第757話
「あちらの世界に行く際に、何か儀式的なものはありますの?例えば同時にここへ手を当てるなどとか」
六芒星の出入り口の前で、珍しく緊張した表情のシンシア。
「あるわよ。まずドモンと激しくチューをしながら、胸を揉んでもらうの」とナナ。
「確かにそうでした!あの時奥様は御主人様と口づけをしながら、少し脚を半開きにし、赤い顔で腰を前後に振ってらっしゃいました!」
置いていかれて余程ショックだったのだろうか?サンはよく覚えていた。
ナナは真っ赤な顔で「し、知らない!」と誤魔化した。
「くっだらないわね。私先に行ってるよ?」
「え?ちょっと待てって」
ケーコは一足先に六芒星に手を当て、向こうの世界へ旅立った。
白い粒子となって消える様子に、それを見たことがなかった騎士達は驚きを隠せない。
「では残った四人で同時に口づけを致しましょう」
「え?シンシアとも?!サンならまだわかるけど、シンシアと舌を絡ませるのは嫌よ!」
「舌を絡ませる必要がありまして?!それにサンは許されて何故ワタクシは拒否されましたの??ワタクシだってサンは平気でも、ナナとは遠慮させて戴きたいところですわ!」
「なによ!」
シンシアとナナのくだらない口喧嘩をよそに、ドモンとサンは抱きしめ合いながら、熱い口づけを交わした。
そこへ慌ててシンシアが横から割り込み、ドモンは片手ずつで二人の胸を揉んだ。
はっきり言って、揉む必要は全く無いのだけれどなんとなく。
しまったとばかりにナナが、「私のおっぱいは誰が揉むのよ!!」と言いながら、三人で口づけしているところへ顔を突っ込んできた。
後にドワーフ王国の伝記に残されたナナの恥ずかしすぎる発言。
そのままドモンは六芒星をタッチし、全員でウオン店内へなだれ込んだ。
「早ぇーよバカ野郎」
閉店時間はとっくに過ぎているが、照明は点いたままの明るい店内。
客も店員も警備員もいない店内の床に、ドモンではないドモン、つまりドモンの父親が座りながらズボンを穿いていた。
初めてやって来たサンとシンシアは、ドモンの父親よりもきらびやかな店内の様子に圧倒され、キョロキョロと辺りを見回している。
「あれがドモンのお父さん??プッ!ズボンの穿き方がドモンそっくり!あの調子じゃ後ろにひっくり返るわね。あ、ほら御覧なさい。いつも気を付けてって言ってるのに」
「何やってんだあいつは・・・」
膝が悪くて上手くバランスが取れないのと、よく育ったお腹のせいで、ドモンはズボンを穿く時よく後ろにコロンと倒れる。
父親がナナに笑われ、ドモンは自分のことのように恥ずかしかった。
これぞまさしくというか、これこそ本物の共感性羞恥。
「このズボンもなんかイメージと違うな。こっちも試すか」床に並んだズボンの中から、今度は黒いスラックスを手に持ったドモンの父親。
「だから一体何をやってるんだよ!それより先に来ていたケーコはどうした!まさかあんた・・・」
「見りゃわかるだろ?着替えてんだよ。予定よりちょっと早く来たお前らが悪いんだろうが。ケーコは爪切り取りに行ったぞ」
「き、着替え??爪切り???」何を言っているのかわからないドモン。
「そ!着替え。折角それっぽい衣装で『よく来たな』とかやる予定だったのに、全部台無しだよ。謝れよ」
ドモンもそれなりに覚悟を持ってきたというのに、ドモンの父親のあまりに飄々とした態度に思わず拍子抜け。
今まで自分を相手にしてきた者達も、きっとこんな気分だったのだろうとドモンもやや反省。
ナナ達は逆に親近感を覚えた。
自分達の知るドモンそのものだったからだ。
「あ、あの・・・」勇気を出して話しかけたサン。
「サン、初めてだから珍しいだろここ。まだ準備しなくちゃならないからよ、みんなと一緒に見学でもしてこい。店ん中の電源入れっぱなしにさせてるからさ。おいケーコ!ケーコ!!金くれ金!こいつらに渡す金!ゲーセンでゲームさせてやるからよぉ!」
「何ようるさいわね!ちょっと待ってって言ってるでしょ!!あんた持ってないの?お金。ちょっと立て替えといてよ」遠くから聞こえるケーコの声。
「あのあの・・・御主人様のお父様、その・・・」
サンはどうしてドモンと対峙しなくてはならないのかを聞きたいが、どうにも聞けそうな雰囲気ではない。
そして大変な悪魔と対峙する緊張感よりも、ドモンの父親への挨拶の方への緊張感が勝ってしまい、サンの心臓はバクバクと音を立てていた。
「みんなゴメンね、このバカのせいで。ほらまず手から爪切るよ。あ、お金はそこのバッグに財布入ってるから、そこから一万円持っていっていいわよ。ドモンみんなを案内してあげて。私はこのバカ面倒みなくちゃなんないし。ほーらちゃんと手をこっち向けてっていつも言ってるでしょ!」戻ってきたケーコがドモンの父親の頭を引っ叩き、右手の爪から切り始めた。
「お、おう」「お、おう」
同時に返事をしたドモンとドモンの父親。
返事だけではなく、爪切りの時のポーズまでドモンと同じで、ナナとサンとシンシアは思わずプッと吹き出した。




