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第747話

世界が真っ二つになるかと思うほどの轟音と地響きが二度続いた後、どんな魔法使いでも到底使いこなせるはずもない巨大な火の玉が多国籍軍の一部に直撃し、大勢の人間が一瞬にして消滅した。


その犯人は当然ドモンの父。

以前ドモンが一度死んでから異世界に戻る際、鍋などを投げて世界に不穏な鐘の音を響かせたことがあったが、ドモンの父親はそれすらも桁外れ。

タバコの吸殻の火すら、絶望レベルの大きさの火の玉と化す。


「皆さん無事ですか!」国王やドモン達がいた部屋に飛び込んできた勇者アーサー。

「今の声はまさか?!」と賢者のソフィアも叫ぶ。

「違う違う!俺じゃねぇよ!ここにいる奴らが証人だ!」ドモンは両手を体の前で振り、ブンブンと首を横に振った。


こちらの世界にもドモンの父親の声は届いていた。

少しこもった声ではあったが、ドモンの声とそっくりな声だったのだ。


その恐怖は火の玉の実害もあったこともあり、あちらの世界の比ではない。

いきなり太陽が落ちてきたと勘違いし、ドモンも焦った。


実際に目の前であっさり殺されるのを見せつけられた上に、『毎日多くの命を奪い、世界を滅ぼす』と悪魔から宣言をされ、人々は恐怖に慄いた。


とんでもないものを目覚めさせた。

とんでもないものを怒らせてしまった。


はじめはドモンがそうしたのだと多国籍軍も考えたが、すぐにそれは違うと分かった。

ドモンを匿っているドワーフ達も混乱し震えていたからだ。


一部の多国籍軍を足止めしていたトロールやオーガもその身を震わせ、「無駄な争いをしている場合ではない!今は皆で『お怒りをお沈めください』と跪き、祈りを捧げよ!!」と元魔王が叫ぶ。

そうして統制を取り、それ以上死傷者を出さなかったのは流石元魔王と言えるだろう。


だがそうじゃない者達は違う。人同士が疑いあい、中世に魔女狩りが行われた時と同じように、醜い殺し合いが起こったのだ。

向こうの世界と同じように。



普段から気に入らないと思っていた者を悪魔扱いにし、皆で殺す。

自分が標的にされないよう誰かを悪魔扱いし、殺す。

誰かを殺した奴を悪魔扱いにして殺す。

近寄ってきた者を殺し、逃げ出した者も殺す。


世界規模で起こった、殺人を伴うイジメ社会。


「おーお、よくもまあ次から次へと標的作れるもんだ。でもSNSで拡散出来る分、やっぱこっちの世界の方がバカが多いな。クソみたいな同調ばかりのヤホコメのクズ共みたいだガハハ」


消えたと見せかけこっそり人に取り憑き、喫煙所でスマホ片手にビールを飲みながら、両方の世界の様子を覗き見るドモンの父親。

とりあえず『自分のもの』であるドモンへの危機が去りそうなのを確認し、ひとり祝杯を上げた。


「しかしまあ、どうして女の体ってのはこうも動きづらいんだろうな。しょんべんしたら尻まで垂れるわ、いちいち胸や尻がそこらにぶつかるわで・・・そのくせ力もねぇしすぐ腹も膨れるしで、よくこれで生きていけるもんだ。ちょっとあいつとナナの中身を入れ替えて遊んでみるかワハハ・・・おんっ!!」


咥えタバコでブラウスのボタンとボタンの隙間に手を突っ込んで胸を掻こうとしたところ、敏感な先っぽ部分を長い爪で引っ掻いてしまい、他の喫煙者に白い目で見られるドモンの父親。

関係のない他人の身体なので、恥をかく分にはいくらでもいいが、目立つのはゴメンだ。


「見んじゃねーよ・・・じゃなくて、見ないでよ。お金取るわよ」

「あ、いやすみません」

「まあちょっとくらいならいいか。ほれサービスだ。下も見るか?」

「ダメダメ!」「酔ってるんですか?!」「悪魔だと思われて殺されますよ!さっきそこで男が刺されたそうだし」


当然ドモンの父親は素知らぬ顔。

バカな人間がこんな時にもスケベ心を出しているのをほくそ笑んでいる。


「あとは本物の救世主はあいつだと知らしめるだけだな」


「救世主に化けていた」という発言で、元の世界ではSNSですでにドモンが救世主だと噂が立ちはじめ、ドモンが今いる異世界の方でも救世主探しが始まっていた。


人智を超えた圧倒的な力の前には、人間がいくら束になって向かっていっても無駄死にするだけ。

その上誰を信じたらいいのか、誰に悪魔が取り憑いているのかもわからない。


恐怖から人と人が殺し合いを始めたこの状況では、もはや人間では収拾不可能。

神に祈るか、救世主に頼るしかない。



そんな時、ドモン達のいる世界に、女神の声が響き渡った。


「私は女神。救世主ドモンよ、今こそ立ち上がるのです。今から一週間後の午前0時に、異世界へのゲートをくぐれ・・りなさい。そして悪魔をその手で葬り、すべての世界を救うのです!あとついでにお前とナナの魂を入れ替えました。一日で戻るから安心しろ・・・するのです。あ、じゃそういうことで」


チラチラと周囲を見ながら、ウオンの屋上で自動ドアの向こうの駐車場に向かって話す女。さっきとは違う女だが、もちろん中身はドモンの父親。

エレベーターから急に家族連れが現れたので話を切り上げ、ピーピーと口笛を吹いて誤魔化したのだった。




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