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第737話

ギドが家路についてから一週間が過ぎた。

漁船のひとつが急ピッチで仕上げられ、明日にでも海に出られるとのこと。


「あの人、ペニ・・ペニス・・・例の薬作るの上手くいったかしら?お兄さんの彼女さんの病気、早く治るといいね」もうわざとなんじゃないかというくらいの言い間違いをしたナナ。

「ペニシリンな。まあいくらなんでもそんなに早くは出来ないだろ。ある程度動物実験とかを繰り返して、安全かどうかも確かめないとならないだろうし」いつかやると思ったという顔をしたドモン。


後日談となるが、その後天才ギドはペニシリンの開発に成功後、王都の学校の協力によりストレプトマイシンやカナマイシンといった強力な抗生物質も開発し、世界中の人々を救うことになるのだが、ドモンがこの世界からいなくなった数年後のことなので、ドモンの功績にはなっていない。


「こっちはこっちであの子のための薬・・・じゃなかった、料理を早く作らないと。少し傷口が滲みるけど、今はそんなこと言ってられないわ」ボニーは両肘の擦り傷と両膝の痣を擦る。

「よくもまあその程度の傷で済みましたわね。あんな大きな鳥に襲われて、崖の岩肌に身体を叩きつけられたというのに」身震いをしたシンシア。

「ツバメの巣を獲るのは大変だとは聞いていたけど、まさかあんなのに襲われるとはなぁ。流石の俺も想定外だった」

「当たりどころが良かったのでしょうね。死ぬかと思ったけれど、思っていたよりも痛くなかったのよ」


数日前、百メートルほどの高さの崖の岩肌にツバメの巣を見つけ、それを獲りに行ったドモンとボニーとシンシア。

車に結んだロープをボニーの体に巻き付け、ドモンの指示とシンシアの運転で、ツバメの巣までボニーの身体の上げ下ろしをする作戦。

崖の上まで陸続きになっていたのは幸運だったが、険しい道をかなりの回り道で上らなければならなかったため、ナナとサンはこの日はお留守番。全員がいっぺんに疲労することはない。


ドワーフの職人に用意してもらった滑車も使用し、順調に事は運んでいたのだが、ワイバーンのような大きな怪鳥がいい餌を見つけたとばかりにやってきて、ボニーを鷲掴みにして飛び去ろうとしたのだ。

シンシアは大慌てで車を発進して綱引きのようにロープを引っ張ると、鳥が突然ボニーを放したために、その体が岩肌に叩きつけられてしまった。


ドモンがこっそり崖下から見張りを頼んでおいた賢者のソフィアと大魔法使いがいなければ、大怪我どころの話ではなかっただろう。

ソフィアの防御魔法がボニーの身体を守り、大魔法使いの魔法攻撃で鳥は逃げ去った。

完全に身体を守りきることは出来なかったものの、これだけで済めば御の字だ。


だが、ボニーが命をかけて手に入れてきたことには変わりがない。

山にキノコを取りに行った時も、熊などの野生生物に襲われそうにもなった。

ミレイがこっそり見張っていなければ、一大事になっていたことだろう。


それらの話を伝え聞いたあの親子は、「もういいですから!」と何度も止めに来た。

しかしボニーは「任せておいて」の一点張りで、親子は毎晩神に祈りを捧げる他なかった。



翌朝、心配になった親子も一緒に海に行くことになり、ドモンの自動車で迎えに。

「ベッドで楽になったらどうだ」というドモンの提案を息子は断り、普通の座席の窓際に座り、目をランランと輝かせていた。


「見てよ!お母さんボニーさん!景色があっという間に後ろに飛んでくよ!」

「ウフフそうねぇ」「これってもっと速くなるのよ。ねぇそうですよねドモンさん」

「あぁ、もうちょっと道がひらけたとこに行ったら飛ばすよ」

「すごいなぁ!こんなに速く移動できるなら、僕もう走れなくったっていいや。平気だよ」

「・・・・」「・・・・」「・・・・」「・・・・」


何の他意も悪意もない、ただただ素直な子供の感想が大人達の胸を締め付ける。

そしてその気持ちは、若くして脚に障害を負い、歩行不能になりかけたドモンにも痛いほど分かった。


諦めることで心は救われる。が、五体満足への未練は捨てきれない。

それが無意識に言葉となって口から出てしまうのだ。「別に平気だ」と。


本当に平気な時には、他人に対して平気だとはあまり言わない。

「ヘーキヘーキ」「大丈夫だって」とドモンは今まで何度言ってきたことだろう?


それに対して慰めの言葉なんてないのも知っているが、ドモンは運転しながらタバコに火をつけ、どうにか言葉を振り絞った。


「まあ走れなくったって、ゆっくり景色を眺めながら進むのもいいもんだぞ。デカい胸の女とすれ違いざまにおっぱい揉んだり、お尻振って歩いてる女について行ったりなんて、車じゃなかなか出来ないからな」

「前半部分は同意するけど、後半部分は最っ低ね」


ドモンの話に呆れるボニー。途中まで真面目に聞いて損をした。


「あはは!歩けたらそれもいいかもしれないけれど、僕には無理だよ」

「ちょっとはそれもいいと思うところが男の子だな。いいぞ、随分と俺に似てきた。その気持ちがあればいつか歩けるさ。その時は街中の女のおっぱい揉んでやれ」

「わかった!」「やめなさい」「聞いちゃ駄目よ、この人の話は」


当然ドモンは全否定され、クスクスと笑う子供。

窓の向こうのずっと遠くに、青い海が見えてきた。


「でも案外バカに出来ないもんだぜ?強い想いは、時に奇跡を生むことだってあるんだ。俺が事故で死にかけた時はちょうど月末で、『もうすぐ来月号の漫画が発売されるのに死んでたまるか!』と思って、あっちの世界から帰ってきたんだからな」

「へぇ~」

「そしてこの世のどんなものよりも強い『母が子を想う心』は奇跡さえ超える。今からボニーとお前の母さんが、きっと海でそれを証明してくれるはずだ」


ウンウンと皆と一緒に頷きながら話を聞いていた母親は、突然のことに「え?私?!」と思わず声を出した。




痛みと吐き気にこらえながら病院に行ってきて診てもらった。


医者「水を吐くということですが、肺に水などは・・・」俺「などは?」医者「ないですねぇ」俺「はぁ」


医者「血液から色々と調べてみましたが、数値を見る限り・・・」俺「見る限り?(ゴクリ)」医者「全て平常ですねぇ」俺「はぁ」


医者「右胸が痛いということですが・・・」俺「はい痛いです」医者「肺に神経はないですし、骨折もしてません」俺「はぁ」


医者「つまり」俺「つまり?」医者「わからないですね。他の病院に行ってみては」俺「はぁ」


あ、これ俺もしかして、また保険金狙いかなんかだと思われてる?(笑)

30年前も病院たらい回しにされた結果、最後に精神病院行かされたけどそのパターンにもなりそう。


結局全く効かない痛み止め飲んで、のたうち回りながら今日も吐きまくり。

膵炎の時より痛いんだけど、何にもないし、なんでもないそうだ(笑)

せめて喘息の薬くらいくれよ。呼吸器内科のくせに。

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― 新着の感想 ―
原因不明ってのはまた辛いですね(T_T)
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