第745話
「何事だ」
「て、敵襲!敵襲でございます!!」
「む!それは真か?!宣戦布告すら受けておらぬというのにどこの国だ!数は!」
「それが多数の国が同盟を組んだ多国籍軍のようでして、三方から我が国を取り囲むように、その数延べ50から60万はあると報告を受けておりますっ!」
「な、なんだと・・・?!」
国王と騎士のやり取りをポカンとした顔で見ている一同。
あまりの事に現実味が感じられず、現在の状況が全く掴めないのだ。
頭の回転が速い方であるドモンですら、「なんか大変そうだけど何これ?」とすっかり傍観者気分。
変な話プロレス観戦してたら、リングアナが「これよりあなたとプロレスラー20人によるハンディキャップマッチを行います」と突然言い出したのを客席で聞いたような気持ち。
頭の中は『イヤイヤ違うでしょ何言ってんの?』しかない。
中立国としての立場を考えれば、レフェリー対プロレスラー20人なのかもしれないが。尚更訳が分からない。
「なぜそんな暴挙を!」
「それはその・・・」
騎士がチラッとドモンの方を見たことで、ようやくドモンも合点が行った。
ナナ達も察して悲しい顔に。
「まだ攻撃はされてないんだよな?俺が出ていけば全部済むことなんだろ?」タバコに火をつけようとした手が震える。流石のドモンも冷静ではいられなかった。
「・・・もうすでに各地で交戦状態になっております。ただその理由がドモン様のことだけではなく、その・・・」
「もうはっきり言ってくれ。時間もない」
「はい。魔王討伐を主としつつ『悪魔崇拝者共からこの世界を守るための聖戦』なのだと・・・このドワーフ王国の国民全員を根絶やしにするつもりのようなのです・・・くっ」
「嘘だろおい・・・」
世界各国の各地でドモン派の部隊も反発したが、以前とは違い、今度は世論もドモン討伐の方向へ傾いていて、全く歯が立たなかった。
正義のためだけではなく、欲に目が眩んだ者達をも味方につけ、討伐隊は雪だるま方式で膨れ上がったのだ。
ドモンは正式にこの世界の敵になり、それに味方する者も反逆者扱いとなった。
「私も狙われるの?あんただけだよね??大体あんた死んでも向こうで生き返ったりするんでしょ?!ずるくない??」自分の身を一番に案ずるケーコ。だがこれが一般的な感覚というもの。
「知らねぇよ!今のうちに向こうの世界に逃げるとか・・・」
「今はまだ領地に入った辺りで食い止めてはおりますが、やがてここにも迫ってくることでしょう。もしあの異世界への出口へ向かうのであれば、今すぐ向かった方が宜しいかと思われます!」ドモンが冗談のつもりで言った発言に真面目に答えた騎士。
「確かにその方が良い。皆の者!その命を懸けドモン殿らを守り、異世界の出口まで送り届けるのだ!」国王も真剣に受け止めた。
「ハッ!!」
顔を見合わせるドモンとケーコ。
確かにそうすることで今この危機は逃れられるが、向こうは向こうで世界が大変なことになっていることも理解している。
それにこの世界の何処かに、ドモンの母やケーコの子供達もいるはずなので、自分達だけが逃げ出すわけにもいかない。
「ドモン・・・」
そんな様子を不安気に見ていたナナ。
ドモンとケーコの事も心配だが、ここで突然お別れになるのではないかと、ナナはそっちの方が心配。
それならば一緒に死んでしまった方がずっとマシだと考えていた。当然サンとシンシアも同じ気持ち。
「お前らを置いていくことなんてしないよ。それは心配すんな。それにこの国のみんなを見捨てて逃げるつもりもないし」
「そうよね!ドモンならまたちゃちゃーのパッパッパーって面倒を片付けてくれるわよね?!」
「いや・・・うんまあ出来ればそうしたいけど・・・」
ドモンは確かに悪魔だし、悪魔的なずる賢さと頭の回転の速さがあるかもしれないが、その前にはっきり言ってただのおじさんだ。
酒とタバコが好きで女にだらしのない、普通のおじさんなのだ。
むしろ中学生くらいの青年らに集団暴行にあってボロボロにされるほど弱いし、そこらの悪党の魔法ひとつであっさり死んでしまう人間である。
口八丁手八丁で相手を騙し、部隊の指揮を取る代表者の思考誘導をして手玉にさえ取れれば、カールの義父の時のように上手くいくかもしれない。
だが多国籍軍があちこちからやって来ているとあれば、指揮を取る者も多数存在するだろう。その全部を騙すのは無理だ。
そもそもその者達を止めたところで、5~60万人全ての人間が「じゃあやめよう」なんて素直に従うとも思えない。
前の魔王や、オーガやトロールなど強い魔物達が助けに来てくれやしないかとドモンは願ったが、残念ながらそれも叶わない。
その者達はすでに十数万のドモン討伐隊を必死に足止めしていたからだ。
前と同じく、皆殺しにして良いのであれば話は簡単だが、それはドモンからやめるよう、きつく言われている。
それにもしそれを本当にやった時、ドモンと魔物達は取り返しのつかない事態となる。
「〇〇を突破されました!死傷者多数!援軍願います!」
「〇〇と××の住民らの避難命令を!」
「このままでは明日にでも敵軍が正門にまで到達してしまいます!ご指示を!」
騎士が引っ切り無しにやってくる。中には血だらけの者まで。
サドはニキータを連れ屋敷へ。自身の部隊を動かすのであろう。
不安そうに抱き合う親子ふたりを「大丈夫。必ず私がなんとかするから」とボニーが寄り添い声をかけた。
ドモンの心臓がバックバクと音を立て、小さく「詰んだな」と囁いた瞬間、ガーン!!ガーン!!という轟音が鳴り響き『いい加減にしろよてめーら!』という、耳をつんざくような大声が響き渡った。
その直後、大きな火の玉が多国籍軍の一部に落ち、約一万人の命が一瞬にして消えた。
アップ忘れ!4月の初めはやはり忙しいなぁ。