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第76話

呼吸を整えながら、指輪をはめた薬指を右手で握るナナ。


「どうして・・?」


ナナがドモンにおねだりしようとしていた指輪だった。

男の子がガラスケースに入ったこの指輪を、ナナが欲しがっていたのを見ていたのだ。

訳を知り「そうだったのか」と言いながら、ドモンがナナに肩を貸して立ち上がらせ、外にあった椅子へと座らせた。



「それじゃみんなお金は・・・?」

「いいのよ」

「ねえドモンなんとかしてあげてよ。いくらなんでも悪いわよ・・・」


困惑するナナ。


「とは言っても、俺も本当に銀貨6枚しかないからなぁ」と腕を組むドモン。

エールも2杯買ってしまった。


「僕達のことは気にしないで」

「そうよ。きっとこのためのお金だったのよ」

「領民の生活や幸せのためにお金を使うのが俺達の役目だからな」


子供達はそう言って胸を張る。

貴族の心得はしっかりと受け継がれていた。



「じゃあとりあえずお前らが欲しがってた髪留めとリボンでも買ってこい」と銀貨を三枚渡すドモン。

「気持ちは嬉しいけれど、お母様とお揃いで欲しかったのよ」

「私も」

「あぁそれで悩んでいたのか。お金が倍かかるもんな」

「そうなのよ」


ドモンと女の子の会話を聞いて、ますます申し訳ない気持ちになるナナ。


「やっぱり申し訳ないわ・・・」

「いいって言ってるでしょ?あなたもわからない人ね!」

「そうよ!それにきっとまた・・・ドモンが連れてきてくれるわ。ね?」

「ああ任せろ」


会話を終え、広場の中央へとつかつかと歩きだす子供達。

「あとで必ず返すから」と言うナナの言葉に「いらないわ」と髪をはらりとかきあげた女の子。


「武士は食わねど高楊枝ってか・・・やっぱり貴族の世界にもあるんだな」

「なんなのそれ?」

「貴族の誇りを守るため、たとえ辛くても我慢するというような意味のことわざだ」

「あんな子供達なのに・・・」


子供達の後ろを歩きながら、ドモンの言葉を聞いたナナは感心していた。

護衛の騎士達もウンウンと頷いている。


「まあそれよりもだ・・・何よりナナのためだと思う」

「え・・・?」

「お前のことが好きなんだよこいつら」

「!!!!」


「もう顔がボロボロになっちゃうよ・・・」と涙を拭いながら苦笑するナナ。

そんなナナの頭を撫でたところで、一行は美味しそうな匂いのする屋台の前へと着いた。


「おぉ!パスタじゃねーか!」とドモンが声を上げる。


にんにくとトマトと塩胡椒や香草で味付けをしたシンプルなパスタを、焼きそばのように熱した鉄板の上でオリーブオイルとワインを絡めながら炒めていた。


「あぁこれ美味しいのよ。前に麺料理ならこっちの世界にもあるって言ってたでしょ?」とナナ。

「おうそうだったな。それにしても・・・いやぁ何故か本場感が凄くて美味そうったらありゃしないな」とドモン。


「そうか?これなら屋敷でも出るぞ?」

「そうよね。屋敷のはお肉や野菜も色々入ったのが出てくるわよ?」


ドモンが思うよりも子供らの反応は薄い。

街を歩く人々も、食事の選択肢のひとつとしか見ていないようだった。

ドモンは首を傾げる。


「うーん店主」

「へい!らっしゃい!」

「あのさ、これ食べたいんだけどバターある?」

「へ?あるにはあるが、バター味にして欲しいのかい?流石に少しクドくなるぜ?」

「バターとこの調味料とで一緒に軽く炒めてほしいんだよ」

「ほうほう?」


パスタ屋の主人とドモンが相談を始めた。

一言二言会話を済まし、結局ドモンが屋台に立って自分で料理をすることとなった。


「ナナはそこの市場でキノコを買ってきてくれ」

「わかったわ」

「お前らはそうだな・・・向こうの屋台で豚肉を焼いた串を買ってきてくれ」

「いいわよ」


それぞれに銀貨を一枚ずつ渡す。


ドモンはエールを飲みながらタバコに火をつけ店主とおしゃべりをし、気がつけばすっかり意気投合してしまい、ナナに買ったはずのエールを店主に渡してしまった。



「ただいま~買ってきたわよ~・・・って、あんたまた酒臭っ!」


ナナが買い物中、パスタ屋の奢りでもう一杯、ドモンの奢りで更にもう一杯、そして今はどちらかの奢りでもう一杯を飲んでいる最中だった。


「イヒヒ!お嬢ちゃん綺麗だなぁ。こう膨らむところが膨らんでてよ!」

「そうだろそうだろ!こいつ俺の嫁さんなんだよ。羨ましいか?」

