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第96話

「なんで俺がこんなもの食わなきゃなんねぇんだよ!真っ昼間から!!」


混雑した店内に、ドモンの悲鳴に近い叫び声が聞こえる。


「貴様が買わせたのだから、貴様が責任持って毒見をしろ!」

「やめろぉ!俺はそもそもキノコが苦手なんだよ!うわぁ!!!」


カールが怪しげなキノコをちぎって、無理やりドモンの口へと放り込む。

口を塞がれ、仕方なくゴクリと飲み込んだドモン。

そのドモンをジロッと睨み続けるカール。そしてヨハンとエリー。


「うげぇ・・・不味い・・・」

「体はどうだ?なにか変化はあるか?」

「ちょっとドモンさん大丈夫??」


への字口となったドモン。エリーが心配そうに声をかけた。


「別にこんなもん毒じゃねぇよ。大体こんなもんが効くなら子供が買えるような値段で売るわきゃないだろ!子孫残したい王族が取引するようなもんだろうが!」

「ふむ、確かにそれはそうだな」

「まったく・・・ん?・・・バカ野郎が・・・ん?」

「どうした?」


カールがドモンの顔を覗き込む。

効く効かないよりも、本当に毒だとしたらまずい事をしたと心配になった。


「いやなんか・・・朝起きて寝ぼけてる時みたいな感じの・・・あ、ちょっと待てまずいぞこれは・・・」


ドモンは気がついた。

元の世界でこれと同じような現象を経験したことがあった。

超有名下半身元気薬のパイヤーグラをいたずらに飲んだ時と同じ感覚だったのだ。


手足や体がゾワッとして鳥肌が立ちそうな感覚に襲われ、朝起きて無駄に元気になってしまうあの時の感覚が延々と続く。

心臓もギュッと締められる感覚。


「ヨハン!エリー!子供らを絶対に二階に上げないでくれ!!ハンバーガーも終了だ!」ドモンが叫ぶ。

「わ、わかった・・・!」ただならぬドモンの様子を見たヨハンも思わず叫んだ。


「カール!お前も今日絶対食えよ!約束しろ!じゃなきゃ今後の付き合いを考えさせてもらう!」

「な、なんだと?!く・・・わかったから早く行け!!」



ドモンが階段を駆け上がり、入れ替わるようにサンが真っ赤な顔をして降りてきた。

十数分後「ん~ふふふん~ふんっふ~ん・・うっふ~ん!ウフフ」と謎の鼻歌を歌いながらやってくる、つやつやすぎる顔のナナ。


「ド、ドモンはどうなったのだ?」とカール。

「今ひとりで水浴びしてるわよ。もうあの人私がいないと駄目なんだからウフフ」ご機嫌なナナ。


「お、お背中を流したりは・・・」とサンが問うも、「あー今は止めておいた方がいいわ。特にサンは・・・・きっと一生バカになるわよ?」とナナが答えた。



「ヨ、ヨハン・・・私、ちょっとキノコ・・・じゃなくて買い物に行ってこようかしら?」

「・・・・」


エリーが真剣な顔をしてそう言ったところで、子供達の迎えの馬車と、二階からぐったりしたドモンが同時にやって来た。


「す、すまぬなドモンよ。まさかあんな事になるとは・・・私も必ず約束を守る」

「カール・・・俺に食わせた半分、いや、半分の半分くらいにしろ。安い理由がよくわかった。食いすぎるとまずいことになる」

「わ、わかった」


馬車の方へと向かうカールにドモンが忠告する。


「みんなもありがとうねぇ」とエリーが子供達を集め、銀貨を一枚ずつ渡していく。

「い、いいわよ!これじゃお礼にならないじゃない!」と女の子。

「いいから貰っとけ。また今度来る時の買い物用に貯めておけばいいだろ。屋敷でも仕事して稼いでおけよ?」とドモン。

「頑張るよ!じゃあドモンさん、結婚式でね」と男の子が最初に馬車に乗り込んだ。


様々な思い出を胸に、子供達は屋敷へと戻っていく。

昨日とこの日のことは、まだこの街が小さかった頃の良き思い出として、この先語り継がれていくこととなった。



「さて、時間もないし俺達もギルド寄ってから、サンのドレスを買いに行こうぜ」

「うんいいわよ」

「はいかしこまりました!」

「じゃあちょっと行ってくる」とヨハン達に告げ、ドモンがナナとサンを連れて歩いてギルドへと向かっていった。


「どうして馬に乗らないのよ?脚大丈夫?」とナナ。

「い、いや・・・今刺激を与えるとさっきのキノコが・・・というか俺のキノコが・・・」と口ごもる。


