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第777話

「人間の欲望や願望、夢を叶え食い物にしてきた俺が、初めて見た夢。笑っちゃうよな。俺は人間達の願望そのものの思念体だってのに、夢が夢を見始めたってんだから」

「??・・・だからその夢ってのは何なんだ」

「血の繋がった唯一の俺の家族が、世に認められ、尊敬され、大事にされて、そしてずっと平穏に暮らせることだ。だからドモンよ、どんな方法だっていい。皆の前で世界の敵である俺を倒せ。それが俺の夢だ」

「・・・・」

「お前は不幸になりすぎた。この世界から消えたいというお前の願いを、異世界に行かせることで叶えてやったが、それでも俺がそばにいるだけでお前が不幸になってしまうのだ」


ドモンの父親は、我が息子の境遇を哀れと思っていた。

人として生き、なのに悪魔として憎まれ続け、常に消えたいと願っている。

ドモンの思うままの理想的な世界を用意しても、結局は悪魔として命を狙われ、世界を牛耳る魔王にさせてみてもそれは変わらなかった。


そうしてその怒りが限界まで達し、ドモンの父親は覚悟を決めた。


「ただ俺もただでは死なねぇ。どんな方法でもいいから俺を越えてみろ。お前が負けた時は、お前の願い通り消してやる。俺と共にな」


そう言うとドモンの父親は、テレビクルーとナナ達に向かってちょいちょいと手招き。

それでもやはり近づくのを躊躇していたものの、ナナ達が先に近寄ったことにより、他の者達も慌てて近づいていった。


時を同じくして、ウオンの従業員とたくさんの客達が店内へ。

従業員はドモンの父親の命令で、いつも通り働けと命令されている者達。そしてこんな事態だというのにここへやってきた客の殆どは、当然悪魔崇拝者である。


「さあなにで勝負する?お前の得意なイカサマポーカーは通用せんぞ。俺はお前と共に生きてきたのだから、その手の内は全てわかっていると思えフフフ」

「え?絶対トランプで勝負すると思ってたのに」「はい・・・」事前にナナとサンはそう予想していた。そしてきっとあの時のように上手くいくと信じて。


「イカサマで勝つ気かよおっさん」「悪魔様を舐めんじゃねーぞ」「悪魔のおじさん頑張って!あとこの前はありがとう。これお花」「何が救世主だイカサマ野郎」

「フフフ。俺に勝つには、こんな奴らを納得させるくらいの事が必要だ。わかるな?イカサマなんてことをすりゃ、また世論はコロッとそっぽを向く」

「わかってるそんなことは」


アンケートの結果も、さっきまで50%近くドモンに傾きはじめていたものが、イカサマの会話が出た瞬間にあっという間にまたダウン。

どんなに社会貢献をし、どんなに人のために生きていても、失言ひとつ、失敗ひとつ、あとは雑誌記者のさじ加減で全てがひっくり返るのはドモンも知っている。

被災地に巨額の寄付を繰り返していた某アイドルグループの元リーダーは、他人を叩いてスッキリしたいだけの連中の標的となって潰された。


だからこそ先にドモンの父親は忠告したのだ。

ドモンが本気でこの世界に認められなければ意味はない。それは当然ドモンも理解していた。


「力ではダメ。イカサマも出来ない。テレビ向けに料理対決でもするか?ガハハ」そんな曖昧なもので対決しても、ヤラセがどうのと言われるだけ。

「早く決めろよ救世主のおっさんよ!」「誰も期待してねーけどな」「お前が死んだら女達の面倒は俺が見てやるぞ。だから安心して死ね!」


野次馬に釣られるように荒れ始めるSNS。

一度世の中が『そういう流れ』になれば、少しでも逆らうと反逆者扱いとなり、新たな標的が出来たと叩き始める。

結局イジメと同じように皆その流れに乗り、虐める側に加担した者勝ちといった風潮となるのだ。


ドモンも子供の頃そんなクソ人間になりかけたことを後悔し、それからは逆らい続け、結果多くの友人を失った。


「じゃあ・・・サン、上の階に100円ショップってのがあるから、そこから茶碗ひとつとサイコロを持ってきてくれ」

「は、はい!」人の輪をくぐり抜け、サンが駆け出す。

