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第85話

「うんめぇ!!!!」


一番最初にハンバーガーを買った男が、我慢できずに受け取った瞬間にかぶりつき、そう叫び声を上げた。

皆がそちらの方を凝視している間に、ひとりの男がサンからおまじないを受けマヨネーズを塗ってもらっている。


「このマヨネーズは少しだけカラシが入っていますからねー」とサンの注意を受けつつ、こちらもカウンターのそばで赤い顔をしながらハンバーガーに噛みついた。

とてもじゃないがテーブル席まで我慢する余裕がなかったのだ。


「んあっ!こ、これは・・・みんなマヨネーズ付けた方がいい!絶対だ!」


そう言って無我夢中で食べながらテーブル席に着く頃には、すでに半分以上ハンバーガーを食べてしまっていた。



「お嬢ちゃん達、ワシにおまじないお願いできるかの?」と曲がった腰でハンバーガーの皿を持ち微笑むおじいさん。

「え・・・えぇもちろんいいわよ!で、では・・・」

「美味しくなぁれ!」


女の子達が一生懸命におまじないをかけ、マヨネーズを付けると、おじいさんが「ありがとうよ」と涙ぐむ。

やはり孫のことを思い出してしまったのだ。

ポンポンとふたりの頭を撫で「これでお菓子でも買いなさい」と銅貨を20枚ずつ渡す。


「こ、困るわそんな・・・」と女の子。

「いいから貰っときな!爺さんはお前らが喜ぶ姿を見たいだけなんだ」と、厨房からハンバーガーを運んできたドモンが声をかけた。


それを聞いた女の子達がウンと頷き合って銅貨を受け取りながら「ありがとうおじいちゃん!」と同時にお礼を言うと、「あぁ・・・あぁ・・・」とまた涙ぐみテーブル席へ。

そしてハンバーガーを小さくかじりながら幸せそうな顔をしていた。


女の子達から少しあった気恥ずかしさが消え、逆に少しだけこの仕事に誇りが生まれた。

誰かを幸せにするためにこの仕事がある。

もちろんお金や生活のためでもあるのかもしれないが、決してそれだけではない。

サンの気持ちがよくわかり、そして尊敬の気持ちも生まれた。



「ドモーン!こんなもんでいいだろ?」と両手に包丁を持ち、リズム良く牛肉を叩いてひき肉を作っている男の子。

「おう!まだまだいるから次行ってくれ!」

「任せといて!体力だけはあるからな!」

「ちっ!若いっていいねぇ」


男の子からひき肉を受け取り、捨て台詞を吐くドモン。


「目が痛いよドモンさ~ん」と玉ねぎを刻む男の子からも、刻んだ玉ねぎを受け取る。

「お前が流した涙の分だけ誰かが喜んでくれるんだから、そのくらい我慢しろ」と笑うドモンに男の子は「これ絶対そんな格好のいいもんじゃないよ~」と笑いながら涙を拭った。

その涙が玉ねぎのものからなのかどうかは、自分でもよくわからなかった。



「ナ、ナナ様!この僕・・・いやこの豚めにもおまじないをお願いします・・・へへ」と頭を下げる男性。

「うわ!何よあんた気持ち悪い・・・」とナナ。


「あぁ・・・も、申し訳ございません・・・・・・もっと言って」と恍惚とした表情。

「ちょ、ちょっと近寄らないで!!」と、ナナが言えば言うほど喜んでしまう奇特な男性。

それを見た数名の『お仲間達』が赤い顔をしながらナナの前へと並んだ。


「あんた達全員美味しくならなくていいわ!バカ!!踏んづけるわよ!!」


当然その言葉はこの『お仲間達』のご褒美となり、幸せそうな顔をしながらハンバーガーへとかぶりつく。

呆れに呆れるナナに、男達から大量の『お布施』が支払われた。



皆大忙しで二時間ほど働き、ハンバーガーは売り切れとなった。

屋敷で『給食当番』をした時とは桁違いの忙しさで、汗だくになって肩で息をする子供達。


「どうだ?流石に疲れたか?」とエールを飲みながら、コップにオレンジジュースをついでゆくドモン。

これが最後の一本だったが、惜しみなくなみなみと注いだ。


「ま、まだまだ行けるぜ俺は」ハァハァとしながら強がり、男の子がゴクゴクとジュースを飲んだ。

「疲れたけど私もまだ大丈夫よ!」女の子も額の汗を拭いながら笑顔を見せる。


「私ね・・・生まれてからこれまで、こんなにも誰かからありがとうって言われたことがなかったの」もうひとりの女の子がドモンに突然そう告白した。


「ありがとうって言われるとこんなにも力が湧くのね。だからこれからは私ももっと言おうと思うの。ありがとうって」

「そりゃ良いことだ」とそばにいたヨハンもニカッと笑った。


「僕達も頑張ろうねこれからも。みんなにありがとうって言ってもらえるように」

ジュースを飲み干し、力強く前を向く男の子。


この日はこれで、早めの店じまいとすることにした。



エリーが子供達へ銀貨を三枚ずつ「はいお給金よ。ありがとうねぇ」と渡していく。

思わず「多すぎるよ!」と焦る男の子。

今日の一日で、すっかり庶民の金銭感覚が身についていたのだ。


「ハンバーガーで儲けたからな。受け取って欲しい」と言うヨハンに、子供達は困惑しながらも大事そうに受け取ったが、その子供達の手から銀貨を一枚ずつドモンがひったくった。


「あ!」

「ドモン何すんのよ!」ナナも怒る。


「この給金から、こうしてこのお金が貴族達に支払われているんだ」

「・・・!!」

「だから大事に使ってくれよ?俺が言いたいことはわかるな?」


ドモンがそう言いながら銀貨を子供達へと返していく。


あの時食堂で、大人達が躍起になって領民のためにと言っていた意味が理解できた。

不敬罪なんてものを無くした意味もよくわかった。


「私、もう新しいドレスなんていらないわ・・・」

「俺もみんなが働いたお金で、おもちゃとか買ってもらってたんだな」


しょんぼりする子供達。


「それはそこまで気にすんな。着飾るのも貴族の仕事のようなもんだし、人一倍感受性豊かに育つことも必要だからな。税金の使い方を間違え過ぎなきゃいいよ」とドモンは苦笑。


「街のみんなに少しでも恩返しできるように僕達頑張るよ!」

「もっともっと、今日以上に頑張らないとね!」


街のために頑張っていこうと誓う。

貴族の子供達はまたひとつ大人になった。


「まあその気持ちがあれば、きっともっといい街になるよここは。ただ・・・」ドモンがタバコに火をつける。

「ただ?」

「頑張りすぎてへばらないようにな?息抜きをすることもある意味仕事だ。ヨハンとエリーとサンもだぞ?」


ドモンはここに来てから、ヨハンとエリーが休んでいるのをほぼ見たことがなかった。もちろんサンもだ。


「そうだわねぇ・・・どちらかが出かけたり病気になっても、一人で店開けちゃうからねぇ」とエリー。

「仕事してないとどうにも落ち着かねぇんだよ」とヨハンも頷く。

サンも「私は休みでもすることがないので・・・」と困った顔。


ナナだけが「なんで私はそこに入ってないのよ!」とまた怒っている。



「ねぇドモンさん、僕達に何か出来る恩返しないのかな?」と男の子。

親達のように、貴族としての勤めを果たしたいと思ったのだ。


「そうだなぁ・・・」


そう言ってドモンは煙を吐き、ニヤニヤとしていた。



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