第736話
「ナナ!汚らしいですわっ!こんなところで便を!」バシャバシャとドモン達のいる陸の方へ避難するシンシア。
「きゃああ!!あなたね!!私が水に潜ってるというのにウン・・・」水面に顔をつけて慣れる練習をしてる最中に聞こえてきたやり取りに、大慌てで顔を上げたボニー。
「違う違うウンチじゃないってば!小さい方よ!ほらお風呂の時や水浴びとか雨降ってきた時って、勝手にオシッコ出ちゃうじゃない?あれよあれ!冒険者としてのクセなのよ!」
「どっちにしたって」「汚いじゃない!!」
慌ててとんでもない告白をしたナナ。
どうやら冒険者にはよくある話らしいが、シンシアとボニーにとっては関係がない。
ドモンとサンは知っていたので驚きはない。
水に触れるとオシッコがしたくなる気持ちはわからなくもないが、絶対に勝手には出ない。それはナナだけだろう。
「なによ!水草の栄養になっていいじゃないの!その水草が湖を良くするって聞いたもん。ギドさんもそう思うでしょ?」
「え?えぇ・・・巡り巡ってそういった事になる可能性も無きにしもあらずというところでしょうか?ナナさんのおかげで、皆さん湖から上がることになりましたから」
ナナの言葉を聞きながら、フルーツゼリーを見つめるギド。
「サンは今日汚してません!お風呂ではたまに奥様に倣ってその・・・一緒にしてしまうこともありますけども」とサンは赤い顔。
「ああいやそういうわけではなく、人には様々な菌や汚れが必ず付いているものなのですよ。何もしていなくても、水の中に入ればどうしても水を汚してしまうのです。お風呂も湯を張り替えなければ汚れてしまうでしょう?」
ギドの説明にサンも「はい」と素直に納得。
「ナナの尿には人払いの効果があるということですわね。湖の平和が保たれました。勲章でも与えましょうか?」と嫌味を言うシンシア。
「うっさいわね!ここまで言われるんだったら、いっそのこと全部してやれば良かった」ムシャムシャとゼリーを食べながらも、ナナは平気で汚い話。
「やめなさい絶対に!!私これからまた潜るんだから。大体あなたのその水着の中はキレイなの?実はなんかくっついてるとかないでしょうね?!」ボニーも釣られるようにゼリーに手が伸びた。
あまりに下品極まりない女性達の会話に、思わず後ろを向く護衛の騎士達。
普段からドモンの下品さに感化され、いつしか女性達はセーフラインを見失ってしまってしまっていた。
「もしや寒天培地というものがこのゼリーのようなものだとしたら・・・先生、合っていますか?!いただいた本に書いてあったものですが、そこで青カビを育てると有りまして」
「え??寒天培地ってのがよくわかんないよ。夏にゼリーを常温で置いたままにして、カビだらけになったことは確かにあるけど」
寒天培地の正体がわかったギドと、何の話か全くわからないドモン。
「そこで培養する青カビが今のナナさんのようなものだと仮定して・・・湖が身体、病原菌が人だとすれば、そこに尿をバラ撒くナナさんをひとり入れることによって・・・フム!あの本の内容が理解できてきましたよ先生!」
「俺にはサッパリわかんねぇ」「尿をバラ撒くナナさんって・・・私のことなんだと思ってんのよ」
天才の考えることはサッパリ分からないということが分かったふたり。
ナナももう怒る気にもなれない。
「先生はペニシリンというものをご存知ですか?」
「ん?ペニシリンか?聞いたことあるよ。抗生物質と言って、体の中の悪い菌を殺すやつだろ。こっちの世界で言うところのどんな怪我も治すフルポーションみたいなやつで、色んな病気に効果があるって・・・あぁわかった!例の流行り病に必要なのか。でもペニシリンってカビから作るんだっけ?なんか漫画で読んだような気もするけど、チラッと立ち読みしただけだしなぁ」
医者がタイムスリップしてしまう漫画が原作のドラマをケーコが面白いというので、散歩した際に少しだけドモンはその漫画を立ち読みをしたことがあった。
スケベな大人の本とDVDを販売している店の入口にある、申し訳程度の普通の漫画コーナーで。
確かに面白かったが、全巻揃っていなかったのと、スケベな本も見たかったという理由で、全ては読んでいなかった。
漫画喫茶かたくさんの漫画を置いているスーパー銭湯でいつか読もうとしていたが、読む前にタイムスリップどころかドモンは異世界に来てしまったのだった。
「つまりその本の説明の最初にあるのが、寒天培地と青カビの培養についての話だったと。その次に出てきたのがペニシリン抽出のやり方で、もうそこから意味不明だったってわけか」
「恥ずかしながら全く理解が出来ませんでした。青カビになぜそのような効能があるのかも不思議ですし。ただ今の皆さんのやり取りを見ていて・・・」
「閃いちゃったと。お前は本当に相変わらずだな」
いくら天才のギドでも、病気の正体すら分かっていないうちに、その治療方法を読んでも理解できるはずもない。
ましてや寒天培地といった全く未知の物体の名前がはじめから書かれていた日には、手を上げて降参するしかないだろう。
そもそもある程度知識がある向こうの世界の人間であるドモンですら、説明されてもよくわからないという内容。
それを一度で理解しろというのは無茶というもの。
だがギドは寒天の正体と、ナナ達の水遊びの様子だけでその答えに至ったのだから恐れ入る。
「先生!その寒天というものは、すぐに作ることが出来ますか?!できるだけ早く!」
「乾燥させた寒天や材料の海藻はまだ余ってたと思うけど、たくさんいるなら船がなきゃ・・・」
「船の設計図はすでに渡しております。のちにその海藻を送っていただければ結構です!多くの命を救うために!」
「わかった。おーいみんな、俺はギドの自動車で先に城に戻るから、ゆっくり遊んでから帰ってこい。シンシア、帰りの運転頼むぞ。じゃあ行こう」
スタスタとその場を去るドモンとギドに向かって、「こっちは遊びじゃないというのに!」と、ボニーはまた不満をぶちまけた。
明日今度こそきちんと病院へ。
もし更新が遅れた場合はそういった事情で。
万が一長期休載の場合は、この小説を書き始めるきっかけとなった膵炎の時のように、『病院行ったら即入院』みたいなことになったということでご了承を。




