第756話
「六芒星の光はちゃんと5つ残ってるみたいだな。これでここにいる5人で向こうに行けるはずだ」
湖のそばの六芒星のある異世界への出入り口までやって来た。
ケーコが一度だけ向こうに買い出しに戻っただけなので、光はひとつしか減っていない。こちら側から向こうに行く時だけ光が減る。
「でも以前は奥様は行けましたけど、サンは入ることが出来ませんでした。今回は大丈夫なのでしょうか?」とサンは心配そうな顔。
「どうだろな?なんとなくだけど、俺と繋がりを持った人間だけは連れていけるんじゃないかと思う。なんかそんなことを夢の中で言われたような気がするし」
「繋がりとは何でしょうか?血縁なら奥様は違いますし、うーん」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
サン以外は『繋がり』という言葉ですでにピンときていた。
赤い顔で「多分大丈夫よ。ねぇシンシア」とシンシアの方を向くナナ。
「サンもその繋がりを知りたいです!念の為間違いのないように、今ここで繋がっていただけますでしょうか?」サンは手を繋ぐようなことだと想像。
「今ここで?!いやいやサンも大丈夫だからウン。あとゴブリンの長老さんやジル、ヨハンの店で働いてる侍女達や、飲み屋のねーちゃんもきっと大丈夫だ。あとアルラウネの女王やエルフの婆さん達とミレイと・・・」これでなんとなく伝われと思うドモン。
「アルラウネの女王?!あんたやっぱりあの時スケベしたんじゃないのよ!!それに私知ってるんだからね!お母さんの知り合いやエステで働く奥さんに手ェ出したの!!」
「うっ!!しまった!!」
「ハァ・・・」「呆れましたわ」「こういう奴なのよ」
ようやく繋がりが何かを理解したサン。だがおかげでひと安心。
サンはナナの何倍もドモンの悪事の秘密を知っていたが、あちらの世界へ連れて行ってくれるということで、今この場では黙っていてあげようと思った。
特にカルロスの屋敷やアンゴルモア王宮、そしてシンシアの国でドモンがこっそり起こした数々のことは、絶対に黙って墓場まで持っていかねばならない。
「お母さんとは変なことしてないでしょうね」ナナが横目でジロリ。
「エリーとだけは絶対にない。それは誓うよ。変な感じには何度かなったけど、全部エリーが悪いし・・・ゴニョゴニョ・・・」正直ギリギリだった。
「それは知ってる。お母さん、本当にお父さんと同じくらいドモンの事好きなの知ってるもん。一回私が女の子の日になっちゃった時、ドモンが可哀想だから私が慰めてあげてもいいかしら?って。もちろん駄目って言ったけど」
「えー!」「えー!」「えー!」驚くドモンとサンとシンシア。
思い起こせば確かに、エリーとの距離がどう考えても近い時があった。
早起きをして二階で朝食をひとりで作っていると、ちょいちょいエリーがキッチンにやってきて、豊満な体を押し付けながら手伝いをしてくれていた。
なので『おっぱい』なんてドモンにあだ名を付けられても、一人の女性として見てくれているとエリーは喜んでいたのだった。
「まったく。でもそんなお母さんをガッカリさせないように、ちゃんと帰ってこないとならないわね」
「え?うん、まあ・・・そうだよな。ナナよりデカい胸なんて、どの世界でもエリーくらいしかいないんだし」
「そうよ」
ナナなりにこれでも励ましたつもり。
周りを囲む騎士達もドモンの会話にヤレヤレの表情だったが、改めてこれからドモンが命を賭した戦いをするのだと理解できた。
時間は23時過ぎ。だが空が赤いので暗くはない。
もうそろそろというところで、今度はアーサー達の勇者パーティーもやってきた。
「おぅアーサー、さっきぶりだな。また見送りなんていいのに」ドモンがパカパカとタバコの煙を空に舞い上げた。
「ドモンさん・・・ギリギリまでみんなと相談したんだけど・・・」とアーサー。
「何が?」
「俺の・・・この剣持っていきなよ。この剣はドモンさんこそが持つべきじゃないかと思うんだ」聖剣エクスカリバーのことである。
「うん、いらねぇ」
「え?!」「え?!」「え?!」「え?!」
悩みに悩んだ。かなりの時間話し合いもした。
アーサーにとってソフィアの次、そして命よりも大事な剣であり、自身にとってのアイデンティティーでもある。
今この非常事態の中で、何も出来ない自分が勇者を名乗るのもおこがましいと、皆に反対されながらもこの剣をドモンに譲ることを決めたのだった。
だがあっさりと断られ、驚く勇者達。国宝どころではない、この世界の宝でもある剣だというのに。
「だって邪魔だし。それに向こうだと持ってるだけで犯罪になっちゃうんだよ」
「そ、そうなんだ・・・」
「まあ気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとうなフフフ」
その気持ちだけで十分。
おかげでほんの少しだけドモンは勇気を持てた。
「それともし良かったら、誰かの代わりに私を連れて行ってはどうかしら?大規模な結界も張ることが出来るし、怪我をした時には治療も出来ますから。きっと役に立ってみせるわ」今度はソフィア。
「ありがたいけどそれも気持ちだけ受け取っておくよ。そもそもソフィアは向こうに行けないし」とこちらも丁重にお断り。
「どうして?向こうへ行くのに何か条件でもあるの?なら私にも行けるようにしてください!」
「え?いいの?」「駄目よ!ダメダメ!!」「駄目ですぅ!」「おやめなさい」「やめときなってソフィア」
その条件を聞いたソフィアが、真っ赤な顔で怒りながらドモンの右腕辺りをバシバシと叩き、ミレイが「じゃああたいは行けるんだハハハ」と豪快に笑った。
そこらの騎士よりも大きなミレイすら抱いたという事実に、ざわつき出す騎士達。
ドモンはなんだかいたたまれない気持ちになり、少し早めだが、逃げるようにもう向こうの世界へと、女性達と旅立つことを決めた。
ちなみに異世界に行くのにドモンとの『繋がり』が必要なのは合っていたが、ドモンを含む全員が勘違いをしている。
その条件とはドモンとの『結婚』及び『婚姻の誓い』である。簡潔に言うならば、ドモンからのプロポーズだ。
なにせナナとは出会った時からスケベをしていたのに、最初にナナが一緒に行けなかったということを、ドモンは完全に頭からすっぽり抜け落ちていたのだった。
まったくこの小説の出演者は、頭の中スケベなことしか考えない奴が多すぎだなぁ。
皆さんもなにか勘違いしてませんでした?(笑)