「ハッハッハ!チンチロかよ!その運に命とこの世界の運命を懸けるってか!面白いじゃねぇか」


ざわざわと騒ぎ始めたギャラリーの真ん中で、ドスンと胡座をかいたドモンの父親。

向かい合うようにドモンも胡座をかいて腕を組んだ。


チンチロリン。サイコロを3個振って、その出目で勝負をするギャンブルだ。

サイコロ3個のうち、出目が2個一致した際の、残りのひとつの出目の大きさで勝負をするというもの。442と出たならば自身の出目は2となる。

3個ともバラバラだったり、123が出てしまった場合は無条件で負け。茶碗からサイコロが飛び出してしまった場合も、その時点で負けになる。


3個のサイコロが全て揃ったり、456の目が出た時は無条件で勝ち。

中でも1が3個出る『ピンゾロ』が最強である。


「貴様、わかっているのだろうな?」

「わかってる」


威厳を保つように口調を変えたドモンの父親。

周りにはわからないけれど、二人にはこれだけで通じた。

お互いにイカサマが出来てしまうということ。そしてそれは今使えないこと。


サイコロをその場に置くように、ただしきちんと振ったように見せるため横回転を与える『置きサイ』と呼ばれるイカサマテクニック。

ドモンがそれを習って身につけた時点で、すでにドモンの中に父親もいたのだから、当然双方同じテクニックを持つ。


なんならドモンは知らないが、実はドモンの父親は魔力を使用し、普通に出目の操作もできる。


「お待たせいたしました!こちらで宜しいでしょうか?」

「ブハハ!なんだそりゃ!随分可愛い茶碗を持ってきたもんだ」


茶碗とたくさんのサイコロを持って戻ったサンだったが、持ってきた茶碗は黄色のひよこのような顔が描かれた、プラスチックの茶碗であった。

人類の運命を決めるにはあまりにチープで、ドモンの父親もうっかり元の口調になってしまった。


思わずそれにつられて笑うギャラリー。

だがドモンの父親の次の言葉で、ゾッと青ざめることになる。


「よし!ひと勝負事に世界のどっかの国をひとつ皆殺しにしようと思ってたが、もう面倒だ。勝負は二回。まずは地球の下半球に住む全ての人間の命。次は上半球だ。条件が飲めないなら今すぐ全員皆殺しにする」

「は?」「え?」動揺するドモンも含む全員。


「親と子は決めずに、単純に強い出目の方が勝ちでいいな。ではまず俺からだ。む、いきなりシゴロとは幸先が良い。ゾロ目なら貴様の勝ち。シゴロは引き分け、それ以外はお前の負けで・・・そうだな、下半球の人間には全員一番苦しい死に方の焼死をさせよう。熱いとのたうち回りながらゆっくり死ね」

「おい・・・」


全員の視線が、ドモンが震えながらサイコロを持つその右手に集中。

「なんとかするんだよね・・・」と寄り添うナナ。

祈りながら振ったサイコロの目は、1と3と4。いわゆる目なしの完全敗北。


「決まりだな。じゃあ下半球の奴らは燃えてもらって。うーむ上半球の方は溺死にしようか?それとも上半球の奴らもお前が殺された時のように・・・」

「待て!待ってくれ!!もう一度だけ勝負してからにしてくれないか?!頼む!」


恥も外聞もなく土下座をしたドモン。

ドモンは動揺していた。動揺してただの凡人としての振る舞いをしてしまった。


運任せなどしてはいけない。この勝負はなにがなんでも勝たねばならないのだ。


「断る。それをして俺に何のメリットがあるというのだ」

「人類の叡智と、祈りによる奇跡が見られるぜ。あんたにとっては悪夢だろうけど。悪魔は見たことがないだろ?悪夢なんて。見せる方だろうからな。今から1が3個のピンゾロどころか、1を5個一発で出してみせる。それでどうだ?」


更にざわざわと周囲の者達が騒ぎ始める。


「ほう、7776分の1に賭けるというのか。では見せてもらおうかその奇跡とやらを。ただし倍の10個としろ。そのぐらいじゃないとつまらねぇ」

「わ、わかった!1を10個だな?!ただ10個だとこの茶碗では流石に器が小さい。ションベンはなしにして、床に賽を投げることを許可してくれ」この際のションベンとは、茶碗からサイコロがはみ出てしまうことを指す。

