第763話
時間はもう午前4時過ぎ。
本来ならばもう空が明るみ始めている頃だけれども、ドモンの父親の力により外は赤い空のまま。
「あと数時間でテレビ局の奴らがやってくる手筈になっている。その時にいよいよ勝負だな。お前が死んで全てが終わるか、俺が負けて世界の平和を取り戻すのか」
「・・・世界の平和って、向こうの世界も元に戻るのか?」
「そりゃ当然だ」
「元に戻るだけだよな?親父が作ったあの世界ごと消えるんじゃないだろうな?」
「安心しろ。俺が消えたってあっちの世界はすぐに消えやしねぇよ。それにお前の力もあるからな。俺はあくまで世界が産まれるきっかけを与えるだけで、あとは勝手に世界は動き出すんだ。持続させるための力はほとんど必要ない」
「その理屈がわからん」
「水に一度石を投げりゃ波紋が残るだろ?波が端まで行きゃ、また跳ね返り波は続く。それと同じことだ。お前が死んで跡取りもいないとなれば、いつかその波も消えてしまうかもしれないが、幸い他にも俺は跡取りを残してるしな」
ナナとは違って真っ直ぐな綺麗な姿勢で、何故か胸の先だけ手で隠しながら寝ているケーコの方を見たドモンの父親。
だが流石のドモンもそれだけではピンとは来なかった。
よくよく考え、ケーコの子供らが自分の腹違いの兄弟で、そして同じく悪魔の血を継いでいるのだと気がついた。
年齢も違いすぎる上に、そもそも最近まで自分の子だと思っていたのがまさか兄弟だとは、普通の感覚ではなかなか受け止められない。
ドモンの母親と関係を持ちドモンを産ませ、ドモンの元恋人とも関係を持ち兄弟を産ませているのだ。明らかに常識の範囲外。
それにしても頭の悪いドモン・・・というより、ほとんどの人間にも理解しがたい話を、いちいち納得の行くわかりやすい例えで説明され、それで理解が出来てしまうことにドモンは苛立ちを隠せない。
今までを取り返すかの如く、尊敬と反抗期が一度にやって来た気持ち。
ドモンは少し不貞腐れながら現状を確認。気になっていた心配事をひとつ思い出した。
「それでケーコの子供ら・・・あの俺の弟と妹?はどうなってる?もうずっと向こうで暮らしていくのか?あと俺の母さんも」
「お前もケーコ抱いたんだから、今更兄弟もクソもねぇだろククク。こっちが落ち着けば戻ってもいいと伝えてあるから、戻ってくるんじゃないか?あの女は覚えてないかもしれないけど、元々向こうの世界の奴だから居心地は随分と良さそうだがな。ただ子供らはスマホがねぇだのネットがねぇだの文句言い出してるから」
「俺の母親をあの女って言うのヤメてくれませんかね」
「なんでだよ。俺の女をなんと呼ぼうが別にいいだろ。俺があいつを抱いたからお前が・・・」
「あー聞きたくない聞きたくない!!子供らが無事ならそれでいいよもう!」
絶対に聞きたくない親の性事情。
しかもいつの間にかケーコも寝取られたかのような感じにもなり、苛立ちは増すばかり。
ドモンは不本意ながら、こんなことで家族というものをより感じられた。
「私の子供達どこー?なに二人で悪巧みしてんのよ。いい加減にしないとあんた達グゥ・・・」寝たまま子供を探すケーコ。
「こいつも子供ら心配してるし、早く決着つけねぇとな」と言って、ケーコの頭を撫でたドモンの父親。
「・・・・」
話せば話すほど、なぜそんな決着をつけなければならないのかがドモンはわからなくなってくる。
この世界やあちらの世界を救うためなのは分かるが、そもそもこんな事態をこの父親が起こさなければ良かったのではないか?
それにどうやって決着をつけようというのか?
悔しいが、どう考えても父親の方が何もかもが上。
博識であり、ずる賢くもあり、何よりとんでもない能力を持った上位の悪魔である。
ドモンも同じ悪魔だが、ほぼ何の能力も使えない、なんなら少し病弱で脚の悪いおじさんだ。最近歯も腰も肩も痛い。
「不服そうだなバカ息子」
「当たり前だろ。あれよあれよと流されて、勝手にこうなっちゃっただけだし」
「だけどなお前、あのままじゃまた居場所を失うだけだっただろ。命まで狙われてよ。こっちの世界と全然変わらないだろそれじゃ。どこへ行ったって悪者にされ、憎まれ恨まれ蔑ろにされ、体も心も傷つけられる。さっきも言っただろ?お前は俺のもんだ。許せねぇんだよ」
「だからってどうしてここまでする必要があった?どうして俺らが戦う羽目になるんだよ!」
「どうしてどうしてうるせぇな!ガキかテメェは!そりゃあお前が家族なんてものを知っちまったからだろ!俺はお前でお前は俺なんだぞ!どうしてくれんだよ!」
「え?どういう意味だそりゃ・・・」
1階フロアに響き渡るドモンと父親の声に、サンとシンシアがベッドから跳ね起き慌てて駆けつけた。
ケーコも眠い目を擦りながらムックリと上半身を起こしたが、ナナは大の字で眠ったまま。
「知るかよそんなもん。知らねぇよそんなの」
女性達が集まったのを見て、ドモンの父親は大慌てで不貞寝した。