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第72話

「ただいま~」

「ふぅ、たくさん採れたわよ!」

「あっつ~い。ジャック何か冷たい飲み物ある?」

「お茶はあるけど冷たくないよ?」

「あ~氷がいるのかぁ・・・」

「僕ら氷の魔法使えないもんね」


ジャックを先頭に、子供達も汗だくになりながらワイワイガヤガヤと戻ってきた。

すっかり打ち解けた雰囲気になり、大人達も目を細める。


「今日は暑いからな。ナナ、桶に氷出してやれよ。俺は護衛の騎士達を呼んでくるから。あいつらもこの暑さじゃ外にいるのは大変だろう」

「もう簡単に言わないでよ・・・私も得意な方じゃないって知ってるくせに」


そう言いながらナナが桶に魔法で氷を出す。

ジャックがコップに氷とお茶を入れ、子供らに渡していった。


皆ゴクゴクと冷たいお茶を飲みながらおしゃべりをしていると、ドモンが騎士達を連れて戻ってきた。

戻るなり鍋でお湯を沸かしつつ、かまどの火でスペアリブを4つ炙って味付けをし、ジャックと母親へ渡す。


「はいおすそ分け。これがこの子供達が作ったスペアリブだよ」

「まあ美味しそうな匂い!」

「た、食べていいのドモンさん?でも僕達だけじゃ・・・」

「俺達はみんなさっき食べてきたから大丈夫だよ。気にしなくていいから」

「そうよ!食べて食べて!」


子供達の声にジャック達は少しだけ気まずそうな顔をしながら、スペアリブにかぶりつく。

一瞬で旨味を含んだ肉汁が口の中に溢れ出し、美味しさの海で溺れた。


「うわぁ!美味しい!!」

「何なのかしら?!少しの甘みの中に、お肉の焼けた香ばしい香りと塩気がちょうどいい具合に混ざりあって、とても複雑な味わいだわ!」


「私が作ったオレンジのジャムで煮たのよ」と女の子が鼻高々として語る。

「それはすごいや!」というジャックの言葉に胸を張る子供達。そしてなぜかまたナナまでも胸を張った。



「残ったスペアリブは最後の仕上げ方教えてやるからさ、あとでジャックとお前らで広場で売ってこいよ。もし儲けたらみんなでお小遣いを分ければいい。ジャックは売り方教えてやってくれよな」

