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第762話

「一昔前なら『努力・友情・勝利』の正義のヒーローやらスポーツ選手やら、健気なヒロインなんて、俺でも可愛気のある夢を持った奴が多かったが、お前が言ってたとおり今は何でも『余裕・モテモテ・ざまぁ』ばかりだ。まあ欲望の沼が深けりゃ深いほど、俺らの棲家も広くなるから大歓迎だけどな。でも昔っから一切変わらねぇ願望ってのもある」

「これか・・・」

「そ!デカいオッパイの女」


ナナの胸をポインポインとクイズのボタンのように連打するドモンとドモンの父親。

八の字眉で「お、お、おほ・・・ほぉん・・・」と声を漏らし悶絶するも、ナナはまだまだ夢の中。

世界を牛耳る上位悪魔と見習い上位悪魔に『とんでもなくスケベな夢』を脳内で『現実化』させられているのだから、目覚めるはずもないし、冷静でいられるわけもない。


「ナナやエリーは・・・俺の願望を叶えるために、親父が生み出したってわけか?」

「半分正解で半分不正解。ある程度顔や体型や性格は寄せることは出来ても、人の命、というよりその魂だけは俺達にも作れねぇ。自分で作れるなら、他人から魂奪うような真似しなくても済むだろ?」

「た、確かに・・・そりゃそうか」

「女ってのは偉大なもんだぜ。悪魔にも出来ない、魂を生み出すなんて芸当が出来るんだからよ」


その瞬間、ドモンは父親に殴りかかろうとした。

生み出そうとしたその魂を、この父親に奪われていたことを思い出したのだ。


「テメェ!今まで散々俺とあいつらの子供を!!」

「ガキの魂を奪っていたのは俺じゃなくお前だぜ?俺はお前が集めた魂を寿命として後から貰っていただけだ。きちんとその対価も与えてな。でも奪うにしても随分優しいやり方だと思うぞ?産まれる前に魂奪えるようにしてやってたんだから」

「なんで奪うことが前提なんだよ!それにどうして俺の寿命を奪ったりしてたんだ!!」

「そりゃお前がそう願ってたからだろうが。家族なんてものはいらねぇ、もう死にてぇってよ。いっつもいっつも」

「あ・・・く・・・」


その言葉にドモンは身に覚えしかない。

家族なんてよくわからない。家族なんて面倒。誰も信じてはくれないこんな人生など、もう終わりにしたい。


願いは常に叶えられていたのだ。全てはドモンの思うままに。



「何度俺がお前を死の淵から救ったか、何度お前のわがままな願いを叶えてきたか。何度も何度も死にかけやがって。実際死んだ回数も入れたらもう数え切れねぇぞ」タバコに火をつけ、呆れたような顔でまたゴロンと床に横になる父親。

「・・・じゃあほっときゃ良かったろ。俺は死にたいと願ってたんだから」

「お前を死なしゃしねぇよ。誰にも殺させねぇし奪わせねぇ。事故で死ぬなんてのも許さねぇ」意外な答えだが、父親は当然とばかりの顔。

「それはその・・・俺が親父の・・・か、家族だからか」


恨みは当然ある。気持ちの9割以上は恨みだが、今のこの言葉だけはドモンも喜びがあった。

こっちの世界ではドモンの事を心配してくれる人など殆どおらず、ケーコでさえも「どうせ死なない」と高をくくって怪我をさせていたくらいなのだ。

たとえどんな形であれ、父親のその言葉だけは信じたいと思えたし、照れくさいが血の繋がった家族の絆というものを少しだけ感じた。

・・・が、ドモンのその気持ちはあっさり裏切られることになる。


「お前は俺の獲物だからな。獲物は誰にも渡さねぇ」


そう言って、赤く光る目をギラギラと輝かせたドモンの父親。

一度自分の獲物だと認識すれば、延々と執着し続けるヒグマと同じ。人間の常識など通用しない。


「ちょっと調子に乗ってあっちの世界の人を増やしすぎたから、お前の命狙う奴も増え過ぎちまった。まさかあんなにお前が嫌われてるとは、流石の俺も驚いたがな。魔王になって世界統一でもすりゃ面白かったのに」

「人を増やしすぎたって、人だか魂だかを増やすことは悪魔には出来ないってついさっき言ってただろ」

「あぁ出来ねぇよ。だからせっせとこっちの奴ら殺して魂送り込んでるんだよ。お前をスケボーで集団暴行してきた奴ら、こっちでお前が中学の時、金属バットで殴ってきた奴らの魂だ。まさかあっちでも同じことしやがるとは、人の魂の根っこはなかなか変わらねぇもんだなハハハ」

「お、おい・・・あれ、親父が犯人だったのかよ・・・」


いつものようにやられた暴行。リンチ。

ドモンは当然全員死んでしまえと願ってはいたが、中学を卒業してしばらく経った頃、その全員が変死したと噂に聞いた。

もう関係もないし、バチが当たったザマァ見ろとしか正直思っていなかったが、まさかの自分が指示役で、父親が実行犯だった。


他にも煽り運転の車に「事故って死ね!」と言った途端、カーブを曲がりきれずにその車が大破したり、夜買い物中に出くわしたうるさい暴走族に「すっ転べ」と願った瞬間前輪がロックし、すごい勢いでジャックナイフを行って、投げ出された人の上にバイクの車体が落下したのを見たこともあった。


「お前が言うとマジでそうなったりするんだからヤメとけよな」と友人も冗談を言っていたが、それは本当だったのだ。

全てはドモンの思うままに、父親がその願いを叶えていた。


「向こうの世界をもう少し広げたくって、新たに十何億人か死んでもらってよ、あっちの夢の世界へと旅立たせてやったんだ。でもお前、死んだ奴を生き返らせたりするのなんて、何万人もの魂が消滅するんだからあまり乱用させんなよ?魂が消えて彷徨っちまったら、何百年も死ぬ時の恐怖と痛みが続いてしまうからな。お前の寿命食えりゃいいけど、時間戻したりした時とかは何百万人分の魂が消えてんだぞ?」

「嘘だろ・・・悪魔かよ・・・」

「とんでもねぇわたしゃ悪魔だよイヒヒヒヒ」


ドモンも好きな往年のギャグのマネで返して笑う父親は、願いを叶える神なんかではなく、やはり悪魔そのものであった。



バイクの事故は確か400ccのバイクで、痛々しいなんてレベルじゃなかった。


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