしれません」

「どういう事?」


ナナと一緒に不思議そうな顔になるドモン。


「いつかでいいのです。今じゃなくてもいいのです。いつか・・・私にも御主人様のお情けを頂きたいのです」

「そ、それってまさか・・・」

「あ、ち、違います!そういう意味ではなくて・・・あの・・・御主人様の口づけだけでもあの・・・頂けたら・・・うぅ」


そう言って真っ赤な顔になったサン。

ドモンとナナが顔を見合わせ、大いに笑った。


「あんたね、本当に覚えてないの?」

「な、何がですか?」

「今朝お酒飲んで酔っ払って、座ってるドモンの上に跨って思いっきり口づけしてたわよ。ぶっちゅーって。引っ剥がすの大変だったんだから」

「!!!!!!!!!」


「う、うそ・・・」と両手で顔を覆い隠すサン。

「嘘じゃないわ。正面からドモンの首に手を回して『あのねぇ・・・だーいすき。御主人様も~サンの事を~だーい好きになぁれ!ね?御主人様?』って甘えながら、何度も何度もチュッチュチュッチュ・・・」とサンの真似をしたナナ。


「ち、違います!!」

「違わなくないわよ。ドモンに抱きつきながら『サンは悪い子だからお仕置きして欲しいの』ってみんなの前で言っちゃって。ね?ドモン」

「うわああああああああああ!!」


その場にしゃがみ込んで動けなくなるサン。

薄っすらと頭の奥底にある記憶が呼び起こされ、羞恥で気絶しそうになる。むしろ今すぐに気絶してしまいたいと思った。


サン、生まれて初めてのお酒で大失態。

グスングスンと泣き出したサンの横にしゃがんで肩に手をかけ、「大丈夫よ」とナナが声をかけた。


「どうせドモンがサンのことも貰ってくれるんだから平気よ平気」


ポリポリと頭を掻いたドモンが「まあな」と苦笑した。

「うぅ~でもぉ~」と困惑しつつ、サンはやはり頭がどうにかなりそうになっていた。また幸せが何もかもを上回ってしまったからだ。



「・・・にしたってナナはもっと酷かったんだからな?」とドモン。

「私なんかした?」

「お前、サンのことでやけ酒飲んで酔っ払って、子供達の前で服を脱ぎだしたんだぞ」

「う、嘘?!」

「あ~おしっこしたいって店の中で下も脱いで裸になって、みんなに向かって立ったまま脚を広げて『見てて~』って」

「やだやだ!嘘でしょ?!」


ナナもしゃがみ込んで頭を抱える。


「嘘だよ」

「ちょっとあんたぁ!!」

「でも裸にはなってたぞ。全部脱ぐ前に慌てて上に連れて行ったけど」

「でしょうね。は、裸で寝てたし・・・サンと」


耳まで真っ赤になるナナ。


「そ、そういえば、なんで私も裸だったのでしょう?!」

「わ、私がドモンと間違って・・・服を引っ剥がしたのよ。それは覚えてる」

「酷いです奥様ぁ!・・・でもなんか私も御主人様と間違って奥様に口づけした記憶が・・・」

「・・・・・された記憶もあるわ」


しゃがみ込んで頭を抱えるふたりを眺めながら「これが俺の女神と天使かぁ」とタバコに火をつけて、ドモンはため息をつき、笑った。






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