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第740話

ドモンがサンと車椅子を草むらに移動する少し前。

ボニーと母親はそびえ立った大きな岩の裏側、つまりドモン達から見て岩の奥の波がやって来る方にいた。


かなり浅い岩の手前側とは違い、長い年月によって波に岩の下部分と地面はえぐり取られ、まったく足もつかないほど深くなっている。

ただ深いのはその部分だけで、その少し沖側はまた少し浅くなっていた。


魚や貝が身を隠すには絶好の場所。


「ねえボニーさん!あれ!下の岩に張り付いてるあれじゃないかしら?!」

「えぇ?!あれはただの岩の凹凸じゃない?ん~でも、確かになにか少しだけ違和感があるような」

「でしょう?思い切って潜ってこのヘラで剥がせば、きっと獲れると思うの」

「でも3~4メートルはあるわよ。あの人に急に深くなってる場所は危険だから、絶対に潜るなと言われてるのよ」


先程までは足が届く水深1~1.5メートルほどの場所で貝拾いをしていて、少し深い場所でも2メートルあるかないかだった。

母親はそれよりもちょっと深いだけなので、このくらい平気に思えた。


「私が行くわ。何かあった時はボニーさんが助けを呼んで?私あの子のために、どうしてもあれを獲らなければならないの」

「それなら尚更私が行かないと。私の命はそのためにあるんだから」

「ううん、あなたはもうその分の命を懸けてくれたわ。ツバメの巣でね。だから今度は私。それにね、私、あの子に自慢したいのよ。これはお母さんが獲ったの、すごいでしょって。エヘヘ」

「もう・・・無茶はしないでね?」


子を想う母の気持ちに勝るものはない。

もうボニーには引き止められなかった。


その時は一瞬だった。

息を止めて2メートルほど潜った時、母親の体はでんぐり返しをするように回転。

ぐるぐると回りながら、えぐられた岩場の下部分に吸い込まれていったのだ。


海上からの見た目では全くわからなかったが、母親が潜った場所は、えぐられた岩肌に潮流がぶつかり、まるでドラム式の洗濯機のように潮が回転していたのだ。


足が取られれば、膝丈ほどの水深でも人は溺れる。

背の立つ浅い川でも事故が絶えないのはそのせいだ。


岩の下に体は押しやられ、もう光も見えず海面がどこかもわからない。

脱力しても潮に押され体が岩に当たり、なかなか浮上出来ない。


母親が混乱と絶望の中一瞬見えた一筋の光は、岩にしがみつきながらこの母親を助けようと下りてきた、ボニーの白い左足だった。

すがる思いでその脚に手を伸ばした母親。


「助けて!ブグボボボッ!溺れオボボボボ・・・・」


完全な巻き添え事故。

それも叫んでいる最中に突然海に沈められたボニーは、まともに呼吸も息止めもしていない。


海に潜ってまだほんの十数秒、母親は混乱はしていたものの、ボニーと違い息はまだ続いていた。が、ボニーは大量の海水を一気に吸い込み、すぐに意識を失った。



「お母さんはどこかなぁ?」

「ふたりとも見当たらないな。一緒に潜ってるのか?」


ドモンはそう答え、自分のその発言でハッとした。

同時にサンもハッとし「浮き輪を取ってきます!」と走り出した。


万が一のことがあった時のために、ふたりには絶対に同時に潜るなと注意していたからだ。


「ヤバい!まずいぞ!」冷静さを欠き、今この現状で子供の前で言ってはいけない言葉を発してしまったドモン。

「ねぇお母さん達溺れてるんじゃ?!」

「今助けに行く!まずは浮き輪を!」

「どうして?!早く行かないとお母さんが!!」

「わかってるって!でも俺がそのまま行っても、こっちも溺れるだけなんだってば!!」


焦るドモンを見て現状を把握した息子は、すぐに助けに行かないドモンに憤る。

だが浮き輪がないと危険だということもすぐに把握し、サンの行方をふたりで同時に目で追った。


サンは浮き輪までようやく半分の距離まで進んだところ。

浮き輪を置いていた元いた場所は、ここから百メートルも離れていないが、今はそれがものすごく遠くに感じる。


「早く早く!」と叫ぶことしか出来ないふたり。

すぐそこに危殆に瀕する状況があるというのに、五体満足ではない、頼りにならない自分の身体が恨めしい。


サンがナナとシンシアに状況を伝えながら浮き輪を持って走り、二人がその後を追う。

浮き輪を持ったまま砂浜を走るのは難しく、足を取られサンは何度も転びそうになった。

冷静に考えればすぐそばの草むらを走った方が早いのに、誰もそのことに気がつく余裕すらない。


そんな中、どうしても待ち切れなかった息子は「ああもう!」と叫び声を上げ、驚くべき行動を取った。




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