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第84話

「お、美味しそうだけど・・・私生のトマトが苦手なのよ」と女の子。

「じゃあトマト抜きで作ってきてやる。さっきも言ったけど、俺も生のトマトは苦手なんだよハハハ」とドモンが立ち上がると「はーい!はいはいはーい!!」とナナが走ってやって来た。


「ドモンドモン!これは私が食べていいでしょ?!」

「お前のは別に用意してあるぞ」

「それも食べるよ?」


それが当然とばかりに答えるナナ。

そう言うやいなや、ガブリと一番最初にハンバーガーへと噛みついた。


「は・・ハゥ~・・・ん~!!」


目を瞑り、今にも昇天しそうなナナ。

相変わらず味への感想はないが、その態度が全てを物語る。

それを見た子供達も一斉にハンバーガーにかぶりつく。


「何よこのお肉!!噛みやすいのに肉汁が溢れ出て!」

「あぁ~ちょっと待って・・・野菜とお肉が口の中で合わさって・・・そして消えていっちゃうよ」

「うんめぇこれ!うめぇ!!!」


トマト抜きを待っている女の子以外が次々と声を上げる。


「ドモンあなた!早くしなさいよ!」と焦る女の子。

「慌てんなってほら、持ってきたぞ」ドモンが手渡すとすぐに女の子もかぶりついて「これは・・・みんな喜ぶと思う。間違いないわ」と感嘆の声を上げる。



「これにマヨネーズを入れるとまた美味いんだよ」と、もうひと噛じりしようとしていた5人にドモンが告げると、ピタッと全員の手が止まった。

「今ならマヨネーズを付けて銅貨50枚で売ってやろう。な?サン」とドモンがサンの方へと振り向く。

「ハハハ・・・」と苦笑しながら頷くサン。


「ちょっと私達にもあの恥ずかしいのをやれっていうの?」と女の子。

「わ、私も嫌よ!」とナナ。


「お、俺はお願いしようかな?」

「そ、そうだよね。マヨネーズが欲しいだけなんだけどね」


男の子達が赤い顔でサンの方を見ながら銅貨を出した。

ボウルを持ったサンがやって来て、すぐに例のアレを始める。


「では皆様、ご一緒にお願い致します・・・おいしくなぁれ!おいしくなぁれ!萌え萌えきゅーん!サンドラスマイルエクスプロージョン!」


真っ赤な顔のサンが、それよりも赤い顔をした男の子達のハンバーガーへマヨネーズを塗っていく。


「もうこれ絶対に美味しいよサンドラ!」

「あ、ありがとう・・・サン・・・」


サンの天使のような笑顔にやられた男の子達が、クラクラしながらマヨ付きのハンバーガーへとかぶりつくと、更に体中に衝撃が走った。


「うっわ・・・」

「!!!!!!」


ドモンが現れてからというものの、常に美味さの限界を突破してくるが、これもまた桁違いであった。

サンのおまじないが本当にかかっていると錯覚するほど。いやもしかして錯覚などではないのかもしれない。


「駄目だもうこれ、俺一生これだけ食える」

「お父さんに自慢しよ・・・きっと羨ましがると思う」



夢中で食べる男の子達を見て、渋々女の子達がサンへ銅貨を払いマヨネーズのお願いをする。

ナナは当然無料だけれども、面白そうなのでドモンが無理やり一緒にやらせることにした。


「で、では奥様とお嬢様方もご一緒にお願い致します・・・」

「う、うん」

「ドモン、なんで私がやることになったのよ・・・一応やってみるけど」


店の角のテーブル席で女の子達が「美味しくなぁれ!」と合唱しているのは非常にシュールな光景で、ドモンは今にも口に含んだエールを吹き出しそうになっていたが、他の客達からは「可愛い!」の大合唱で、悪い気はしない女の子達であった。



そしてナナと女の子達もマヨ入りのハンバーガーをひとかじり。


「合格よ合格。これは大合格よあなた!」

「結婚式でこれを食べてもらうのが楽しみだわね。みんなどんな顔をするのかしら?」

「んん~!!んっんっん~~!!」


女の子達が太鼓判を押し、ナナはいつものように口に食べ物を突っ込んだまま絶叫する。

この結果を受け、結婚式でのメニューがひとつが決まり安心するドモン。

結婚式にハンバーガーはあまりにもチープではあるが、こちらの世界では珍しい物なので特に問題はないだろうと判断した。



ドモンとサンが空になった皿を片付け、厨房でサンにもハンバーガーを食べさせると「うわぁ!こんなにも美味しかったんですね御主人様!」と小さな口で小動物のようにハムハムと食べ続けた。


ヨハンとエリーの分も作りドモンが厨房から出ると、カウンターにはすでに客達が殺到して、今にも暴動が起きる勢いであった。


「それは一体いくらなんだ!いくつ売ってくれるんだ!」

「こっちにもいただけるかしら?」

「俺もひとつ!サンちゃんのおまじない付きで頼む!銀貨を出したっていい!」

「ワシはあの女の子達のおまじないが良いのぅ。遠くに住む孫のようでな」

「ぼ、僕はナナ様におまじないを・・・なんなら『お前のだけは美味しくなるな!』と罵っていただければ・・・」


半分はおまじない目的であるのがなんとも言えないところだったが、注文が殺到してしまい「ドモンよ!どのくらい作れる?」とヨハンがハンバーガーにかぶりつきながら振り向いた。

その横で呑気に「美味しいわぁ」と体を振るエリー。


「パンと肉はあるから50は作れるけど、肉を刻んでから焼いたりしないとならないから時間がかかるぞ?」とドモン。

「でもなんとかしねぇと収まらないだろこれは」と客達の方を見るヨハン。


「子供達に手伝ってもらえないかしら?ねぇみんなどう?きちんとお給料も払うわよぉ!」とニッコリ笑うエリーに子供達が大きく頷いた。


「じゃあ男達は厨房を手伝ってくれ。女の子達はホールを頼む!サンにしっかり教わるんだぞ?ナナじゃなく」とドモンが男の子達を連れ急いで厨房に向かう。

「どういう意味よドモン!」と文句を言いながらナナが客達を並べていった。


「はぁい!私達が食べてるこれ、限定50個よ~!ドモンさんいくら~?」

「牛肉だし手間もかかるから銅貨70枚ってとこだ!マヨネーズ付きは80枚!」

「ですってみんな」


エリーがまだモグモグとしながら、カウンター越しに客達に笑顔を振りまく。



「よしお前は肉を刻め。お前は玉ねぎだ。やり方は今から教えるから」とドモンに男の子達が頷く。

「ではお嬢様方、大体要領はつかめましたでしょうか?何かありましたら私か奥様をお呼び下さい」と言いながら、エプロンを女の子達に付けるサン。



店は大忙しではあったが、子供達は大いに充実していた。

仕事をすること、頼りにされること、その全てが楽しくて仕方なかった。

なによりこの店の、そしてこの家族の一員としてここにいることが嬉しかった。


貴族として生きる人生において、何よりもかけがえのない時間となったのだった。




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