第760話
「かぁ~これだこれだ!やっぱりこいつが作るザンギが世界一だぜ!飯が進む~!ビールもウメェ!」床に胡座をかいて、ドモンの料理を堪能するドモンの父親。「やったー」とケーコも大喜び。
「えー!?うちで普段作ってた鶏の唐揚げとぜんっぜん違うじゃない!!ハフ・・・外カリッカリ中ジュッワジュワ!ハフハフハフ・・・」
ナナは口の周りをテッカテカにしながらかぶりついている。
「少し焦げた醤油の匂いと生姜の爽やかな香り。中はニンニクの効いた肉汁で満ち溢れ、滲み出た油すらも食欲をそそる香りと味で舌が今にも踊りだしそうですわね。なぜ今までこちらを作ってくださらなかったのです?」「はい!ハフ」見事な食レポをするシンシアに賛同するサン。
「いや醤油がまだ貴重だったのと、生姜とニンニクもいつでもあるってもんでもなかったろ。あと片栗粉もそうだし。それに一度作ったらどうせこっち作れと言い出しかねないから、今までのも美味しく食べてたしアレでいいかなって・・・おい誰も聞いちゃいねぇ」
ドモンの説明は耳に入ったのか入っていないのか?
ドモンの父親が惣菜売場から持ってきていた鶏の唐揚げをナナ達に食べさせ「な?全く違うだろ?」と自分のことのように鼻高々。
「そんなことではしゃいじゃって、まるでナナみたいだな」と、ドモンは呆れながらビールを一気飲み。
「ケーコ様がお作りくださったバニラシェークも美味しいです。というか・・・奥様酷いですよ本当に。すっかり騙されました」チュッチュとストローを吸うサンが可愛い。
「ゴメンゴメン!ここでの私の思い出なのよ。だからつい」
ナナは右手にハンバーガー、左手にザンギ。胸の間にシェークを挟んでいて、右胸の上にフィッシュバーガー、左の胸の上にテリヤキバーガーを乗せている。
シンシアも挟むくらいは出来るが、そんなはしたないことは行わない。
サンは試しに紙ナプキンを自分の胸の上に置いてみたものの、すぐにひらひらと床に落ち、ケーコはそっとサンを抱きしめ慰めた。その悲しさは痛いほど分かる。
ドモンは他にもいくつかのツマミを作り、深夜二時の大宴会。
時計が午前三時を回ろうかという頃、まずはケーコが最初に夢の中。
続いてお腹いっぱいに食べ続けたナナが大の字に床に転がり、寝具を見に行ったシンシアとサンが、そのまま売り場にあるベッドでうっかり居眠りしてしまった。
起きているのはドモンと父親のみ。
ビールの空き缶を灰皿代わりに、お互いタバコに火をつけた。
「そろそろ色々聞かせてくれよ親父。いやその前にその格好はどうにかならないのか?自分に話しかけてるみたいで気色悪いんだけど」
ドモンはポリポリと頭を掻いた。
一緒に酒を飲み、もう『親父』と呼ぶのは恥ずかしくはなくなったが、自分と同じ姿の者に向かって『オヤジ』と呼ぶのにはどうにも抵抗があった。
「だから俺は思念体だと言っただろう。肉体がないんだから仕方ないだろ」ゴロッと横になり、ポンポンとタバコの灰を払う父親。
「だったら別に俺じゃなくても良くないか?てか思念体ってなんだよ。わかんねぇよ」
「ないものを作り上げるより、慣れ親しんだ身体の方が簡単に作れるし楽なんだ。他人に取り憑くのがもっと楽だけどな。お前だって着慣れないスーツ着るより、ジーンズとかの方が楽だろ」
「・・・俺の身体は服かなんかかよ、まったく」
父親はドモンも向かい合うようにゴロリ。
説明をいくらされてもドモンはまだ腑に落ちない。
「こっちの奴らにも一度説明したが、思念体っていうのはな、漢字そのままの意味だ。精神体だ、魂だ、本来の人間の姿だとか言われてたりするが、実際は人間の『思い』や『念』が生んだ姿ってところか」
「何の思いがあれば親父みたいな悪魔が生まれんだよ。そんな馬鹿な話があるか。しかも悪魔の中でも上位の方だって言ってたぞ」
「そうだ。世界中の者が願い、俺を生んだんだからな。お前だって願ったことあるはずだぜ?『こんな世界無くなってしまえ』『みんな死んでしまえ』とな」
「そんなことあるわけ無いだろ!」
タバコを消して起き上がってまた胡座をかき、もう一本ビールを開けたドモン。
額に汗が滲む。
「俺はその願いを叶えるためにここにいる。そう考えりゃ悪魔ってより神様みたいなもんだろガハハ。望み通りみんな殺してやるんだからよアッハッハッハ!」
「やめろよそんなこと・・・」
高笑いをする父親の姿は悪魔そのもの。
もちろんこんな父親を止めなくてはならないが、この時ドモンの頭にふと浮かんだのは、SNSに投稿されていたナナへの暴言の数々であった。
ドモンは軽く頭を振り、話を逸らそうと考えた。
「お、親父、それよりあの異世界って結局なんなんだ?まずそれから教えてくれないか?」
「フン、まあいいだろう」
ドモンの父親も起き上がり、胡座をかいてドモンと向き合った。
更新遅れは申し訳ない。
北海道も暖かくなり、BBQに駆り出されまくり。これが遊び人の仕事だったりする。
この時期またちょいちょい遅れる可能性あり。