第764話
ドモンの父親にとって、それはあまりにも予想外だった。
人間の命や魂など悪魔にとって、餌であり、おもちゃでもあり、道具でもある。
そこに情など存在しない。
人間は家畜などでもなく、花壇に種を蒔いて出てきた芽ほどの感情。
多けりゃ間引く。その程度の存在。
自身が最強かどうかは知らないが、脅威になるものは一切なければ、死の恐怖すら感じたこともない。
寿命は尽きるどころか、魂を喰らう度に伸びる一方。
家族だの友だの愛だのも知ったことではなく、真面目に粛々と人を苦しめ命を奪い続けていた。延々と続くただそれだけの日々。
やがて人間との子作りという名の餌作りにも飽き、ドモンの父親は性処理係としてサキュバスの子供を誘拐してこちらの世界に連れ込み、記憶を改ざんして人間の家族に育てさせた。
大人になった後に拐って気を狂わせ、死ぬまでドモンの父親の姓処理をさせようとしていたのだ。
人間には出来ない感度の調節など、サキュバスは性処理係として優秀な存在。
だがこの人間に育てられたサキュバスが面白い動きを見せ、ドモンの父親にとって興味深い存在となった。
高度成長期の中、男をとっかえひっかえで遊びまくり、サキュバスという存在を知らないこちらの男達を次々と骨抜きにしていく様が、なんとも痛快で見ているだけで楽しかった。
その美貌と性的な魅力で男達が次々にひれ伏していく。
今で言うところの、無双物の小説を読んでいるような感覚。
市役所にバイトに行けば、上司が正式に公務員として採用するからとその体を欲する。
映画館で働けば、映画も観ない男達が切符売り場に行列を作り、飲食店で働けば突然売り上げが何倍にも膨れ上がる。
数日で仕事が面倒になり辞めたとしても、すぐに戻ってきて欲しいとラブコール。
どんなにワガママで酷い辞め方をしても、あっさりと職場復帰が出来てしまう。それも何度でも。
実際ドモンが子供の頃、母と街に行った時に「ここの受付やってた。あとこの店とこのデパートとこのボウリング場と・・・ここは旅行行きたくて、休みとるのお願いするの嫌だったから辞めた」などと説明されて、子供ながらに呆れたことがあるほど。あまりにやりたい放題。
ちなみにその後デパートのおもちゃ売り場にドモンを置いて遊びに行き、デパートが閉店しても母が迎えに来ないなんてこともよくあった。
そのくらいの遊び人で、小さいなドモンは一人で夜の街を彷徨ったりしていた。
この世界で、その美貌だけで天下を取りそうな勢いのサキュバスを、どうにか落として孕ませたいとドモンの父親は考えた。
無理やり犯すことも服従させることも簡単だが、それでは何も面白くない。
人間の男の体を借り、人間の男としてこのサキュバスを落とす。これは暇な悪魔のそういったゲーム。
早速新卒22歳の多少顔に見栄えの良い男に取り憑き、まずは職場で大暴れして即クビに。
真面目に生きてきた男が突然乱れた生活をしだし、家族や友人達は大ショック。
文句を言ううるさい人間はサラッと心臓発作で死んでもらい、まずはそこらにいるキレイな女性を籠絡して抱く練習。
飽きたら捨てるという行為を繰り返した。
人間の女性に多少なりとも被虐願望があることを学び、どこまでやれば頭がおかしくなるか?なども研究。
「お願い!!トイレに行ってもいいですか!?」
「駄目に決まってるだろ。まあほらこれも食えよ。お前の奢りだけど。おーい店員、このホッケというのと刺身の盛り合わせ、あと生ふたつな」「はいかしこまりましたー」
「お願いもう駄目!出ちゃう!!もう五日も・・・ぐぅぅ」
「栓してるから大丈夫だって。あと五日の我慢だ。そしたらすすきのの交差点の真ん中で栓抜いてやるからイヒヒ」
「ひど・・・もう・・・あ」
女性を生き恥地獄に晒し、居酒屋内を大パニックにさせた後、女性以外の全員の記憶を消し立ち去るドモンの父親と汚れきった女性。
トラウマと異常快楽の狭間で女性は廃人同然となり、最後は生涯性奴隷となることを誓ったというのに、あっさりとドモンの父親に捨てられた。
「お願いじまずっ!!服をっ、服をがえじで下さいっ!!」小さなタオル一枚で体を隠しその場にしゃがみ込んだ女性。
「何をやってるんだあの娘は??」「は、裸?!」「誰か交番に行って警察を!」「君たち止めなさい!こんな交差点の真ん中で!」大騒ぎする通行人達。
「だから次の駅まで歩いたら一枚返してやるって。このまま真っ直ぐ札幌駅まで頑張れ。ただしその間にみんなが見てる前で、最低三度は自分でスッキリすること。いいな?」ドモンの父親はそうは言ったものの、持って歩くのが面倒なので女性の下着と服はゴミ箱へ。
「イヒ・・・イヒヒ・・・おしまいだわイヒヒ・・・あーっはっはっは気持ちいー!エヘヘヘヘ」
頭の中でプツンと何かが弾け、女性は羞恥快楽に目覚めた。
やって来た警察官達は、なぜかドモンの父親から女性を救おうとした勇敢な男性をその場で逮捕し、後日懲役7年の実刑判決を受けることになった。
女性は愛する夫と子供達を捨て、とてもマニアックなヌードモデルの道へ。
「あの女落とすにはまだまだ足りねぇか。余程じゃないと逆にこっちが餌になっちまうしな。面白くなってきたぜ」
色々間違ったやり方ながら、人間の男として経験を積んでいくドモンの父親。
サキュバスが人間の心を持ったように、ドモンの父親もまた人間としての心を、かなり歪な形ながら手に入れた。
ドモンの母の話も実話なんだよなこれが(笑)
履歴書はもう書ききれないので毎回適当だったの覚えてる。
真っ暗になったデパートから脱出後、パチンコ屋を何軒か巡って、パチンコしながらタバコ吸ってる母を見つけてたりした。
こんなだから小さい頃からドモンは自炊してたんだよな。料理もそりゃ上手くもなるよw