「いいだろう。ただし一回のみだぞ。1が10個出る確率は60466176分の1だがな。それ以外はお前も含む地球全人類の死。それを出せたなら俺の方が消えてやる。ただしどっかの漫画みたいな全て1の目のイカサマサイコロを使うとか、ひとつずつ1の目を手で丁寧に置いていくなんてインチキは許さんからな」

「そんなことはしない」


二人の会話を聞き、もしかしたらそういった準備をしているのではないかと期待していた一部の人々も絶望。

その場に跪き、神に奇跡を祈るのみ。


「貴様がこの世界の救世主になるのか?それとも死へといざなう悪魔となるのか・・・ん?」

「ドモン何やってんの?」「御主人様?」「ドモン様それは一体?」


ドモンの父親もナナ達も、ドモンの様子を見て大困惑。


「何ってサイコロ振るんだよ。百個もあれば1が10個くらい出るだろ」


ドモンの両手の上には、山盛りになった百個のサイコロがあった。

それで全員が察した。


「それって・・・ズルじゃ・・・」冷たい視線にいたたまれなくなって、ついナナが声を上げた。

「なんで?1を10個出すって言っただろ。でもサイコロ10個だけしか使わないなんて言ってないぞ俺は」

「きたねぇ・・・」「正々堂々と戦うんじゃないのかよ」


ドモンの返答に野次馬達が呆れたように声を上げたのをきっかけに、怒号のような罵声が飛び交い始め、SNSにも暴言の嵐が吹き荒れた。

いつも従順なサンですら、どうにか上手く事をまとめ、世界とこの父親も救ってくれるのではないか?という期待を裏切られて、小さくため息を吐く始末。

シンシアは『なぜこのような男を愛したのか?』と自問自答を始めていた。


「それでも・・・なんだっていい・・・これでいい。みんなが救われるなら俺なんて・・・」目に涙を浮かべたドモンの囁きは、怒号の中で父親にしか聞こえていない。

「お前はどうしてもそうなってしまうんだな。ふぅ・・・愛すべき、俺のバカ息子よ。こっそりお前の身体に潜り込もうと思ったが、恐らく魔力も寿命もこれで尽きてしまうだろう。だからこれでお別れだ。生まれてきてくれてありがとう。楽しかったぞ」

「・・・へ?何言って・・・」


父親もまたドモンにしか聞こえないように囁いた。

ドモンは何を言っているのかすぐに理解出来ずにいたが、ただ生まれて初めてこの世に生を受けたことを感謝され、今はそれが何より嬉しかった。


それだけで生きていける。もう消えなくたっていい。そう思えた。


「ガタガタうるせぇ!こいつとの勝負を受けたのはこの俺だ!黙って見とけ!俺がこの抜け穴を指摘できなかった時点で勝負は成立している!」


ドモンの父親がまた威嚇するように力を開放し叫んだ瞬間、一気にこの場に緊張感が戻り静かになった。

そうしてドモンの涙と鼻水を右手の人差し指で乱暴に拭い、「救世主が格好つかねぇじゃねーか」と不敵に笑った。


「貴様らはついていたな。これでかなり助かる確率が上がったというわけだ。だがまだわかんねぇぞ?案外1の目が出なかったってこともあるからなフフフ。さあ勝負だドモン!この世界を救えるもんなら救ってみやがれ!」

「い、行くぞ・・・頼むっ!出てくれ!!」


祈りを捧げ、サイコロを宙に放り投げたドモン。

その場にいた者も映像越しに観ていた者も、なぜか花吹雪がひらひらと舞い落ちるかのようなスローモーションに見え、不思議と穏やかな気分に。


そしてパラパラと床に赤い花を咲かせていく。ドモンの願いを叶えるかのように、奇跡を起こしながら。全てはドモンの思うままに。


全てのサイコロが落ちきる前に、世界が救われたのがわかった。

それはわかったが、目の前で起きている奇跡に全員が目を離せずにいた。


サイコロ全てが赤い点を上に向け、世界の平和を告げる大輪の花を咲かせた。


「奇跡だ・・・」とプロデューサー。カメラマンも百個全て1の目を出したその奇跡を捉える。

「ぐああああ!!見事だドモンよ・・・皆の願いを力に変え、奇跡を起こしたか・・・」ボロボロと身体が崩れ始めるドモンの父親。

「おや・・・そ、そうだ!見たか!これが人間の祈りの力!信じる想い!努力!友情!勝利!・・・みたいなやつだ」多分父親はそうして欲しいのだとドモンは悟り、それっぽいセリフを吐いた。