「あーそれはまずいわね。じゃあ馬連れてくるわ」とナナが笑う。

「お前は俺を犯罪者にしたいのか。お前達だけじゃ済まなくなるぞ。今、理性をなくしたら」真剣な顔なドモン。



歩きながらふとドモンが気になっていたことを二人に聞いてみた。


「なあ、二人のステータスってどんなもんなんだ?」

「そういえば見せてなかったわね。私はHP300くらいかしら?MPは・・・あまりないわエヘヘ」


「氷一回出したらMP切れみたいなこと言ってたもんな。プッ!」

「あんたは最初からMP切れみたいなもんでしょ!もうバカにして!」


ナナのステータスを聞いて笑うドモン。


「私は見たことがないのでわかりません。魔法も基本的な・・・調理用の火起こしとか水魔法とかしか使えません」とサン。

「おお!偉いじゃないか!料理もできるし旅先で風呂にも入れるかもしれないな!」


過剰に褒めるドモンにナナがまたふくれっ面に。


「私だって出来るもん」

「お前は水を出そうとして間違って火を放とうとしたことあるだろ。知ってるんだぞ、馬の飲水出そうとして『ファイ・・・ウォーターボール』って言ったの」


またいつものようにサンのほっぺたがパンパンに膨らむ。


「それに焚き火用にカップルが必死に集めてきた枝に『任せて!ウォーターボール!』ってやって、全て台無しにしたじゃないか」

「フピ~!!」


サンが盛大に吹き出した。

耳を真っ赤にするナナ。



ヤンヤと騒ぎながら、三人は冒険者ギルドへと到着した。

ナナが先頭になり中に入ると「おぉ・・」という小さな歓声が上がり、改めてナナが絶世の美女だったということを再認識するドモン。


続いてサンが中へと入ると同様に歓声が上がった。

私服のミニスカワンピースを着たサンの破壊力は、ナナと引けを取らない。


最後にドモンが中に入ると「プッ」という失笑が聞こえた。


「アハハ!ドモンみんな笑っているわよ!」

「お前ら、店に来た時うまいもん作ってやらんからな!」

「ワッハッハ!仕方ねぇだろ勘弁しろよ!」


ナナとドモンが冒険者と雑談をしている間に、サンが冒険者登録を済ませた。

ナナが慌てて銀貨を一枚出して職員へと渡す。


「じゃあとりあえずサンから見てみようよ。サン、これに手をかざしてみて」

「はい・・・ドキドキしますね。やっぱり使用人とかかなぁ?ウフフ」




レベル 3

職業 黒翼の天使・ドモンの使い

HP 333333/333333

MP 333333/333333

属性 闇・光

スキル 癒やしの光・永遠の美少女

加護 グ▲●■○※ー×ンの加護




「え?」と最初に声を上げたのはギルド職員。

次に「ハァ?!」と声を上げたのはドモンとナナ。

その声に思わず集まってきた冒険者達が「なんだこれは?壊れてやがるぞ?」と笑い出した。


「お前、魔王ですらHPは10万くらいだと聞いたぞ?ワッハッハ」

「天使なのに黒翼なのか?」

「属性が闇と光って・・・ただでさえ珍しい属性なのに、正反対のこのふたつが一緒になってるって一体?!」

「この加護はなんなんだ??グチャグチャっとして全く読めねぇな」


冒険者達が大騒ぎをしはじめ、サンが恥ずかしそうに手を引っ込めた。


「私、壊しちゃったのでしょうか?」と心配そうな顔でドモンの方を見るサン。

ただそれでも『ドモンの使い』と出ていたことをこっそりと喜んでいた。



「一応壊れてるのかどうか確かめるのにナナもやってみろよ」とドモン。

「そ、そうね・・・」


ナナもドキドキとしながら手をかざす。




レベル 7

職業 黒翼の女神・ドモンの妻

HP 7777777/7777777

MP 7777777/7777777

属性 闇・光

スキル 誘惑・魅惑・永遠の巨乳美女

加護 ▲レ■×●デ※M+の加護




「ちょっちょっちょっ!!」ナナが思わず叫んだ。

「何だよこれ??」ドモンも思わず目を見開く。


「お前レベル19くらいって言ってただろ。何だよこの都合のいい7って。サンも3だったし」

「嘘ついてないわよ!本当に19くらいだったんだから!!」


ドモンとナナがぎゃあぎゃあと騒いでいる間、また冒険者達が覗き込んで驚きの声を上げた。


「今度は女神かよ」

「ちょっと待て。今度はHPもMPも一桁多いぞ?」

「誘惑・魅惑・永遠の巨乳美女って・・・プッ!!」