「そりゃ羨ましいけど、うちのやつも良い身体してるんだぜ?ちょーっと腹は出てるけど、尻がたんまり膨らんでて、毎晩それにしがみついて寝てんのよ。たまんねぇぜ!」

「ナナだって胸に目が行きがちだけど、ほら見てみろよ?尻だってデカいんだ。悪い事してこのデカ尻で背中に乗られたら身動き取れねぇからな」

「女の尻に敷かれるのも良いもんよ!ワッハッハ!」


ハァ・・・と大きなため息を吐くナナ。

怒りたいところではあったが、「俺の嫁さん」と紹介しているのを聞いて嬉しかったこともあり、まあ仕方ないと今回だけは許してやることにした。


そこへ子供達も戻ってきて、やはり大きなため息を吐く。

少し目を離しただけでこんな事になってしまい、これから苦労するであろうナナへ同情の視線が向けられた。

護衛達からもため息が漏れる。



「さてと、じゃあ作りますかねぇ~フフフンっと」と鼻歌交じりに食材を刻むドモン。

「もうしっかりしなさいあんた」

「奥さん悪いなこいつ借りちゃって」

「もう、いつものことだから仕方ないんだけどね。あんまり飲ませないでね」


お湯で新たなパスタを茹でつつ、フラフラとしながら「俺は酔ってねぇ!」と叫ぶドモンを横目に、パスタ屋に注意をするナナ。


買ってきたキノコを手で割いて、バターを加え鉄板の上で炒めるドモン。

豚の串焼きから肉を外し、細かく刻んで混ぜる。

そこへ塩と胡椒、そしてドモンが持つ調味料の醤油を加えるとたちまち広場に香ばしい匂いが立ち込める。


料理を見ていた子供達の後ろに人々が、あれよあれよという間に集まり始めた。

茹で上がったパスタを鉄板に乗せ、混ぜ絡めるとあっという間にパスタが完成した。


「はいお待ちどうさま。和風きのこパスタの完成でございまーす。店主も食ってみろ。美味いぞ?」

「おう悪いな」と一番に口の中へと放り込む。


その瞬間、完全に酔いが覚めるパスタ屋。


「あ・・・え?・・・う、美味い・・・嘘だろ・・・」


そのまま絶句してしまう。

今まで感じたことがない味に衝撃が、そしてフォークも止まらない。



「私達にもちょうだいよ!」とナナと子供達が催促し、ドモンが鼻歌を続けながら皿に盛り付けていく。

それを周りの人々がつばを飲み込みながら見つめていた。


「なんだこれぇ!!!」最初に叫んだのは男の子。

「んんっ?!ん~~~!!!!パスタが!!パスタが?!」ナナが絶叫。

「どうしてこんな味になっちゃうのよ!!魔法なの?!」女の子も目を丸くする。


「お肉もキノコもパスタも全部美味しい!」

「こんなに酔っ払ってるのに・・・やっぱり凄いわこの人は・・・」


夢中になって食べ続ける一同。

それを見た人々は当然それを欲する。


「おい!それはいくらなんだ」

「いやぁこれは売りもんじゃねぇんだよ」


そう言って頭を掻くドモン。


「頼むから売ってくれよ。いくらなら売る?」

「そんなこと言ったって・・・店主いくらなら売る?」

「銅貨150枚、一皿に付きお前さん達に銅貨50枚支払うってとこでどうだ」

「じゃあ50皿作るからバターとキノコと肉を用意してくれ。さっきの10倍は必要だ」

「おう!」


パンパンと自分の顔を叩いて気合を入れ直すドモン。

子供達よりも一足先に食べ終えたナナに向かって「頼んだ」とだけ言うと、ナナもパンパンと手を叩き客を捌き始める。


「異世界の調味料を使ったキノコとバターの高級パスタよ!銅貨150枚で限定50食だからね~!」

「よし買った!」

「こっちも頂戴!!2皿よ!!」


ワッと屋台の前まで詰める客。

パスタをモグモグとしながら、護衛達に守られ子供達は輪の外へ。


「並んでねー!人数多いからひとり一皿まででお願いよー!」

「お?保険のおっぱいじゃねぇか。今度は屋台やってるのか?」

「誰が保険のおっぱいよ!!今はちょっと手伝いしてるだけよ。食べるなら並んでね?」

「おう!じゃ俺も貰おうか!」

「じゃあほら並んで並んで」


屋台の前にあっという間に列ができ、作り始める前から完売が確定した。

悔しそうに立ち去る間に合わなかった人達。

諦めきれない客が、キャンセル待ちを狙って数名待機していた。



「まあこんなものかしら?」

「ありがとうなナナ」

「ねぇドモンさん、作ったは良いけどドモンさんは食べないの?」と男の子。


あ、そういえば!と、申し訳無さそうな顔を見せるナナと子供達。


「ドモンごめん・・・全部食べちゃって」

「いいよ気にすんな。俺キノコ嫌いだから」


ナナと子供達は盛大にずっこけた。





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