第770話
「お父さんはなんて?」
「あのクソ親父・・・やっぱり俺に負けて消える気なんだよ」
「え?どうして??勝負するってのはわかるけど・・・」
ナナはてっきり勝負の打ち合わせをしているのだと思っていた。
いわゆる八百長である。
「負けたらどっちかが死ぬか消えるかするって言ってただろ?親父はそのどっちかが『俺の作った飯』がもう食えなくなると言ったんだ」
「それがどうしたのよ。確かにそうじゃないの?」
「あの親父が負けたならこれからも『俺の作った飯』を俺らは食えるけど、俺がもし負けて死んだなら『俺の作った飯』も無くなるからな。親父が勝っても食えねぇんだ」
「そっか・・・」「サンは嫌です!あんなに嬉しそうに御主人様のご飯を召し上がってお褒めしてらっしゃったのに、あれが最後のつもりだったなんてウゥゥ」
ドモンの言葉ですべてを把握した一同。少し懐いていたサンはショックで号泣。
そんな中ケーコだけが驚きもせず、ドモンの父親を送り出した。もうとっくにその気持ちを知っていたからだ。
「何のつもりかわからないけど、あの人最初からずっとそのつもりだったの」
「だからケーコはあんなに優しくしてたのか」
「妬いちゃった?あはは」
「私ももっと優しくしてあげたら良かった・・・最後にかけた言葉が『やってくれたわね』だなんて」
ドモンの父親は悪魔だ。やった事も許されたことではない。
いくら大勢の人間がそう願っていたとしても、ドモンの父親のせいで、どれだけの人間が死んだかもわからないのだ。
だがドモンと同じで、そばにいてやり取りをすればわかった。ドモンの父親のその本質を。
「悪い事がわからなかっただけで、元々そんなに悪い人じゃないのよ。確かに悪魔なのかも知れないけど・・・」ケーコは寂しそうに笑う。
「でもその悪魔は良い悪魔だったのね。まるでどっかの誰かさんそっくり」とナナも小さく笑った。
「うるせぇや」
なぜドモンの父親は死のうとしているのか?
なぜドモンに親殺しをさせようとしているのか?
なぜそれが親孝行になるとあの父親は言ったのか?
ドモンにはやはりそれがよくわからないまま、ウオンは開店時刻一時間前となり、テレビクルーと店員達がやってきた。
「あ、あなたがこの世界の救世主・・・と呼ばれているらしい方でしょうか?」どうにも曖昧な質問をしてくるプロデューサーらしき男性。
「え?あ、はい・・・多分」
当然ドモンも歯切れが悪い。そんなつもりはないからだ。
カメラも当然回していない。関係のない一般人を勝手に撮るのも問題があるというのもあるけれど、それよりも素性もわからない謎の男性なんかを撮影したくもないというのが一番の理由。
金髪であるドモンの見た目は、いつもよく間違えられるように、パッと見で三十代といったところ。
なのでプロデューサーも正直舐めていた部分もあった。実際の年齢は、ドモンの方が数歳上。
だがしかしドモンには、絶対にカメラを回さなければならない理由に値する、強力な助っ人達がいる。
「この人は本物の救世主よ!ドモンは力は強くないけど、本当に凄いんだから!」ズンと前に出たナナ。反射的にカメラマンが即撮影開始。
「ちょちょ・・・前に名前はバラすなって言ったのに・・・しかもいきなり力はないって言ったら、救世主だなんて誰も信用しねぇだろ」
将棋なら初手敗着級のナナのミスに、ドモンはガッカリ。
どこかできっと様子を見ているドモンの父親も頭を抱えていることだろう。
「うおっ!よく見ればなんて凄まじいスケベな容姿!人間離れしている・・・いや待てよ?もしや一時期噂になった女神様なのでは?・・・ということは、あなた様が救世主?!おいカメラ回してるか?!」「はい!」
「だから私じゃないってば!それにいきなり人のことをスケベな容姿とか言わないでよ。仕方ないじゃないもう!」それに関してはナナだって自覚はある。ヤレヤレのポーズ。
「うひょー!スゲェ胸だ!」「ヤバいヤバい!アレが勝手に元気になっちまうよこんなの」「流石は女神。2万くらいでどうよ?ヒヒヒ」ヨダレを垂らさんばかりの撮影スタッフ。
「なにこの人達!それにこの黒い塊なんなの?」「おいお前らいい加減に・・・」思わず後退りしたナナをドモンが庇う。
「見切れるんじゃねぇよ!このクソ素人のおっさんがよ!邪魔だボケ!」「これはカメラだよ女神さん。みーんなにその大きなおっぱい見てもらおうねエヘヘ」「本当はそれ自慢したいんだろ?俺達が手伝ってやるから。おぅ!小間使いのおっさん、いい加減どけって」
失礼なスタッフに「御主人様は小間使いではございません!それよりも私が御主人様に仕えさせていただいて・・・」とサンも前に出るも、「ヘヘッ!見ろよこの天使みたいな美少女!俺の太いので大人にしてやりてぇなククク」と笑い、サンのスカートの中へ別のカメラを突っ込んだ。




