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第75話

「それじゃみんな行こうか」


ドモンはジャック親子に手を上げ挨拶をして外へと出る。

子供らとジャックは再会を約束していた。

「いつでも屋敷の方に来て」と女の子がジャックの手を握り、別れの挨拶を済ませた。



「私は先に店に戻ってるわぁ。そろそろ忙しくなる頃だろうし」とエリーが男の子の頭を撫でながらニッコリ笑う。

「じゃあ馬車に乗っけてもらえよ。買い物した後、歩いて子供ら連れていくから。それでいいかな?」と御者の方を向くドモン。


「ああ、構わんよ。そのまま屋敷に戻っていいんだよな?」

「それで大丈夫だ。明日昼過ぎに店の方まで子供らを迎えに来てくれ」

「わかった」


ドモンと御者がやり取りを終え、エリーを乗せた馬車がガラガラと音を立て去っていった。



「じゃあどこから行こうか?飲み屋は駄目だぞ?」

「あなたじゃあるまいし行かないわよそんなところ」とドモンの言葉に女の子がすぐさま反論。


「そ、そうだよドモン・・・ナナにも散々怒られたんだろ?」と男の子。

「お?お前はスケベな店に興味あるのか?俺はただ飲み屋と言っただけで、薄着の女の子がいる店だなんて一言も言っちゃいないのに」

「うっ!!そ、そ、そんなことないよ!!」

「なんだよ『うっ!』って。図星じゃねぇか」


ドモンがゲラゲラと笑い、男の子の顔が真っ赤になる。

女の子達が「男っていやねぇ」と冷ややかな視線を浴びせ、ナナが「ドモンみたいになっちゃ駄目よ?」と諭す。


「もう!なんで俺がこんな目に合うんだよ!ドモンのせいで!」

「まあ・・・もう少しお前が大きくなったらお忍びで・・・な?そもそも男で興味がない方がおかしいんだから気にすんな。その時は一緒に行こうぜ。内緒だぞ?」


怒る男の子の肩に手をかけ、女性陣に聞こえないようにボソリと呟く。

「その時は僕も付き合うよ」と叔父貴族の息子も小声で囁き親指を立てた。



「あんた達ぜーんぶ聞こえてるからね!」



いつの間にかドモンの真後ろにいたナナが突然話しかけ、男達は「うわぁ!!」と叫ぶ。

女の子達がヤレヤレのポーズを取りながらため息をついた。

そんなやり取りをしながら広場の方へとやって来た一行。


「あ!私あそこ行ってみたい!」と、とある雑貨屋を指差す女の子。

「え~まずは食いもんだろ」と男の子が文句を言ったが、「うるさいスケベ男のミニドモン!早く行くわよ!」と有無も言わせず入店した。ぐうの音も出ない男の子。


「見てよこの髪飾り!なかなか素敵じゃない?」

「そうね、でもどうやって使うのかしら?」

「これは髪留めなのよ。お風呂上がりとかにこうして棒にクルッと髪をまとめて真ん中に刺すの」


かんざしの形の髪留めの使い方を教えるナナ。

女の子達も真似をしてやってみたが、結局うまく行かずに断念。

今度は飾りに五寸釘が横向きに刺さったような髪留めに手をやる。


「これならなんとか出来そうだわ!でも銅貨150枚もするのね・・・お母様とお揃いにしたら銀貨3枚もなくなっちゃう・・・」

「こっちのお花の飾りがついたリボンも素敵ね。こっちは銅貨120枚かぁ・・・うーん」

「これは少し安いけど、やっぱり安い物は安いなりの形ってところね。高い物の方が可愛いわ」

「どれも一緒だろ・・・早く行こうよ」と文句を言いながら店内を見回る男の子達。



ドモンは悩みつつも買い物を楽しむ女の子達を見て、ニッコリと笑っていた。

以前までのこの子供らだったら、何の感情も有り難みもなく、とりあえず目についたものを片っ端から手に入れようとしただろう。

ウンウンと頷く。



「ドモ~ン!見てたら私もこれ欲しくなっちゃった。銀貨20枚もするけど・・・ってあれ?ドモンは?」とナナ。

「え?さっきまでここにいたぞ?」

「も~う!!またあのバカ!!」


ナナが地団駄を踏んでいると、すぐにドモンが戻ってきた。


