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第90話

「行くぞ行くぞ?鶏団子の準備はいいか?」

「じゅ、準備って何をすれば宜しいのですか?!」

「グツグツと鍋が煮えるから、その間にさっきのミンチした肉をスプーンで丸い形に掬って、どんどん鍋の中に入れていくんだ」

「か、かしこまりましたっ!」



ドモンの言葉にサンが直ぐに反応した。

もし万が一ということにならないよう、火傷をするなら私がと自らその役目を買って出たのだ。


「サン!気をつけて!」

「サンドラ!」


ナナや子供らが叫びながらサンの身を案じた。


「じゃあいっくぞー」とドモンが呑気に声を出し、鍋の真ん中へと焼けた石を放り込むと、キュウ!!と石が鳴いて、鍋はあっという間に沸騰した。

ブスブスバシュバシュと、まるで地獄の釜のよう。


「ヒッヒッヒ!」

「あぶねぇお前ら!」

「ねぇ!ドモンもサンも下がってってば!!」


笑いながら鍋に近づくドモンと、ドモンに言われた通り命令をこなそうとするサンを心配するヨハンとナナ。


「大丈夫大丈夫。ほらサン、こうやってスプーンで掬って鍋の中に数秒入れるんだ」


サンが持つボウルからスプーンで鶏肉を掬って、ドモンが一度見本に入れてみせる。


「わぁすごいですね~!面白いです!」


スプーンから離れてプカプカ浮いてきた鶏団子。

サンがドモンの真似をしていくつか作ると、部屋の中に美味しそうな匂いが充満してきた。


「ね、ねぇサンドラ、私もやってみていい?」と女の子。

「火傷しないように気をつけてくださいね」とスプーンを渡す。


恐る恐る鶏団子を掬ったスプーンを鍋に入れると、少し不格好な肉団子がすぐに浮いてきた。


「・・・お、面白いわ・・・ウフフ」

「ねぇ私にもやらせて」ともうひとりの女の子も鍋へと近づいていき、同じ様に鶏団子を作ってウフフと笑っている。


「お前ら怖くないのかよ・・・地獄でグツグツしてるデカい鍋を囲んだ悪魔達みたいだぞ」と男の子。

「あなたもやってみなさいよ?面白いわよ!あ、サンドラ、これ私のだから避けておいてね。自分で食べるの」と女の子。


「私もやってみようかしら?ねぇお母さん、もっと長いスプーンないの?」

「じゃあナナはこれを使ってみたらどう?」


エリーがナナにサラダ用の木で出来た大きなスプーンを渡す。

そのスプーンを持って鶏団子を掬い、へっぴり腰で鍋に突っ込むと、ゲンコツのような超巨大な肉団子がひとつプカプカと浮かんできて、サンは笑いを堪えきれず「ふぴ!!」と吹き出した。