「いいよ!任せてよ!」


ドモンの言葉に迷いもせず即答するジャック。

その頼りがいのある姿に、貴族の子供達も感嘆した。


「もうドモンさんったら、最初からそのつもりだったのねぇ?」とエリー。

「いや最初は飲み代にしようと思ってたけど、みんな怒るから・・・」

「ドーモーン?」ナナが青筋を立てる。


「ま、飲み代ってのはあれだけど、俺もしっかり儲けさせてもらうよ。で、ジャック、そのスペアリブを俺から仕入れるにはいくらまで出せる?」

「ちょちょちょ、ちょっと!ただであげるんじゃないの?!」と慌てるナナ。


「世の中そんなに甘くはない」と笑顔でタバコに火をつけるドモン。

そしてそれに対し、全く驚きもせずに「そうだなぁ」と計算を始めるジャック。


「ひとつ銅貨15枚までなら出せるよ!」

「馬鹿言え、話にならない。この肉いくらだと思ってんだ」

「もう仕方ないな。20枚。それ以上出せないよ」

「30だ」

「それじゃ儲けが出ないよ!ええいもう25枚!それで駄目なら交渉決裂!」

「わかった。それでいこう」


軽妙なやり取りを終え、ドモンとジャックが握手を済ませる。

貴族の子供達、そしてナナやエリーも驚き目を丸くした。


「す、すごいわねあなた」

「この歳で交渉術を身に着けているのか・・・」

「庶民の子供達はみんなこんな感じなの??」

「えらいわジャック!本当に弟になってほしいわ!」


驚きの声をあげる子供達。

違う意味で驚きの声を上げたのはナナとエリー。


「あ、あんたね・・・その肉、お屋敷からただで貰ってきてるじゃないの・・・何が『この肉いくらだと思ってんだ』よ!」

「そうよぉ!それにこんな小さな子だし知らない仲でもないんだから、分けてあげればいいじゃないのよぅ」


そう言って口を尖らせる二人に向かって、ドモンではなくジャックの方が声を上げた。


「アハハ!いいんですよ。ドモンさんは僕に『もし儲けたら』と言ったでしょ?ということは損をすることもあるということじゃないですか」

「どういうこと?」意味がわからず首を傾げるナナ。


「もしこれがタダだったら損はしないでしょ?要するに『これを仕入れて売って儲けろ』ということなんです」


ようやく納得がいったふたり。そして貴族の子供達も。


「にしたって・・・お屋敷からくすねてきたものを売るなんて」とドモンを冷たい目で見るナナ。

「商売とはそういうもんだ。な?ジャック」

「もちろんそうですよ。それにね、ウフフ」


ドモンの言葉に相槌を打ちながらジャックがニヤニヤと笑う。


「さっき食べたけど、これは銅貨60枚、いや80枚でも売れるんですよ。うまくいけば銀貨1枚でも売れるかな?」

「こいつ随分とぼったくりやがって。何が『25枚!それで駄目なら交渉決裂!』だよ」とドモンが頭を掻く。


「この枝豆がこれだけ摘んで大体銅貨30枚くらいになるんだけど、この肉ひとつ売るだけで銅貨50枚くらい儲かっちゃうんだよ!」と嬉しそうなジャック。


「元々逞しいとは思っていたけど、随分と商売上手になったわね」と少し微笑みながら、ヤレヤレのポーズをするナナ。

「ヨハンさんに鍛えてもらったからね」

「他の方との交渉も、最近は随分と上手に出来るようになったんですよ」とジャックの母親も目を細めた。

「あらまあ!ヨハンがかい?うちの人が役に立ったなら嬉しいわぁ」とエリーが体を振った。



「さて、そろそろ枝豆が茹で上がるぞ」とドモンがザバザバとお湯を流す。

「やったぁ!でもエールが欲しくなっちゃうわね」と呑気なナナ。


テーブルで席に着いて待っていた貴族の子供達は、お互いの顔を見てウンウンと頷き、男の子が代表してジャックへと申し出た。


「その枝豆、俺達に買い取らせて貰いたい」

「えぇ?!」


驚くジャックの前にバッグから銀貨を1枚ずつ出す子供達。

ジャックにはそれを受け取る権利がある。子供達は相談してそう決めていたのだ。


困惑するジャック。

いくらなんでも多すぎる。


「みんな・・・ありがたいけど、これは受け取れないよ」

「え?!」

「どうしてなの?私達が貴族の子だから遠慮しているの??」


ジャックはドモンの方を一度見てから、子供らへと向き直しニコっと笑う。


「身の丈に合わないあぶく銭は身を滅ぼすんだよ」


ジャックはドモンからその事をすでに教えられていたのだ。

そしてその訳を子供達へと説明した。


「一度楽をしちゃうと、人はどうしても甘えが出ちゃうもんなんだ。もし今これを受け入れたら、僕はきっと一生こう思い続ける。『貴族様に売ればもっと儲かるのに』と」

「・・・・」


「そんなことでずっとつまんない思いをしながら働くよりも、楽しく働き続けたいからね」

「偉いのねジャック・・・弟なんかじゃないわ。まるでお兄さんみたい」


ジャックの言葉に女の子は尊敬の眼差しを送った。


「でもまあ将来豆の相場が上がったら、その時はたんまり稼がせてもらうけどね!貴族様達からも!アハハ!」

そう言ってジャックは笑った。


「ちょっと!ちっちゃいドモンみたい!」とナナも笑う。

「だとしたら将来が心配ねぇ・・・」とエリー。

「どういう意味だよ」と笑うドモンに「そのまんまじゃない。いろんな女に手を出して。ふん!」とナナがドモンを腕をつねった。


「ジャ、ジャックにはそんな事させないわ!」

「そうよ!あなたとは違うのよ、あなたとは!」


ガタッと立ち上がった女の子達が赤い顔をしながら怒り、枝豆を準備しているドモンをふたりでポカポカ殴る。


「グフ!なんで何も言ってない俺が怒られるんだよ」とドモンが文句を言いながら、ザクザクと枝豆を大皿に盛りテーブルの真ん中へと置いた。



「まあとにかくこれは受け取れないよ。枝豆は僕からのごちそうだから遠慮しないで食べて」とジャック。

「じゃあわかったわ」と女の子は銀貨4枚をジャックの母親へと渡した。


「へ?」

「これは病気から回復した快気祝いよ。受け取りなさい」

「な、何言ってるんだよ」と慌てるジャック。


「いい?あなたにあげたわけじゃないの。これはあなたのお母さんにあげたものよ?」

「そうだぞ。俺達がそう決めたんだ。口出しは無用だぞ?」

「あ、そうそう。ジャックにはこれよ」


そう言って女の子が小さなバッグから銅貨を一枚出し、テーブルに置いた。



「ククク・・・ジャックの負けね」



ナナが笑うと「血は争えないもんだな」とドモンも大笑いした。





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