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第91話

食事を終えて就寝のために子供達は部屋へ。

しかし身体は疲れているのにまるで眠ることが出来ない。


オレンジのジャムを作ってスペアリブも作り、庭で火起こし競争をやったり、ジャックの畑で豆を収穫し枝豆を食べ、一緒にスペアリブを売ったり広場でパスタを食べたり。


みんなでお金を出し合い指輪を買い、ドモンがナナにプロポーズ。


新型の馬車に乗ったりハンバーガーを食べたり、焼いた石を入れた鍋も食べた。

これらがたった一日で起こったのだ。



興奮して全く眠れない。眠れるはずがない。



「ジャックどうしてるかなぁ?」

「あと広場にいたあの子達も」

「明日もきちんと仕事行くかな?」

「必ず行くわよ!約束したもの」


暗い部屋の天井を見上げながら、子供達のおしゃべりは止まらなかった。


その時突然ガチャッとドアが開き「こら!お前達!おしゃべりしていないで早く寝なさい!先生の見回りだぞ」とドモンがやって来た。

「わあ!」と驚きの声を上げ、子供達は更に興奮してしまう。


「誰が先生よ!誰が!」

「フフフ、俺の世界の学校で、こういったお泊り会みたいなのがあるんだよ。修学旅行と言って学校の全員で遠くへ旅行に行くんだ」

「へぇ~」

「夜になって騒いでいると先生がやってきて怒るんだよ。早く寝ろ!って」

「あはは」


ドモンがベッドへ腰掛けながら話をする。


「眠れないなら眠くなるまでトランプでもして遊ぼうか?」

「え?いいの?!」

「ああ、じゃあナナとサンも呼んでくるよ。ヨハンとエリーは店があるし、もう寝ちゃったから起こさないようになるべく静かにな?」

「うんわかった」


小声でドモンに返事をする子供達。

まずサンの部屋にドモンが行き、サンにナナを呼んできてもらう。

しばらくすると「ふぁあ~・・・ドモンどうしたの?」とナナが目をこすりながら部屋に入ってきた。


「あなた、なんて格好してるのよ・・・」女の子が驚き、男の子達は赤い顔で思わず目をそらす。

「奥様お待ち下さい。こちらを着てください!」と、ガウンのようなものを持ってサンが飛び込んできた。


ナナの格好は当然例のネグリジェだった。


「ポーカーでいいか?」とトランプをシャッフルするドモン。

「いいけどドモンが配っちゃ駄目よ!あんたインチキするじゃない」とナナ。


「インチキって?」と男の子。

「ドモン、一回見せてあげたら?」

「じゃあまあ・・・」


ナナの言葉にドモンが咥えタバコでトランプをパラパラとまたシャッフルし、子供達と自分に配り始めた。


「ドモンの手札が今どうなってるか教えてあげよっか?」と苦笑するナナ。

「え?どうしてナナがわかるんだよ・・・」と隣りにいた男の子。


ナナは「エースの4カードよ」と言って、またふぁあ~と大あくびをした。

カードを開き子供達は驚愕する。


「この人はね、好きなカードを自由に出せるのよ。本当に本物のギャンブラーって怖いんだから」

「それじゃ勝負にならないじゃない!」と女の子。

「サンにでも配ってもらえばいいのよ。ドモンにカードを触らせてはダメ」


ナナはそう言って「ごめんねみんな・・・私もう寝ちゃうから」と目をこすりながら部屋に戻っていってしまった。



「仕方ない奴だな。子供達よりも先に寝るなんて。じゃあ悪いけどサン、()()()()()()()()()配ってくれる?」

「は、はい・・・」


床に座って輪になる一同。

サンはドモンに教えられたようにシャッフルし、子供らとドモンへカードを配る。


「俺3枚!」「私は2枚よ」と子供らがカードを交換していき、最後はドモンの番。


トン、トン、トンと床を左手の指で叩きながら考え込み、右手の中で火のついたタバコをくるっと一回転させドモンはカードを睨む。

「3枚だな」と言ってサンからカードを3枚受け取った。


ドモンが開いた手札を見て、子供達がジトっとした目でドモンを睨む。


「なんか俺やっぱり眠くなってきたわ」

「私も」

「寝よう寝よう」

「そうね。もうバカバカしいったらないわ」


今度こそ本当におやすみの時間である。

床に開いたカードは、当然のようにエースが4枚並んでいた。




翌日の早朝、ドモンがサンに手伝ってもらいながら小麦粉を練り、串に巻いていくという地味な作業をしていた。

サンはこれが何かよくわからなかったが、ドモンと一緒に作業をするのが楽しくて、ずっとニコニコと笑顔を見せている。


「それにしても御主人様、あんな事をして宜しかったんですか?お子様達相手に・・・」

「ん?ああトランプか?あれはあれでいいんだよ。金を賭けてるわけでもないし、手品として楽しんでもらえればそれでいい」

「もう・・・御主人様・・・」とドモンの言葉にサンが返事をして、クルクルと練った小麦粉を串に巻き付けながらドモンにそっと寄りかかる。


