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第78話

「買い物終わったならそろそろ店に行こうか」

「ビチャビチャになっちゃったもんね・・・」


ドモンとナナがポタポタと水を垂らしながら頭を掻く。


「本当は新しい馬車に乗って街を案内しようと思ってたんだけどな。悪い」

「もう!!」

「それすごく楽しそうじゃないのよ!」

「ドモンさん酷い!」

「あなたがしっかりしないからよ!旦那さんをきちんと操縦しないといけないんだから!」


子供達が同時に頬を膨らませたが、これは怒るのも無理はない。

それならば言わなければ良かった話だった。

つい口を滑らせてしまったドモンは反省した。


「じゃあ軽く水浴びして着替えてくるから、少しここで待っててくれるか?それから大工のところに行ってみよう。そのかわりまだ馬車が出来てなかったら諦めろよ?」

「やった!!」

「わ、わかったわ!早くしなさいよ?」


護衛達に子供達を任せ、ドモンとナナは店へと戻った。


「あ!おかえりなさいませ御主人様!」とサンがニコリと笑う。

「おぉ・・・本物だ」メイドのお帰りなさいませに思わず感動するドモン。


「はい?どうなされました?」

「何が本物なの?」


サンとナナが不思議そうな顔をしたが、ドモンは上機嫌で「気にしないで」と誤魔化した。



「ちょっとナナ!どうしたのよぅこんなに服を濡らして・・・あれ?ドモンさんまで」とエリーが駆け寄る。

「ドモンは私がエールを頭からかけちゃって、私は噴水に後ろ向きに落ちたの」

「ふぴっ・・・」


当たり前のようにそう語ったナナに、思わずサンが吹き出しそうになり必死に堪える。

その画を頭で想像するだけで面白すぎた。貴族達はそんな事をすることもなかったので、免疫がなさすぎたのだ。


「怪我がなくて良かったねぇ」「うん」という、まるで『このくらいのことならよくある』というようなやり取りを聞いて、サンは笑いを堪えプルプルと震えている。


「子供達待ってるから水浴びしてくる!ドモンと私の服用意しておいてー」とナナが階段を駆け上がっていった。

サンとゴニョゴニョと会話していたドモンも「じゃあ着替え頼むわ」とトテトテ階段を上がっていき、ちゃっちゃと水浴びを済ませた。




サンが用意した服に着替え、大急ぎで店を飛び出したふたり。

広場へと戻ると子供達がしょんぼりしながら立ち尽くしていた。


「お待たせー!って、あれ?どうしたの?」

「え、えぇ・・・」


様子がおかしいことに気がついたナナが話を聞くも、女の子が口をつぐんだ。


「何かあったのか?」とドモンが護衛に話を聞く。

「いえ・・・そのなんというか・・・物乞いの子供達がやってきまして」

「私達も追い払わざる得なかったのです」


気まずそうに護衛達が訳を話す。

貴族の子供らは呆然としていた。

ジャックの言うことは本当だった。ジャックはまだ恵まれている方だったのだ。



「なあドモン・・・俺達はどうしてやれば良かったんだろう?」


涙を堪え男の子がドモンに問う。


「そうだなぁ。たとえ今助けたとしても明日は助けられないだろ?」

「うん」

「なら明日以降も自分の助けとなる道を示してやるのがお前らの役目だ」

「どういう事なの?」

「仕事をするための、そのやり方を教えることだな。俺がお前達にやったようにな」


ドモンはそう言ってキョロキョロと辺りを見回し、「あいつらか?」と遠くを指差した。

少し離れたところで貴族の子達と同い年くらいの子供達が、シッシッ!と大人に追い払われている。突き飛ばされて転んだ拍子に、腰からぶら下げていた小さなトンカチらしきものが転がり、涙ぐみながら拾い上げているのが見えた。


「あの子達よ・・・お願いドモン・・・」と女の子が涙ぐむ。

「うーんそうかぁなるほどな。んじゃ一緒に連れて行こう」とそのトンカチを見て、ドモンが何かを閃く。



「おーいお前達」

「おじさん、お金恵んでくれよ・・・」

「金はねぇよ。だが仕事ならあるが、やる気はあるか?」

「変な仕事じゃないのなら・・・でも俺達もうお腹が空いて辛いんだ」

「金を貸して欲しいなら貸してやる。ただし利子は払ってもらうがな」

「利子?」


ドモンと飢えた子供達の会話を聞き、ナナと貴族の子供らが冷たい視線をドモンに向ける。

弱みにつけこむようでいくらなんでも可哀想だと、少しだけドモンを見損なった。

それをドモンは「フン」と無視する。


「わ、わかったよ」

「返す金は十日で一割増しとなる。銀貨1枚借りたなら、十日後には銀貨一枚と銅貨10枚を払ってもらうぞ?」

「そ、それでもいいから貸してくれ。銅貨50枚でいい」


「ドモン!」とナナが我慢の限界を迎え、怒りをぶつけた。

貴族の子供達、そして護衛達までが怒りの表情。

だがやはりドモンは気にもしない。


「お前達の他に仕事をしたい奴らはいるか?」

「まだ多分10人くらいいるよ」

「よし、そいつら全員連れてこい。そしてこれも持っていって何か食ってこい。逃げるんじゃねぇぞ?顔は覚えたからな」

「そんな事するもんか!」


ドモンはそう言って銅貨を50枚ずつ持たせると、子供達はふたり走って屋台の方へと向かった。



「酷いじゃないのあなた!私はそんな風にしてほしいだなんて言っていないわ!」女の子が涙ながらに訴える。

「ど、どうしてあんな事するのよドモン!」ナナも顔を引き攣らせながら怒った。


「あのな・・・何でも与えることが優しさになると思ってるなら大間違いだぞお前ら」ドモンがタバコに火をつける。


「どういうことなのよ」とナナ。

「貰えるものだと思って生き続けていれば、いつか必ず本人が困るからだ。今回のようにな」

「・・・・」

「水が欲しい相手に水を与えるだけじゃ駄目だ。あいつらに本当に必要なのは水ではなく、井戸の掘り方なんだよ。まあこの世界では水魔法の使い方になるのかな?」


ドモンの言葉に口をつぐむ一同。


「誰かに生かされるだけじゃ駄目だ。生き方を教えてやるのが本当の優しさだと俺は思っている。そこに甘えがあっては駄目なんだ」

「・・・そういうことだったのか」


男の子がようやく納得した。


「それにしたって子供達から利息を得るような真似しなくてもいいじゃない!」

「それは仕事に対して、ある程度覚悟と責任を持ってもらうためだ。それで儲けるつもりはないよ」


ナナの言葉にドモンがそう答えて、ようやく一同は納得した。

そこへぞろぞろと同じくらいの年齢の子供達を引き連れて、先程の子供らが戻ってくる。

何かを食べたのか、少しだけ血色のいい顔色になっていた。


「つ、連れてきました」

「よし!俺はドモンだ。皆真面目に仕事する気はあるんだな?」

「は、はい!」

「じゃあ俺について来い」


ドモンはそう言って全員を引き連れ歩き出す。


「ねえドモン・・・うちの店でこんなに雇えないよ?」

「店じゃねぇよ。今大急ぎで人手が必要な奴がいるだろ」

「え?」

「まあいいからいいから」


タバコの火を指でパーンと弾き、火の粉を空中に散らせながらドモンはそう答えた。





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