第83話
「さあそろそろ俺達も店へと戻ろうか。腹も減ったしな」
「流石にお腹が空いたわね」と女の子もドモンの言葉に同意。
「馬車は置いていってくれるか?もう2~3日で完成するからな」と大工。
「分かったわ。じゃあ馬は連れて行くね」とナナが馬の元へと向かうと、馬がちらっとサンの方を向いた。
「ちょっとあんたまで浮気するつもりじゃないでしょうね?」とナナがジトっとした目で馬を睨むと、ヒ、ヒヒンと目をそらす馬。
ナナ以外の全員がそれを見て笑った。
「馬は私とドモンで乗って帰っていいかしら?」
「それは絶対に駄目だ。教育上よろしくない」とドモンが断ると、流石にナナも「ま、まあ確かにそうね」と珍しくあっさりと諦めた。
「それじゃサンと一緒に先に戻って、一応色々受け入れの準備しておいてくれないか?ヨハンとエリーにもそろそろ着くと伝えても欲しいし」
「わかったわ」
「かしこまりました!」
ナナとサンにそう伝え、子供らと護衛を連れて店へと向かって歩き出した。
大工もお金を届けに鍛冶屋へ。
「じゃあサンも乗って」
「え?私も乗って宜しいのですか?!」
「もちろんよ、ほら!」
サンに向かって手を差し伸べ、ニコっと笑うナナ。
心なしか嬉しそうな様子の馬。
来る時はサンも遠慮をして、早足でついてきていたのだ。
「じゃあみんな先に行ってるわねー」パカパカとナナとサンを乗せて馬が走り出す。
「やっぱりドモンと違ってサンだと大丈夫ね!」
「あ、あの奥様・・・御主人様はいつもこ、このような感じで奥様の後ろに?」
「そうよ?」
「あ!そ、それは・・・はふ!た、た、大変ですねうぅ~ん」
「??」
ナナのメリハリボディーの破壊力は、男女の関係などなかった。
サンはドモンの事を考えると、なんだかいたたまれない気持ちとなっていた。
店に着くなりハァハァと荒い息をしながら馬から降り、真っ赤な顔をしながらスイングドアを開け「た、ただいま戻りましたぁ・・・」と甲高い声を出し、フラフラとよろめきカウンターへと向かうサン。
ナナは不思議な顔をしたまま、馬をつなぎに馬小屋へ。
「あらあら、サンどうしたんだい?それに子供達は?」とエリー。
「も、申し訳ございません・・・ハァハァ奥様と馬に・・・・ではなくて、私が馬に乗り慣れてなくて。お子様達は御主人様と一緒に歩いて向かっております。色々と準備しておいて欲しいとおっしゃられておりました」
息も絶え絶えなんとか伝言を伝えたサンに、「・・・エリーと一緒に乗ったらそんなもんじゃねぇんだよハハハ」とコソッとサンに呟くヨハン。
「あ、あは、あはは・・・」とエリーの方をちらっと見て、サンは大いに納得した。
「店に着いたらまずは腹ごしらえだ。結婚式に出そうと思ってるものを少しお前達に試食してもらいたい」
「え?ホントか?!」
「何?何なのよ?!」
「この前言ってたカレーライスとか言うやつ??」
ドモンの思わぬ言葉に興奮する子供達。
「カレーはもうないんだよ、ゴメンな。そもそも俺が持ってきた米ももうないんだ」
「そうだったね・・・」とドモンの言葉にがっかりする男の子。
「でもまあ、あなたの事だから期待はしているわよ?」
「まあそれなりに美味いものは作るつもりだ。しっかり味を見てくれよな?」
「それは任せておきなさい」
子供達とそんな会話をしながら一行は店へと到着。
すでにかなりの客の入りで、ナナとサンがホールの中を忙しそうに動いている。
「あ、ドモーン!お腹すいたぁ!」
「まだ何も食ってないのか?ちょっと待ってろ。今すぐ作るから」とドモンがそのまま厨房へ。
「お願いねぇ!はいお待たせー・・・え?エールじゃなかった?いいじゃない!もう買ってよ!」
腹が空いたと言いながら接客をするナナを見て、何という酷い接客だとも思ったが「まあナナだからね・・・」との女の子の言葉に、他の子供達も皆納得している。
「それに比べてサンドラを見てよみんな」と男の子。
「お待たせ致しましたお客様!チキンサンド2つとエール2杯になります!」と颯爽と働くサンに見惚れる子供ら。
屋敷でこんな人にずっと面倒を見てもらっていたのかと、今更ながらに感謝しつつ、ジャックと一緒にスペアリブも売ったこともあって、こんな風に接客してみたいという気持ちも少し芽生えていた。
が・・・・
「あのすみません、例のアレ頼みます」と客達が銅貨を50枚ずつ出す。
「はぁい!かしこまりましたぁ」と赤い顔をしながら一度厨房に戻り、マヨネーズの入ったボウルを持って戻ってきた。
「ではお客様いきますね!これからチキンカツサンドが美味しくなるおまじないを行いますので、皆さんご一緒にお願い致します!」
「は、はいっ!」
「せぇの!おいしくなぁれ!おいしくなぁれ!萌え萌えきゅーん!サンドラスマイルエクスプロージョン!」
ニコッと笑って可愛くポーズを付けたサンと客達が一緒にそう叫びながら、サンがチキンサンドにマヨネーズをかけていく。
「あぁもうたまんねぇよ!!可愛すぎるよサンちゃん!これでなんか好きなもの食べてよ」と銀貨1枚のチップを渡す真っ赤な顔をした若者の客。
「な、何よあれ・・・」と呆れる女の子達と、同じく赤い顔をしてサンを見つめる男の子達。
もちろんこれはドモンのアイデアである。
「メイドと言えばこれだ」とサンに無理やりやらせたのだ。
そしてナナにあんな態度で接客するように言ったのも、実はドモンである。
スタイル抜群で高飛車な態度のナナも、サンと同じくらい人気が出ていた。
ただナナの場合はそれを演じているわけでもなく「お前の素のままで接客しろ」と言われただけであった。
テーブル席へと座ってそんな様子を見ていた子供達のところへ、ドモンが見慣れない食べ物を持ってやって来た。
「まだ試作品なんだけどよ、食べてみてくれ」とドモン。
「これは何?」と男の子。
「中にトマトのスライスと玉ねぎのみじん切り、レタスとピクルス、そしてみじん切りにした肉を固めて焼いたものが挟まってる」とパンを広げてみせた。
「これの名前はハンバーガーだ」
ドモンがそう言って子供らへ渡していくと、一気に店内の視線が子供達へと集まった。