第746話
自動ドアの外に向けて投げられた中華鍋。そして圧力鍋。
どちらもドモンが欲しがっていた本格的な大きな中華鍋と、新商品の圧力鍋だ。
「暴れてます!鍋を投げ捨て暴れております!自身がこの世界の救世主だといった意味不明な言動を繰り返している、中年と思われる金髪の男性がウオン店内にて・・・」
「何度も警察が身柄を拘束しようと試みておりますが、不思議な力でなぜか・・・」
「我々テレビスタッフを呼び出した犯人の身元を番組独自に調べたところ、以前異世界に行ったという札幌市白石・・・」
「いい加減にしろよてめーら!」
ドモンと瓜二つの姿の男性が、吸いかけのタバコを住所を言いかけたアナウンサーの方に投げつけると、ひょいとあっさり避けて、火のついたタバコの吸殻も自動ドアの外へと飛んでいった。異世界に甚大な被害を巻き起こして。
世界中が戦争や病気で大混乱の中、なぜかドモンやケーコが買い物していたウオンだけが無事なのは、まさに自分のおかげだと主張しているのは、ドモンと瓜二つの姿をしたドモンの父の悪魔である。
それを世間に知らしめるためテレビ局や警察を自ら呼んだのだが、鍋を盗んだ挙げ句、それを咎めた正義感の強いヤンキー達を酷い目に合わせてしまった。
その後その彼女らを洗脳し裸にして遊んでいたところ、ちょうど自ら呼んだ者達がやって来たのだ。
何も救っていないどころか、実際に犯罪しかしていない時点で救世主だと言っても、説得力も何も無い。
全くドモンの父の予定の通りには行かず、ただただ騒ぎは大きくなる一方。
「大人しくしろ!」「抵抗しても無駄だぞ!」とたくさんの警察官。
「大人しくするのはお前らの方だ。お前は10時間正座した後だぞ。そっちのお前らはクソ漏らす10秒前。よく思い出してみろほら」
「ヒ、ヒィィィ!!足がぁぁ!!」「え?ちょっと待って嘘だ・・・ああヤバい!!」「あ、お腹、もう出ちゃ・・・」
突然襲ってきたあまりの痺れに悶絶する警察官と、下半身からの酷い音と臭いを周囲に撒き散らしながらトイレに駆け込む二人の警察官。
ドモンの『思い込ませる力』どころの話ではない。格が違う。桁外れ。
思いのまま戦争を起こせるほど心を操れるのだから、このくらい朝飯前。
「おかしな力を使うのをやめなさい!本気で撃つわよ!」「それ以上罪を重ねないで!」
「婦警さん達暑いだろう?そのまま制服着てたら暑さで死んでしまうぞ。裸になった方が涼しくなって気持ちがいいし、服を着てサウナに入る方が辛いしな。話はそれから聞くからよ。冷たいビールでも飲みながらさ」
「・・・そうね」「どうしてお風呂に服を着たまま入ろうとしてたんだろ」「私酎ハイが良いなぁ。あ、でもやっぱり最初はビールかな?」
突然汗だくになりながら制服を脱ぎ始める婦警達。
野次馬の数人もつられるように裸になり、テレビ局のカメラマンは、慌ててカメラを明後日の方向に向けた。
「催眠術でしょうか!?人々が皆ひとりの中年男性によって操られております!」
「あーうるせぇな!俺は救世主だって何度言えばいいんだ!」
「犯人は狂言を繰り返し、まるで聞く耳を持たない様子です!スタジオの〇〇さーん!」
「駄目だこりゃバカ共が」
やはりドモンの父親の思惑通りにならず。しかも見た目がドモンのままだったので、ただただドモンの評判が地に落ちただけ。
こうなればもう仕方ないと、ドモンの父親は人間がイメージする悪魔の姿に変身した。
ドモンが好きなロールプレイングゲームの最後のボスキャラのような姿に。
悪魔には元の姿どころか身体なんてものも存在しないので、姿や大きさも自由に変えられる。
グレーターデーモンは、カメラの画角にギリギリ収まりそうな大きさを考え、身長8メートルほどになった。
吹き抜け部分から頭と体の一部がはみ出すほどの大きさで、ここにいる者達はもちろん、ニュースを見ていた日本人や、SNSでその姿を見た世界中の人々も驚愕、そして絶望した。
「見ての通り俺の正体は、救世主に化けていた悪魔だったのだワッハッハ」
「う、撃て!」「ヒィィィ!」「ぐあっ!いたっ!!」
パンパンと乾いた発砲音が何度も鳴ったが、弾はそのままこの悪魔を貫通し、流れ弾の一発が誰かに命中した。
「無駄だ無駄だ!愚かな人間どもよ。俺は思念体であり、実体などないのだぞ?幽霊相手にたとえミサイルぶっ放したって、そりゃ当たりゃしねぇだろうがよ。俺は幽霊なんて可愛いもんじゃないけどな」
「な、何が目的なの!?」と勇気あるひとりの婦警。脱ぎかけの半裸だけれども。
「悪魔に何が目的だなんて笑わせてくれるぜ。お前らの望み通りこの世界を滅ぼして、死者の魂を喰らいにきたに決まってるだろ」
「誰もそんなこと望んでないわ!!」
「そうだそうだ!」「勝手なこと言いやがって!」
婦警に同調した野次馬も叫びだす。
二階から飲みかけのジュースのペットボトルを投げつけた者もいたが、当然それも身体をすり抜け、階下の小さな女の子の頭に直撃した。
「俺は思念体だと言っただろ。お前ら人間の想いや願いが俺を生み出したんだ。本当に一度も思ったことはないか?『こんな世界無くなってしまえばいい』『みんな死んじゃえ』ってよ」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」
無言が答え。そんな事を一度も思わず寿命を全うする方が稀。
「これから毎日この世界の人間の魂を、一億人ずつ俺が喰らってやる。まあもう大分減ったことだし、全員喰らうのに一ヶ月もあれば十分だろ」
「や、やめてください!」「お願いします!助けてください!」「嫌だぁぁ!!」
「助かりたいなら殺られる前に殺るこった。俺はお前らの近しい人間に取り憑いてお前達を殺しに行く。悪い奴はもちろん、良い奴のふりをして近づくこともあるから、せいぜい気をつけるんだな」
悪魔は少し小さめのサイズにまた変身して、酒売り場からビールをふたケースと、隣の果物売り場からイチゴをひとパック持ち出した。
そして泣きながら頭を腫らしている女の子の頭をひと撫でし、イチゴのパックを手渡した。
頭の腫れは瞬く間に治り、その代わりにペットボトルを投げつけた青年の頭や顔が腫れ上がる。その姿はまるで悪魔のよう。
「あぁそうそう。ひとりで部屋に引きこもって助かろうとしてる奴は、俺が直接行って殺してやるよ。拷問されるより苦しい死に方するけどなハハハハ。一週間後またここへ戻って来る。その時までに悪魔と思う奴を退治した者は、救済してやらんでもない。こう見えて俺は、心の強い勇敢な奴が大好きなんだよ」
そう言ってビールを抱えたドモンの父は、自動ドアから出てどこかへ消えた。
前回から今日まで、ノドゼーゼーの吐きまくり。
おい医者、本当に俺はなんでもないんだろうな?!
更新遅れたのはそのせいもあるけど、ちょっと手こずった箇所があり書き直したため。