「ほらエール買ってきたぞ」

「もうヤダ!黙って行かないで!怖いの!」


ナナが子供のように涙ぐむ。

それを見て子供達も少しだけ吹き出した。

まるで迷子になった子のようだったからだ。


「ハハハ流石にここでいきなり消えないよ。前にナナにエール買ってきてもらったことあるだろ?それ思い出してさ」

「嫌なの・・・怖い・・・」


ナナは自分が思っている以上にトラウマになっていた。ドモンをひとりにすることに対して。

浮気ならまだいい。怒るだろうけど。

いつかふと消えてしまったり、以前のようにボロボロになって運ばれてきたりするのではないかと、それが不安でたまらないのだ。


広場を通る度についそれを考えてしまい、頭の中で必死に打ち消していたが、今日それが今、突然爆発した。


青褪めた顔でガタガタと震えだし、髪をかきむしる。

ドモンが広場の店でエールを買ってきたのも災いした。


あの集団暴行事件を完全に思い出してしまったのだ。



「おいナナどうした?」エールをそばの台の上に置き、様子がおかしいナナの元へ慌ててドモンが駆け寄る。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!」


「ナナしっかりして!」と女の子達もしゃがみ込んだナナの肩に手をかけた。

「ハァ!ハァ!ハァ!ハァ・・・・!」


頭の中に浮かぶ。

折れた腕や脚、潰れた左目。


「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ・・・」涙を流すナナ。

「くそ過呼吸か!ナナ、ゆっくり息を吐け!落ち着くんだ!」


ドモンがしゃがんだナナの前に座って手を握る。

握った手には先日縫った傷跡。それを見たナナの呼吸が一段と早くなった。


「ヒィ!ヒィ!ヒィ!ヒィ!ヒィ!ヒィ!ヒィ!」

「どうすりゃいいんだ!」


ドモンがナナを抱き寄せたが、めまいを起こしナナの意識が遠のきはじめる。

白く霞んで見える景色に、ドモンが異世界へとひとりで戻っていった時の様子がフラッシュバックした。


「イヤァァァァ!!!」

「ナナ!!」


ドモンは強く抱きしめ、耳元でゆっくりと囁く。


「ナナ・・・・・・ナナ・・・・・・」

「ハッ!ハッ!ハッ・・・!」

「幸せになろうなナナ・・・・俺、こんなだからきっと苦労も心配もかけるだろうけど・・・」

「ハァ!・・ハァ!・・ハァ!・・ハァ・・・・」

「ナナがそばにいてくれたら、俺は幸せなんだ」

「ハァ・・・ハァ・・・」


ドモンの言葉で徐々に呼吸が落ち着いてゆく。


「だからどこにも行かないぞ。手放すもんか。家族なんだろ?」

「フゥ・・・フゥ・・・」


子供達が大きく頷き、カバンからお金を出しあい、店の奥へと走っていった。


「俺は死なないし、消えない。でも浮気はちょっとするかもな」

「バ・・・・・カ・・・・・」


子供達が走って戻ってきた。

「ドモンさんこれ!」と手渡したのは、銀貨20枚で買った指輪だった。



「好きだぞナナ。俺と結婚してくれ」



そう言って受け取った指輪をナナの左手の薬指にはめると、ぼんやりと黒く輝く光がふたりを包み込んだ。


「はい・・・!フゥ・・・フゥ~・・・」


しっかりと返事をして深呼吸をし、それからナナはもう一度泣いた。





読み直してみると、広場を通る時にちょいちょいナナが苦しんでいたりする。

トラウマは本人にも気が付かないうちに深く植え付けられてたりするから注意が必要。


ドモンさんはそれに気がついてあげられなかった。

トラウマを乗り越えるにはそれ以上の出来事で上塗りするしかなく、この場で正式にプロポーズをした。


話数の調整が上手くいかなかったので、幕間を2つ挟んでなんとか77回目の投稿に無理やり合わせた。

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