手を止めて目を閉じ、右斜め上を向くサン。



「何かやってるのかい?」



突然のエリーの言葉にサンは1メートルほど飛び上がり、その様子を見てエリーも驚いた。


「あらあら、驚かしてごめんなさいねぇ」

「ひゃい!大丈夫でしっ!!」

「何をしていたの?」

「な、なにもしてませんっ!な~んにもしてません!!」


慌てに慌てるサン。


「朝食作りを手伝ってもらってたんだよ。エリーも手伝ってもらえるか?」

「ええ、もちろんいいわよぉ。ちょっと着替えてくるわね」


エリーが着替えて戻ってくると、サンの顔は更に真っ赤となっていて一心不乱に小麦粉を巻いていた。

サンに先程の恥をかかせぬよう、エリーがいない間にドモンがおでこに軽くキスをしただけの事であったが、サンの魂は今数百メートル上空を彷徨っている。


「朝からそんな真っ赤な顔して頑張らなくてもいいんだよぉ?私も手伝うからさ」とエリーがサンを気遣う。

「い、いえ頑張ります!すごく頑張ります!」せっせと作業を続けるサン。

早く終わらせて水浴びをして着替えなければならない。その一心。


三人である程度出来たところで練った小麦粉から串を引き抜く。

一定の間隔でそれを切り、マカロニが完成した。


「じゃあサン、鍋にお湯を沸かしてこれを茹でてくれ。パスタみたいな感じでいい」

「あ、あの申し訳ございません。先に水浴びして着替えをしても宜しいでしょうか?」

「うん?わかった。じゃあエリー頼むよ」

「いいわよ~ずいぶん汗かいてたものね」


ヨロヨロと去っていったサンに代わってエリーがマカロニを茹で始めた。

ドモンは鶏肉を切って小麦粉をまぶしバターと塩胡椒で炒めつつ、その鍋に牛乳をドボドボと入れ始める。


「え~?!ドモンさん!これって牛乳で味をつけるのぉ?!」

「牛乳で味をつけるというか・・・まあ楽しみにしててくれ。オーブンで焼いても大丈夫な小さな入れ物も用意しておいてよ」


そう説明しつつホワイトソースを作る。


「こんな入れ物でいいかしら?」と小さな土鍋のようなものをいくつかエリーが持ってきた。

「おぉ丁度いい。出来れば全員分あればいいんだけど」

「ひとりひとつってわけね?下に行けばあるわよ?」

「下でオーブンにかけたいから厨房にでも出しといてよ。朝飯は下で食べよう」

「わかったわ」


エリーがトテトテと階段を降りていく。

ドモンは出来上がったホワイトソースに茹で上がったマカロニを混ぜ、それを持って階段を降りていった。


「このまま食べるものなの?」

「これはチーズを載せてオーブンで焼くんだよ」

「へぇ!珍しい食べ物だねぇ」

「やっぱり見たことは・・・」

「ないわよぉ!!」


ドモンとエリーがそんな会話をしていると、ヨハンとナナも階段を降りてきた。


「子供達はまだぐっすりだわよ」とナナ。

「今度は何だ一体?!牛乳で煮込んだのかこれは??」と鍋の中身を見て驚くヨハン。

「牛乳で煮込んだというか、これはホワイトソースと言って・・・」ドモンが説明していると、ドンドンドン!という激しいノックの音と共に「ドモンは居るか!」とカールの声が辺りに響き渡った。


時間はまだ午前8時前である。

確かに出勤時間であると言えばそうなのだけれども、ここは一応昼から開けているとはいえ夜の店でもあり、しかもドモンは「昼過ぎに迎えに来い」と頼んでいたのだ。


慌ててヨハンが外のドアを開くと、カールが鬼神のような顔をして入り口に立っていた。


「ドモン貴様・・・」

「いいからとりあえず中入れよ。ヨハン、客入ってきちゃうから外のドア閉めて」

「ああそうだな」


恐らくこうなるんじゃないかと予想もしていたドモンだったが、あまりに時間が早すぎる。


「だから早すぎるってカール。ちっ!朝飯は?」

「さっさと用意をしろこの馬鹿者め!」

「何だとこのバカ野郎!!黙って聞いてりゃ偉そうに」

「やめなさいよぉふたりともぉ!」


エリーが体をフリフリしてその場をなんとか収める。

その騒ぎを聞きつけ子供達が降りてきた。


「あれ?お父さん・・じゃなくて父上」

「来るにしても早すぎよ。まあ気持ちはわからなくはないけれども」


子供達もキョトンとしている。

ドモンから話を聞きたいとは言え、恐らく迎えの馬車で一緒に来ることを予想していた。

だがカールは朝から単身で乗り込んできたのだ。


朝から大騒ぎの店内。

そこへ着替えを終えたサンも階段を降りてくる。

サンはドモンが屋敷で選んだ服を着ていた。


「お、おぉ・・・」

「メイド服の方を汚してしまいまして、申し訳ないのですが今日は私服で・・・」と照れ笑いをするサン。


サンの笑顔を見た全員がもう一度「おぉ・・・」という声を上げ、騒ぎは一気に収まった。

それは当然、黒のミニスカワンピースを着た天使が、福音をもたらし過ぎたためである。





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