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第766話

「シンちゃーん、見てこれジャーン!バイクの免許取りましたぁ!すごいでしょう?これで一緒に遠くまで行けるね」

「バイクってこれ原付の免許だろ。俺は免許ないし、原付は二人乗り出来ないぞ」

「え?!そうだったっけ??まあそん時は私バイクで行くから、シンちゃんは電車でついてきてもいいよ」

「無理があるだろうそれは。それにそもそもお前、自転車もまともに乗れないんじゃ?片足でケンケンしながら勢い付けて、一丁は進まないとサドルに座れないのに。しかもなぜか右側からしか乗れないし、ケンケンしたまま自転車に乗らずに目的の店に着いちゃったのも知ってるぞ」

「だ、大丈夫大丈夫!こう見えてもかけっこだけは速い方なんだから」

「・・・なんか関係あるのかそれ」


ドモンの父親のことをシンちゃんと呼ぶこの女性が、ドモンの母親となる女性。

自分がサキュバスだという記憶をなくした、日本育ちのサキュバスである。


ドモンの父親には名前なんてものはないけれど、たまたま取り憑いた男性がそう呼ばれていたので、そのまま呼ばせるようにした。

自分の名前を知ったのも、女性達に教えてもらったからだ。


サキュバス譲りのドモンの母親の顔は当然ながら美しく、言い寄る男は数知れず。日本人離れした高い鼻が特徴で、街を歩けば皆振り返る。

四十を超えてもまだナンパされているケーコと同じように、ドモンの母も街へ買い物に行った際、ドモンが少し目を離せばナンパされてしまうほど。ドモンが成人してからもそれは続いていたし、「なんだ彼氏と一緒か」と羨望の眼差しを向けられたこともあった。


一番恐ろしかったのは、ドモンのクラスメイトが母に告白をしようとしていたこと。

せめて一度だけとか、お前の母さんで捨てたいだとか、成人向けの漫画みたいなことを言う友人が何名もいた。


逆に考えればドモンがケーコと付き合ったのも、そんな母親のイメージに似たところがあったからかも知れない。

ナナもケーコのことを数歳上のお姉さんだと思っていたので、気軽にケーコさんと呼んでいた。

実際は25歳以上も上で、その事実を知った際にナナはひっくり返りそうになるくらい驚いたのだった。


兎にも角にも両者ともある意味化け物級。自力エルフだ。


「シンちゃんちょっとここで待ってて。いいよって言うまで後ろ向いててね」舗装もされていない、家の前の土の道を走り去っていったドモンの母親。

「何なんだあいつは・・・」


ふたりはまだ付き合っているわけではない。

まだドモンの母親のたくさんの男友達の中のひとりというだけ。

そんな関係だというのに、ドモンの父親はすでに振り回されっぱなし。


「ねぇー!こっち見ていいよー!」通りのずっと先から、カブに跨がり手を振る母親。時代的にヘルメットなんてものもかぶっていない。

「おいちょっと待て、誰から借りてきたんだ。いやそんなことより、いきなりひとりでそんなもん・・・待てっておい!」

「いっくよー!あれ?どうして?あ、わかったこれだ。いっくよー見ててねー!それっ!ひっ?!?ヒィィィィイイヤアアア!!!」

「マズい!!あのバカ!!」


ニュートラルのまま何度か空吹かしした後、突然ギアをローに入れたために、カブの車体はまるで暴れ馬かのように前輪を跳ね上げ、ウイリーしたままドモンの母親を引きずった。

車一台がぎりぎり通れるほどの狭い路地を、バイクはドモンの母親を風に泳ぐ鯉のぼりのようにヒラヒラさせながら爆走。


「手を離せ!離せって!!」

「た、たす・・・助け・・・」


横を通り抜けようとしたバイクにドモンの父親も叫んだが、恐怖で手が固まってしまったために離せず。

ドモンの父親は仕方なくバイクの車体ごと掴んで止めようとしたけれど、ウイリーした車体が元に戻っただけで、安定したバイクはかえって加速してしまった。

結局ドモンの父親も引きずられるような格好で、バイクはT字路の突き当たりまであと少し。運送会社のそばで交通量も多く、トレーラーも頻繁に通る危険な道だ。


「マズい!クソ!」右にチラリと見えたのはダンプカー。

「シンちゃん離して危ない。シンちゃんは駄目」

「うるせぇバカ野郎!!」


一か八かドモンの父親がブレーキレバーをギュッと握ると、前輪がロックして今度は車体が前に一回転。

ようやく手が離れたドモンの母親の体をキャッチしたドモンの父親は、背中から土の地面に叩きつけられるように着地。

バイクはそのままダンプカーの前に飛び出してしまい、運転手は慌ててハンドルを切って避けたものの、木の柵がある空き地に突っ込んだ。


ドモンの父親はダンプカーの運転手や助けに来た者達の記憶を消し、バイクを回収してそそくさと退散。


「こ、怖かったぁ~フゥ」

「・・・・」


なんだか呑気なドモンの母親の態度に怒りを覚えた父親。


「シンちゃんも死んじゃうとこだったね。なんちゃってエヘヘ」

「ハァ・・・なぜ勝手なことをした。勝手に免許取って、勝手にバイク借りて、勝手に運転して、その結果どうなった?」

「だって」

「だってもクソもあるか!このバカタレ!!」


ドモンの父親は右手を振り上げたけれど、目をつぶってキュッと可愛く力を入れたドモンの母親の顔を叩くことは出来なかった。


「な、なによ。叩けばいいじゃない意気地なし」

「く・・・この・・・」

「やーいシンちゃんの意気地なし!じゃあねー私帰る。これ父さんの勝手に持ってきたからこっそり戻さないと・・・あ、あとその・・・シンちゃんありがとねエヘヘへ」

「ありがとねじゃねぇよまったく」


愛だの恋だのはまだわからない。

だがドモンの父親は誰かに対し、初めて『心配』というものをした。


その日の夜はなかなか寝付けず、誰かを抱いてスッキリしてやろうと出かけたが、なぜかいちいちドモンの母親の顔が頭に浮かんでしまい、すすきので少し飲んでから大人しく帰宅し、ひとりで何度も自分を慰めることになった。



今回、会話部分以外ほぼほぼ実話。事故も聞いた話ではこんな感じで、そのまま免許返納したそう(笑)

ケーコは40代後半にしても普通にミニスカートを穿いているけれど、見苦しいとかそういったことはなく、現役の女子高生に「いいな、スカート似合う脚で」とため息を吐かれる始末。

知らんおじさんに「娘さん可愛いね」と言われたことも。ドモンの母親はそれの強化バージョン。

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