「フハハハ!!流石は救世主だ。皆この者に感謝するがいい。だが忘れるな。皆がその想いを忘れ、救世主を失った時、またいつか悪魔がこの世界を破壊するに違いない。それ・・まで・・・さらばだ・・・」


全ての魔力と寿命を使い果たしたドモンの父親は、真っ白な塩の塊となり、サラサラとその場に崩れた。

それと同時に赤く染まっていた空は元に戻り、世界に平和が訪れたことを知らせた。当然同じようにそれは異世界でも。


それを見届け、ドモン達は皆に見送られながらウオンの自動ドアの外へ。

だが異世界に戻ることはなく、ドモン達は普通に駐車場のある外へ出ただけだった。



ドモンの家に帰って数日。広くも狭くもない部屋で暮らし始めた4人。

まだ外に出るのは目立ちすぎると、毎晩仕事終わりにケーコが食材を調達してくれていた。


「やったわ!やっきっにっくっフゥ~!肉肉肉~お・に・く!」「あぁ奥様、お体を拭いてから」バスタオルを持ってナナを追いかけるサン。

「ちょっとナナ!先に服を着なさい!」買い物袋の中身をシンシアと冷蔵庫にしまうケーコ。

「また肉かよ。7月のこのクソ暑い中、もっとサッパリしたもんねぇのか。ただでさえナナと風呂入ったら余計汗を・・・」


ドモンはグッタリしながら、サンが注いだ冷たいビールをゴクリ。


「で?ステータスがどうのってあの人が言ってたのってわかったの?」とケーコ。

「わかんね。ゼロになるまでこっちで暮らすことになるってのは聞いたけど・・・」ドモンが今買ってきたパックの枝豆を頬張る。

「やっぱりあの目の中の文字がそうなのではないでしょうか?もう一度見ても宜しいですか?」とパンツ一丁で胡座をかいたドモンの顔を覗き込むサン。


「ステータスオープン!」とドモンが叫んで、サンがドモンの目の中を覗き込むと、やはり以前と変わらず白目の部分に『E1=TIX3』と書かれていた。


「あの人、寝言で鏡見ろみたいなこと言ってたけど?」とケーコもビールを一口。

「鏡ねぇ・・・」「はい御主人様こちらを」


サンから渡された手鏡を覗き込み、あっかんべーをするように白目を覗き込むと、その鏡には『EXIT=13』という文字が浮かび上がった。


「おいクソ親父・・・俺が思ってたステータスと違うし。それにどのくらいで数字減ってくんだよ・・・」

「なになに?!私にも見せて見せて!」「ワタクシも!」



ドモン達がウオンで世界中の要人達から盛大に見送られ、カールとその息子やトッポを含む、大勢の要人達が待つ異世界に戻ったのは、これから13年後の夏であった。


「さあ帰ろうぜ」


今度は沢山の夢と希望を胸に、買い物袋を手にぶら下げた金髪男は、ウオンの自動ドアから意気揚々と出ていった。





突然の最終回だけれども、元パチプロということで始めから777話で終わろうと思っていたので。

色々付け足し付け足ししているうちに、3話分くらいのボリュームに。


とにかくこれで完結。

ドモンにとって家族とはなんなのか?自分は望まれた子であったのか、そうじゃなかったのか?ただそれだけの話。


ドモン達の後日談はまたいつか暇な時にでも。

それまでしばしのお別れ。今まで長いこと付き合ってくれた方に感謝しつつ、お別れしたいと思います。


ありがとうございました。

暮田土門


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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます(^^) 面白い物語をありがとうございました どうぞご自愛しつつお過ごしください
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