【幕間】小樽と岩見沢にて その1
「見てドモン!すっごく賑やか!お祭りでもやってるのかしら?!」
「ナナ、声がデカいっつーの。お祭りってわけじゃなく、多分観光客だと思うぞ?おい話を最後まで聞け」
「ケーコさんあれあれ!あれ食べたい!」
「またソフトクリーム?!お腹壊すわよ、この子は本当にもう・・・」
小樽の海岸のそばの道にある、古い酒蔵を見学した一行。
ケーコがかまぼこで有名な店で食べたいというので、そのままその道沿いを歩いていた。
かまぼこで有名な店はちょうどこの通り沿い。
だがその道中、ナナにとって危険な誘惑がたくさん。
いやナナだけではなく、この日ばかりはサンとシンシアもついスキップをしてしまうほどの浮かれよう。
「なんと素晴らしいガラス細工なのでしょう!あちらのグラスも華麗なワタクシにぴったりだと思いませんこと?ね、サン?」
「ハイ!まるでシンシア様をグラスで表現したかのような美しさだと思います!」
「ちょちょ!駄目だ駄目だダメダメ!切子のグラスなんていくらすると思ってんだ!」「本当にそう!」
焦るドモンとケーコ。値段を確認し更に焦る。
「別にいいじゃない。救世主としてくりとふぇら・・・?クラウドなんとかってやつで寄付金集まったんでしょ?」口の周りをクリームだらけにしたナナがやってきた。
「お前絶対それ・・・だからあぶく銭は身を滅ぼすと何度も言っただろ。集まった金の99%は、俺らの街の方に寄付してるっての。何ならもっと節約したいのに」
「ケチね。まあ私はこんなコップより食べ物だけど。ケーコさんあれ見て!海鮮どーん!」「ちょっと待ちなさいナナ!こら!」
「ハァ・・・とにかくこれは今回は勘弁してくれ。あとで別のオルゴールやガラス細工の有名な店に連れてくからさ。そこで手頃なのにしてくれ。頼むよシンシア」
「し、仕方ありませんわね。そんな困った顔なさらないでくださいまし。ふぅ暑い」
最近シンシアは恋愛ドラマを観るのにハマっていて、なぜかふと『ときめく乙女』になってしまいがち。
始めの頃は「なぜこの女は男性を困らせるようなことをなさるのかしら?気を引かせたいならば、従順に振る舞い、身の全てを捧げれば宜しいのに」などと悪態をついていたものの、徐々に淡い恋心や恋愛の駆け引き、その他諸々のやり取りを吸収していき、現在『好きな男の子を困らせてしまうちょっぴりワガママ女子』に絶賛ハマり中。
「元々そうだぞ」とは流石にドモンも言い出せず、甘んじてそれを受け入れている。
「うぅぅ少し食べすぎたみたい。ちょっと出さないともう食べられないわ。トイレ行ってくる」ヨロヨロとトイレに向かうナナ。
「ナーナ!もうこの子ったらもうバレバレじゃないの、そんな言い方したら。私も行ってくるよ。わ、私はおしっこだからね!」とケーコ。
「お前も充分余計なこと言ってるっての・・・あれ?サンは」
「もう買い物の列に並んでおりますわ。これだけ混んでおりますから。それにしてもわからぬ言語・・・様々な国からこちらにやってきているのですね」とシンシアは物珍しそうに店内をキョロキョロ。
「いやお前らも多分同じようなこと思われてるぞ」
金髪のフランス人形と天使とこの世の全ての可愛いを混ぜ合わせて、3で割るどころか10倍にしたようなサンは、並んでいる列で周囲の人々にいろんな言語で話しかけられ困った様子。
そもそもナナやシンシアも当然のことながら、先導しているケーコがひとりで歩いているだけで、周囲の人々が皆振り向くほど。
ドモンはその視線を痛いほど感じており、今度旅行する時は静かな街にしようと決めた。
「見てこれドモンのガラス細工」
「おい豚じゃねーか」
「アハハげぇっっぷ!やだもうかまぼこ食べすぎちゃったエヘヘ」
「お前はビール飲み過ぎなんだよ。サンにまで飲ませやがって。小樽の地ビールは確かに美味いけども」
ガラス細工のある店内。サンはケーコに抱っこされ、外のベンチで少し居眠り。
「ナナのガラス細工もありましてよ」ピンと指差すシンシア。
「どれどれ・・・ってやっぱり牛じゃない!!言うと思った!!」
「体型のことを言ったのではありませんわ。人前だというのに大きなゲップをしたことを揶揄しておりましてよ」
「悪かったわね!どーせ体型だって乳牛だと思ってんでしょーに!もうドモンビール買いに行こ?ほらそこにコンビニのローションあるわ」
「乳牛だなんて誰も言ってないし、あれローションじゃねぇから・・・シンシア、みんなの分のお土産選んでおいてくれ」
「はい」
シンシアの選んだお土産のチョイスは最高。
ナナにあんな冗談を言っていたというのに、全員が喜ぶ物を選んでくれていた。
特にナナのために選んだピアスはとても綺麗で、酔っ払ったナナがぐじゅぐじゅと涙と鼻水を垂らしてしまうほどだった。
「この唐揚げと鶏の半身揚げ?って言った?!美味しすぎるぅ~!並んで買っただけのことはあるわね!!」路上でビール片手に歩き食べをしているナナ。
「あなたね・・・並んでいたのはサンとケーコ様だけで、ナナは顔ハメ看板とやらにその胸を突っ込んで、観光客である子供達は笑わせていただけじゃなくて?」シンシアがヤレヤレのポーズ。
「ホントにマジでお前・・・あの外国人の子供達の親は困惑してたぞ?この酔っ払いが・・・」
顔ハメ看板からはみ出すどでかい脂肪の塊。
サマーセーターを着て穴から出していたナナのその胸の面白さと言ったら、正直筆舌に尽くし難い。
子供達は大笑いしながらはみ出している胸にパンチをして、ギャハハと騒ぎながら道路を走り回っていた。
それからドモンの記憶はない。
ドモンが話を聞く限り、酔って寝ているサンを抱きまくらにしながら、自宅に戻るまでケーコの車の中で寝ていたとのこと。
酔いが醒めて目覚めたサンはその状況に、何度幸せな失神を繰り返したかわからない。
あとからドモンが話を聞く限り、ケーコがナナとシンシアを連れてパチンコに行き、寝ているドモンと失神しているサンを連れて帰宅したらしい。
シンシアから当時の詳しい状況を聞いたサンは、あまりの恥ずかしさに涙を流し大爆笑。
結局次はドモンの提案通り、静かな街である岩見沢に向かうことになった。
次回本編更新予定日は、折角なので7月7日に第777話。パチプロらしいナナの日で。
それまで先日行った旅行の様子を幕間にて。