第732話
「お父さんのことは悲しいよ。悲しいけど、僕は天罰なんだって思ってる。ボニーさんが悪いんじゃない。お母さんも分かるでしょ?」
「・・・」「・・・」「・・・」
あまりに達観した子どもの意見に、言葉もない大人達。
「だからもう全部忘れ・・・」
「わかってるのよ、お母さんも!でもね・・・でもわかっているけど、あなたが傷つけられたことだけは、お母さんどうしても許せないの。許せないのよ、わかって・・・どうして私が代わりになってあげられなかったのウゥゥ・・・」
「ごめんなさい!ごめんなさい!!ウッウッ・・・」
号泣する母とボニー。
ドモンはやはりかける言葉も見つからない。
傷つけるつもりはなかった。
近寄ってきてしまった子供が刃物で傷ついてはいけないと、ほんの少し左手で払いのけただけのつもりだった。
普通ならばせいぜい尻餅をついて終わるだけだが、床の木目にかかとを引っ掛け、勢いよく倒れたところがこの木のテーブル。
その角に背中を突き刺さすように強く打ち付けた時から、この息子の両脚は動かなくなってしまったのだ。
「僕は元々走るのが苦手だったから、これからはかけっこで負かされて、バカにされることもなくなってせいせいしているよ。大好きな本だってたくさん読めるし。施設からたくさん本が送られてきたんだ」
ボニーの夫が生前寄付をしていた施設である。
けして裕福ではなかったが、この寄付行為によってこの家の父親に金があると目をつけられ、ボニー達は家も財産も奪われた。
間接的だとはいえ、自身の自由を奪う原因となった施設から貰った本を読むことになるとは、あまりに無慈悲で残酷な話。
「あー美味しかった!これが海藻から出来ているなんて不思議だなぁ。ねぇドモンさん、海って他にも美味しい物がたくさんあるの?」
「この国の人達はあまり食べないみたいだけど、美味しい魚や貝がたくさんあって、それを加工した食べ物もいっぱいあるんだよ」
「へぇ~すごいね。そんなのどこの本にも書いてなかったや」
「今度王宮の連中と海に出て、魚の獲り方とかを教えに行くことになってんだ。たくさん獲れたら色んな料理持ってきてやるからな。楽しみにしてろ」
「やったぁ!」
ドモンに今出来るのは、こうして子供を喜ばせることくらいしかない。
「海に行ったら俺の嫁達に水着っていう泳げるスケベな衣装を着せて、のんびり海水浴も楽しむ予定だ。羨ましいだろ?特にナナのおっぱいはデカいから、浮き輪代わりにしてやろうと思ってる。おっぱいってのは脂肪で、脂肪ってのは油だから水に浮くんだよ」
「へ、へぇ~・・・」
「ナナのおっぱいはこんなにおっきいから、風呂に入っててもゆらゆらプカプカと浮い・・・」
「ド、ドモンさんってば!お母さんの前で恥ずかしいよ・・・」
「・・・・」「・・・・」
ドモンの話に真っ赤な顔で俯いた子供。
思春期の入り口に立ったばかりの子供には、あまりに刺激が強すぎる話だったが、そのおかげで少しだけ緊張した空気は緩和された。
「でもお前だって興味あるだろ?もしなんだったら罪の償いとして、ボニーにおっぱい揉ませてもらえよ。お母さんに内緒で」
「!?!!」「もういい加減にしてください!あなた息子になんてことを教え込もうとしてるの!?それに全部聞こえています!」
母親が怒るのも当然。
ボニーもすぐに拒絶しようとしたが、何でもやると言っていたのはこの事なのか?とやや混乱。
「まあまあ堅い事は言いっこなし。この息子のおちんちんは硬くなってるかもしれないけどな」
「え?!どうしてわかるの???やっぱり悪魔が人の心を読めるって噂は本当だったの?!」驚く息子・・・とその息子。
「ああ本当だ。ちなみにその硬くなったのは、とある方法でスッキリしないとまず治まらない。一番手っ取り早いのは、女の人に手伝ってもらうことだ」ウンウンと真顔で頷いたドモン。
「どんなふうにすればいいの?じゃあちょっとドモンさんとお母さんかボニーさんでやって見せてよ」
「よっしゃ任せとけ」「するわけないでしょう!!!」「しないわよ!!!」
ダーン!と女性達は同時に立ち上がり、真っ赤な顔のまま同時に座って、何かを誤魔化すかの如くフルーツゼリーを一気に食べた。