第771話
「なんと無礼な者達!サン、このような不埒な者共に構うことは有りませんわ!無視なさい!」「は、はい!」怒れるシンシア。
「フフフ・・・次はそっちのお姫様みたいな美人さんも撮ってやるからな」使うか使わないかはわからないが、撮れるものは撮っておく。それがテレビ業界の掟。
「しっかり撮れているのか?」「えぇプロデューサー任せてくださ・・・ん?これはまさか穿いてないんじゃ・・・」
「おい!いい加減にしろこのバカ野郎!!」ドモンも止めに入ったが、あっさりと払いのけられてしまった。
サンとシンシアはまだカメラの事を理解しておらず、何かしらの物を足元に置かれたとしか認識していない。
先程のナナとの一件でまだ下着を穿いていなかったため、状況を把握出来ていないまま、サンは見られてはいけないものを見られることとなった。
しかも運悪く日本全国のみならず、世界へとテレビ中継がつながった瞬間に・・・
流石にこれはまずいと中継を繋いだスタッフがスイッチを切り替えたものの、今度はシンシアのドレスのスカートの中に突っ込んでいた別カメラの方に切り替えてしまい、モニターには透き通るように白いシンシアのお尻が映し出された。
シンシアもそれに目をやったが、まさか自分のものだとは気が付かないまま、ただただ怪訝そうな顔をした。
「今のこの情勢じゃなきゃ危ないとこでしたねハハハ」とディレクター。
「コンプラなんかクソ喰らえだ。おい女神さんの胸も下から撮れよ。ビキニかなんかかと思っていたが、ありゃCMでやってたユニシロのキャミソールだ」ハプニングにもプロデューサーは満足そう。
「あぁ確かに!ヤヤセハツカがモデルのアレですね!」
「デカい胸でずり上がってんだな。お前、ドサクサに紛れてちょっと胸揉んでみろよ。もっと視聴率上がるぞこりゃ」
「えー!無茶言わないでくださいよプロデューサー。うちは嫁さんも見てんですから」
「フン!うちのバカ嫁はこの前殺されちまったからな。お前もなかなか嫌味くさいもんだ」
「いやいやそんなつもりは・・・それを言っちゃうちの婆さんも先日若者達に袋叩きにあって、顔の形も残らないような殺され方したんですから」
すぐにこの二人を引っ叩こうかと思ったナナだったが、その会話を聞いて思わず躊躇。
ドモンの父親が原因だと考えると、つい「それはお気の毒に・・・」としか言えなかった。
「うちのバカ嫁は、あれ程家から出るなと俺が言ってたのに、ここへ買い物に来ようとして、途中で高校生達に犯されて殺された間抜けだ。同情なんて今更いらんよ。飯も牛スジのカレーくらいしかまともに作れなかった駄目な女だったしな」心底呆れたような顔をしたプロデューサー。
「俺の婆さんなんか、俺のダメージジーンズを縫い付けるような馬鹿な奴でさ。それ責めたら、ごめんなさいごめんなさいって謝るしか能のないクソババアだったから、気にもしてないよハハハ」とディレクターも、本当に気にもとめていない様子。
「ダメージジーンズとは何でしょうか?お婆様にはそれを縫わなくてはならない理由があったのではないでしょうか?」とサン。
「ほら、前に俺がさ・・・サンの服をわざと破いたり切ったりして、仕立て屋に見せてやったことがあっただろ?」「はい」「あれを全部縫って戻しちゃったんだって話だよ」とドモンが説明。
「そ、それは!!・・・縫ってはダメですぅ・・・」想像してついサンもしょんぼり。
「でしょ?はっきり言って今は清々してるから。あれいくらしたと思うんだよもう。笑い話にもならないって。卵焼きが美味かったくらいだなぁ婆さんのまともな思い出なんか」
フンと鼻息を荒くした後、ナナのヤレヤレのポーズをつい真似してしまったディレクター。
「ま、お互い厄介払いできたと思うしかないな」とプロデューサー。
それを見ていたドモンは、みんなに「すぐ戻る」と何処かへ行ってしまった。
その間、今がチャンスとばかりにナナ達にインタビューを始めたテレビクルー達。
どんなに説明してもドモンが救世主どころか、夫だということすら信じてもらえずナナは辟易。
どうにかケーコが間を取り持とうとしたが、ケーコはケーコでその美しさにすっかりプロデューサーに気に入られ、別番組のアシスタントをやらないかとスカウトをされる始末。
「で、あの男性とはどうやって知り合ったのでしょうか?初めて会った時の印象は?まさかあんなおっさ・・・年配男性と結ばれたなんてことは流石にないですよね?」インタビュワー代わりのディレクター。
「だーかーら!初めて会った時にドモンに押し倒されて、そのまま無理やり何度も朝まで・・・」
「み、皆様!御主人様がお作りになったご飯はいかがでしょうか?御主人様のお料理はとても美味しいのです」ドモンの料理を持ってナナの前に慌てて飛び出したサン。
テレビの向こう側、つまりSNSなどではすでに『ドモン悪魔説』が流れている。
「ですからワタクシは数千人が見守る舞台上で、ドモン様に粗相するよう謀られたものの、それから救ってくださったのもドモン様で」シンシアにも怒涛のインタビュー。
「粗相とは?何をどのように謀られたのでしょう?」
「それはお腹を下すお薬を盛られてしまい・・・」
「まさか舞台上大勢の前で大きい方を・・・それで救われたから感謝するって、お姫様あなた洗脳されてるんじゃ」
「こここ、こちらも美味しいですよ!!どうぞお召し上がりを!!」
シンシアの前にもサンが慌てて登場。
益々盛り上がるドモン悪魔説。
「さっきからあなたはなんなんですか。可愛いけれど、子供は少し黙って」
「サンは子供じゃないです!見た目はこんなですが、御主人様に大人として扱っていただいていますし、それに年齢だってもう」
「あの男性に大人にしてもらったと?」
「はい!サンはもう子供ではないです!まだ産んだことはありませんが、何度か御主人様の子を授かったこともありますから!結婚だって」
「え?!こんな小さな女の子を妊娠させては胎児を繰り返していたと?」
「あのあのそうではなくてその・・・」
ただ夫婦としてすでに結ばれていると強調したかっただけなのに、興奮してうっかり一番の失言をしてしまったサン。
SNS上でのドモン悪魔説が確信に変わった。しかも困ったことにそれは正解である。
「確かにきっかけはレイプだけど、それはこっちが仕向けただけで・・・騙されたけど騙されてやっただけだって言ってるでしょあたしが!痴漢もレイプもみんなあいつにさせてやってんの!何十人何百人に聞いたって、被害者全員同じ答えなんだから!悪魔の洗脳?そうかもね!フン!!」
ドモンがいない間に、ケーコがドモンに止めを刺した。
当然、オッサンどころか悪魔が作った料理を食べる者など、皆無であった。




