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第92話

エプロンを付けながら「御主人様、今すぐにお手伝いいたしますので」といそいそ厨房へと向かうサンに、思わずカールも「屋敷に戻る気はないのか?」と素朴な疑問をぶつけてみる。

その質問に少しだけサンが困った顔を見せていると、すぐに子供達が助け舟を出した。


「サンドラは戻らないわよ」

「だってドモンさんと結婚するんだもの」


女の子達がそう言うとサンの顔がまた赤くなった。


「ん?いや待て待て待て・・・」首をひねるカール。

「これについてはカールの気持ちがわかるよ」とドモンが腕を組む。


「昨日ドモンがナナに正式にプロポーズをして」と男の子。

間髪入れずに「そうよ!」とナナが左手の指輪を掲げてカールに見せびらかす。


「そしてナナがサンとドモンの結婚を認めたのよ」と女の子。

自分で言っていても正直訳がわからなくなりそうになる。



「だから待てと言ってるだろう。どうしてそうなった?」

「ナナがサンにも幸せになって欲しいと昨日暴走しちゃってさ・・・」

「私がまず先にドモンと結婚するから、サンはその次ねって言ったのよ。なんか変?」


混乱するカールにドモンも説明をするが、横からナナが出てきてどんどんと話がややこしくなる。


「貴様、なぜ一日でそうなった」

「俺だって知らねぇよ!風呂の話をしてたら、ナナが俺とサンを連れて無理やり水浴びをさせてそうなっちゃったんだよ。俺じゃねぇからな?今度ばかりは」

「風呂の話とは、例の娯楽施設のことか?」

「娯楽っていうかまあデカい風呂の話な。庶民がお金をちょっと払って、みんなで入れる風呂があるといいなって話をしたんだ。俺の国にはあったんだよ」


色々な事がごちゃごちゃとしすぎて思わず頭を抱えるカール。


「とにかく話は飯を食ってからだ」


そう言ってドモンが厨房に入っていった。

ドモンがエリーの用意した小さな入れ物に鍋の中身を次々と盛っていき、サンはドモンの指示通りにそれにチーズをのせていく。

エリーがその出来たものを順番にオーブンの中へと並べていった。


ナナはカウンターにある椅子に座り、少し不貞腐れていた。

みんながナナのことを変な感じに言ってしまったからだ。

ドモンもそれを暴走と言った。

ナナ自身はよく考えて、それが良かれと思っての行動だったのだ。



「混乱するのも当然であろう・・・屋敷の方でももう貴様らの結婚式へと向けて準備をしておるのだぞ?」

カールが横に座りそう諭すも「だって」と頬を膨らませるナナ。


カールにとってナナは可愛い娘のような存在であった。

貴族の子達とも違う、平気で人の頭を叩き、怒ったり泣いたり笑ったり。そんなわがままな娘だ。


ドモンが浮気をした際に、一番に心配したのはこのナナの気持ちであり、だからこそ大慌てで二人を結婚させようと思ったのだ。ナナには幸せであって欲しいと願い。


「サンドラ・・・サンが一緒の方がいいというのかお前は」

「うん。ドモンにとって私が一番ならそれでいい。サンにも幸せになってほしかったの」

「そうであるか。優しい娘なのだなお前は」


そう言ってカールは心の中でナナの頭を撫でた。



「にしたって、重婚の件はどうなるんだよ」とドモンが話に割って入ってくる。

「貴様は異世界人であるゆえに問題ない。いざとなれば名誉貴族扱いにでもすれば良かろう」


「いや駄目だろ簡単にそんな事しちゃ」

「簡単に貴族の屋敷に入ってくる奴に言われたくはないわ!そもそもあの馬車の一件や健康保険、その他の貢献も考えれば、賛成こそすれそれを反対する者はこの街にはおらん」


ドモンの質問に反論したカールが鼻で笑う。

不敬罪を無くすという歴史的な出来事を起こした張本人が、今更重婚について心配をしているのが可笑しかったからだ。



「そういうもんかねぇ・・・アチチ・・・ほらお待たせ。熱いから気をつけてな」とドモンがカールの前に料理を置く。

「何だこれは?!牛乳で煮たのか??」

「フフフ!なんでみんな同じ事言うんだよ。これはグラタンというものだ。マカロニグラタン」

「グ、グラタン?!」


「熱いから冷ましながら食えよ~」と子供らの前にもグラタンをサンとドモンが並べていく。

「私の~!」というナナに「俺達は次のが焼けてからな」とドモンが頭を撫でて厨房へと戻っていった。


カウンターでカールと子供達が横に並んでグラタンを食す。

フォークでマカロニを掬い、フゥフゥと冷ましながらまずカールが口にする。


「ぎゅ、牛乳ではないのか?!なんというコクと旨味なのだ!甘くはないのだな」

「牛乳は牛乳なんだけど、それは材料のひとつってだけだ。牛乳からホワイトソースってのを作ってチーズと一緒に焼いたものだな。中にあるのはまあパスタの麺のようなものだよ。形は違うけど」


ドモンがそう答えている間、子供達が必死にフゥ!フゥ!フゥ!フゥ!とグラタンを冷ましている。

その必死な顔を見て思わず笑みが漏れる。


「アッチ!!ドモン熱いよ!!」

「火傷しながら食ってこそ一人前の大人ってもんだ」

「何だよそれ・・・アチィ!・・・ん?え??」

「美味いだろ?」


コクコクと頷きながら、次のマカロニを冷まそうとフゥフゥをまた始める男の子。


「あぁすごいわぁ!」

「幸せ・・・あー幸せよ~私」


落ちそうになるほっぺたを左手で抑えながら、ハフハフと食べる女の子達。


「カルロス様、これ持って帰った方がいいのでは?」と男の子。

「これを結婚式のメニューとするならば、シェフ達に一度食べさせておいた方が良いだろうな。ドモンよ、少し余計に用意してくれるか?」

「出来て3~4人分ってところだぞ?てかまだこれが結婚式のメニューとは決まってないよ」


カールの言葉にうんざりした表情をみせるドモン。

もたもたしていたら、ギルドに行ったりサンのドレスを買いに行ったりの予定が本当に潰れてしまう。



「食べ終わったらもう子供ら連れて帰れよ」

「私は今日馬車ではない」

「何やってんだバカ領主。二度手間じゃねぇか」

「何!この色ボケジジイが!次から次へと女をたぶらかしおって!」

「やめなさいあんた達!朝っぱらから子供達の前で!」


おじさんふたりがスパンスパンとナナに頭を叩かれ、醜い争いは終了した。






カールがグラタンという名前に妙に驚いたのは、弟の名前と似ていたからというだけの話。


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