「まーた加護のところが見えなくなってやがる。やっぱりいかれてるんじゃないか?これ」


冒険者達が大騒ぎをはじめたが、「でもドモンの妻ってのだけはあってるわよ!オホホ」とナナが喜びの声を上げた。

サンが「わぁ!」と横でパチパチと拍手をする。


「今ならドモンもHP1億で勇者とかになるかもしれないわよ?」

「楽しみですね御主人様!」

「お、おう・・・」


全員に見守られながら、恐る恐るドモンが手をかざす。




レベル 49

職業 遊び人

HP 74/76

MP 0/0

属性 なし

スキル なし




「うわ!きったね!」とドモン。

ギルド職員の美人受付嬢が、盛大にドモンの顔に向かって吹いてしまったのだ。


「ぬあっはっは!!なんだこれは!!」

「ま、また、あ・・・プッ!遊び人ブフ!!」

「ドモンさん、ここまで歩いてきたんだろ?HPが2減ってるぞ!ククク・・・」

「し、死んじゃう・・・俺もドモンさんももう死んじゃう・・・くぅ・・・」


冒険者達の爆笑が止まらない。

だが・・・


「ドモン・・・HP・・・」

「やっぱり変わらないな。さあサンの登録も済んだし行こうか」

「ねえドモン待っててば!!やっぱりおかしいよ!この前もやっぱりおかしかったでしょ!!」

「そうだな。あの時も壊れてたんじゃないか?」


ポロポロと涙をこぼし、イヤイヤしながらナナは訴える。

サンは何がなにやらわからず戸惑っていた。


「HP・・・前は90以上はあったもの!」

「えっ?」


ナナの言葉にサンが反応し、ドモンの顔を見る。

ドモンは目をそらしタバコに火をつけた。


「ま、まだ何か秘密があるのね!私に隠してる秘密が!うぅ・・・」


ナナは少しだけ察していた。

歩いてHPが減るのは障害がある脚のせいだ。

でも馬に乗っていてもHPが大量に減っていたことがあった。


その時は誤魔化されたけれど、ドモンにはやはり何か病気がある。


「ま、前に馬に乗ってた時、『あ!!』って言ってたのって・・・」

「それはナナのお尻で俺のが擦られて危なく・・・」

「違うわ!違う!嘘はもう嫌!!ウゥゥゥ!!!」


ナナが号泣してしまい、ドモンとサンがナナを支えて冒険者ギルドを出た。




広場の傍にあった長椅子にナナを真ん中にして三人で腰掛け、ドモンがゆっくりと話し出す。

右手でナナの頭を撫でながら。


「いつだったかな?前に俺が父親の話をした時、『ナナが落ち込むようなことはこれ以上ないぞ』と話したけど、あとひとつだけあったかもしれない」

「・・・うん」

「生まれつき心臓が悪いんだよ。閉塞性肥大型心筋症って言ってたかな?心臓の中にある壁が徐々に膨らんで、まあいつか死ぬ。いつかはわからん。治ることもない」

「・・・・・」


「多分すぐにではないから、それは別にいいんだけど」

「良くないわ・・・」

「やっぱりどうしても苦しくなる時があるんだ。心臓が」


ドモンの話を聞き、サンが両手で顔を塞いだ。ナナはうつむいている。


「HPの最大値が減っているのは、恐らく心臓が原因だと思う」ドモンがタバコに火をつける。

グスグスと鼻をすすりながら「・・・タバコはやめないのね」とナナが下唇を噛んだ。


「やめたらきっともっと早く死ぬ。辛いのは心臓だけじゃないからなハハハ」


今度はナナが両手で顔を塞ぐ。

体中にある傷、心の傷、ドモンは傷だらけ。


実際は病気も心臓だけではない。傷だらけの病気だらけ。そして嘘だらけ。

ドモンは食欲が出ずによく食べたふりもしていた。調子が悪い時に食べられなかったのだ。

内臓もひとつ切除している。


それらの苦しみを、なんとかタバコで誤魔化し精神を保っていた。ギリギリのところで。



「さあこんなところで泣いていないで、次はサンのドレスを買いに行くぞ!サンには癒やしの光だかなんだかってのがあるんだろ?それを浴びれば一発で治るよ!」

「・・・はい!」

「誘惑と魅惑と・・・変なキノコでまたHP減るだろうけどな。アッハッハ!」

「・・・もう・・・」



ちなみにこの夜、カールもHPを50ほど減らした。

後日、カールの奥さんからドモンへ感謝状が送られ、例のキノコは貴族達に買い占められることとなった。





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