「お前はサンを殺す気か。見てみろ、窒息死しそうだぞ」としゃがみ込んだサンからボウルを受け取りドモンが呆れる。

「加減がわからなかったのよ・・・責任持って自分で食べるわよ」としょんぼりするナナ。

「私が大きなスプーン渡しちゃったから悪いのよぉ。ごめんねナナ」とエリーが謝りながら、サンの代わりにせっせと肉団子を作り始めた。


エリーは怖がっていた割に一番上手だった。

「私なんだかこれ得意みたいよぉウフフ」と作ってる横から、ヨハンが「なあドモンよ、ちょっとひとつ味見してもいいか?」とやってきた。


「ずるいよお父さん!それに子供達より先に食べたいだなんて」とナナが拗ねる。

「いやぁこの鍋よ、店で出せるんじゃねぇかと急に思ってよ。だから味見してみたいんだ」

「ああ、じゃあひとつ食べてみたら?」ドモンが肉団子と汁をお椀に入れて渡した。



「アチッ!あぁでも美味いなぁこれは・・・!焼けた石を入れるのも面白いし、自分で作るってのも面白い」

「フフフ、しかも常に出来立てだしな」

「問題は・・・味噌か?この調味料は。これが無くなったら作れないってことだなぁ」

「これは塩でも美味い鍋ができるからあとで教えるよ。出汁は鶏肉や野菜から十分出るしな」

「おぉそれはありがたい。出汁ってのがまだよく分かんねぇけど」


ヨハンとドモンがそんな会話を終えた頃、子供達とナナはもうヨダレを垂らさんばかり。

サンが子供達から順番にお椀に入れて渡していく。が、熱すぎてまだ誰も食べられない。

その間にヨハンとエリー、そしてドモンもサンに鍋をよそってもらう。


「サン!わ、私のは??」焦るナナ。

「奥様のはあの・・・」と言葉に詰まるサン。


「ナナのはゲンコツ巨大肉団子だからまだ火が通ってねぇだろうが」と、フーフーとして汁を飲みながらサンの代わりに答えたドモン。サンがまたプルプルと震える。



「わぁドモンさん!私これ大好きよぉ!美味しいわぁ!私これが一番かも?!」とエリーが感嘆の声を上げた。

「あー・・・豚肉や野菜も美味いなぁ・・・ただ夏に食うには熱すぎる。サン、何か飲み物を持ってきてくれるかい?」とヨハン。

「はい!冷えたエールで宜しいでしょうか?」と返事をして、すぐに階段を降りてエールを持ってきた。


子供達もやっと鍋を食べ始めた。

ハフハフとしながら「本当に本当に信じられない!やっぱりあなたは凄いわ」とまず女の子が目を丸くする。


「んぐ・・・これも結婚式で出したらいいんじゃないか?ドモン」と男の子。

「それはいい!僕も賛成!」

「見て!これ私が作ったの!ちょっとだけお花の形になってるでしょ?」


大騒ぎしながらおかわりもペロリ。

そしてやっとナナの前にもお椀が置かれたが、ナナが作ったゲンコツ肉団子がお椀から完全に顔を出し「なんかお風呂に入ってるナナみたいだな」とドモンが言ったところで「ふっぷぅ~!!」と甲高い笑い声を上げながら、サンの腹筋が崩壊してしまった。



「ほらサンも食べろ」と、ナナが夢中になってゲンコツにかぶりついている横で、床に突っ伏しているサンを起こすドモン。

ハァハァと肩で息をして涙を拭い、ドモンからお椀を受け取りサンも食べた。


「ん~!キノコも美味しいですぅ!もちろん肉団子も!」

「んーんー!!んぐ・・・大きすぎたけどホントに美味しいわ」


美味しそうに食べるみんなを見て、うんうんと頷いてドモンが箸を置く。


「さっきも言ったけど明日はサンのドレスを買いに行くからな?あとサンも御者として一緒に行くことになったし、冒険者登録しておいた方がいいんじゃないかな?」

「あ、そうね。何かあった時のためにもそうした方がいいわ」とドモンにナナがモグモグしながら返事をした。


「ついでにお前らのステータスも見てみようぜ」とドモンが盛り上がってると、男の子が「明日は多分無理だと思うぞ?ドモン」と、まだ鍋のおかわりを食べながらドモンの方を見る。



「なんでだよ?」

「だって父さん来るもの」

「父さんってまさか?」

「うん、この街の領主やってるズズズ・・・」


そう言って鍋をすする男の子。


「お前・・・カールの息子だったのか・・・なんか生意気だとは思ってはいたけども」

「なんにも知らないんだなドモンは。どうせ俺達の名前も覚えてないだろ」


ナナやサンがなにやら名前で呼んでいるのは知っていたが、ドモンはまるで気にも留めていなかった。


「でも何だってカールがやってくるんだ?迎えに来ることになったのか?」

「違うよ。だって言ってたじゃないか。みんなが休める大きなお風呂のある施設を作れって」

「!!!!!」


絶句する一同。

確かにいつか作って欲しいとは言ったが、明日からとは言っていない。


「もう言っちゃったのか?それ・・・」焦るドモン。

「さっき伝えてもらえるように頼んだのよ」と女の子。

「僕達がお泊りじゃなかったら今頃もう来てたんじゃないかな?」

「きっとそうね。今頃あなたと話がしたくてウズウズしているんじゃないかしら?」



への字口となったドモンが「こういうのはそこまで思いのままにならなくてもいいのよなぁ・・・」と言いながらエールを飲み干した。





サンの笑い方が変なのは、生まれてからあまり笑い慣れていないためという、非常に細かくもくだらない裏設定があったりする(笑)


作中では特に言及していないけど、ヨハンにエールを持ってくる時に、ドモンの分まできちんと持ってきているサンに気がついた人はいるだろうか??


それとナナが作ったゲンコツ肉団子は、当然大きい上に歪な形であり、セクシー大根やセクシー人参のように胸が飛び出たセクシー肉団子である。

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