第727話
グラスが倒れ、ワインが貴族とニキータの服を濡らした。
貴族の衣装は金貨十枚はくだらない高級品で、ニキータの服もこの日のために借金をしてまで新調した物。
国によってはサンの首が飛んでもおかしくはない大事件の大チョンボ。
「何してくれるのよあなた!!私はともかくサドの服に!!」ワインをこぼしたサンを突き飛ばし、貴族の服をハンカチで必死に拭くニキータ。厳しいようだが、こうしなければ本当にサンの首が飛ぶ。
「も、申し訳ございません!あぁ私はなんてことを」オロオロと床にちょこんと座り込むサン。
「いや私はべ・・・」「どうした?!サンが何をしたんだ!」
突き飛ばされたサンを気遣い、貴族が手を差し伸べようとした矢先、ドモンが部屋に飛び込んできた。
そのあまりの迫力に、何故かワインをこぼした時よりも凍りつく場の雰囲気。
「お、怒らないでドモン。たまたまの事故だったのよ。誰も悪くないの」慌てて席を立ったナナの胸が、別の貴族の頭の上に乗っかった。その貴族は、一生ナナを支援することに決めた。
「サンがそんな粗相をするわけがございませんわ!仕組んだのですか?!」立ち上がったシンシアのレオタードのお尻の食い込みを見た別の貴族も、生涯支援を行うことを誓う。
「仕組んでなどおらん!それにこの程度のこと気にす・・・」
「何やってんだサン!このバカ野郎!!申し訳ございません、このドジが。お前も謝れ!死にてぇのか!」
その場をなんとか取り繕うとしていたこの屋敷の主人である貴族のサドだったが、慌てて飛び込んできたドモンが怒鳴り散らかし、またその場が凍りついた。
「あわわ・・・大変申し訳ございません御主人様」ドモンの迫力に恐れ慄くサン。
「俺にじゃなくこっちの、え~なんだ」
「サド様です、御主人様」
「サド様にだろうが!!このチビ!貧乳!メス猫!ん?メス猫はなんか可愛いな」
「メス豚です、御主人様。あと変態が抜けています」
「黙れ変態メス豚が!サド様、俺、じゃなくて私が代わりにお仕置きをしますから、どうかそれで勘弁してもらえませんか?」
そういってサドに頭を下げ、懇願するドモン。
「い、いやそのようなことは別にせんでも」
「そうですか!では私にお任せください!さあこっちに来い、この淫乱スケベが!」
「あれぇーそれはどちらもほぼ同じ意味ですお許しを~」
ドモンは有無も言わさずサンの首根っこを掴んで、赤い絨毯の上に転がした。
そしてこうなるかを予想していたかの如く、首尾よく自分の道具入れのカバンからロープを取り出し、サンを乱暴に縛り始めた。
「いやー許してー!」
「うるさい!悪いメイドめ!こうしてやる!」
「あぁぁ右手が少し緩くて抜けちゃうぅぅ!!」
「ならこうしてやる!!これでどうだ!!」
「馬鹿者!それでは手首の血が止まってしまうではないか!それに首にかける時は、絶対に後ろに引っ張っては駄目だ!」
ドモンとサンのやり取りに、慌てて口出しをする貴族のサド。
他の者は皆呆然とした表情で成り行きを見守っていた。
「さあ尻を出せ!百叩きだからな!」
「御主人様お許しを!フゥフゥ」
「そら尻を・・・ってうおっ!!サン下着は?!」サンのスカートを捲ってびっくり。周りもびっくり。
「脱いで・・・脱いできました、汚してしまいますので。さあ遠慮なさらず存分にこのメス豚にお仕置きを」
「も、もうどうなっても知らないからな?!そらっ!!」
「ぎゃあああ!!弱すぎますぅ!!むぅぅ」
パーン!パーン!とサンの白いお尻を叩くドモン。
ただし音だけが大きくなるように、手のひらを膨らませた形でお尻を叩いていたが、サンにはそれがどうにも気に入らない様子。
それでも周りの皆にはインパクトが十分で、そばにいたニキータが慌ててドモンを止めに入った。
「もう止めて!どうしてそんなことするのよ!」ドモンの右手を引っ張るニキータ。
「うるさい!余計な口出しをするなです!」と叫びニキータを睨みつけるサン。
「へ?」「サン、それは俺のセリフだろ。そらぁ!」ドモンの尻叩きは止まらない。
「と、とにかく止めなさいってば!!」
「チッ!こうなったのも元はといえばお前のせいだ!責任を取ってもらおうじゃないか。お前も同じ目に合わせてやる!」
「や、やめて!ねぇ手を離して!嫌よ!誰か助けて!」
「邪魔すればお前達も同罪だぞ!同じ目に合わせてやるからな!それよりも俺を手伝え」
「た、助け・・・え?」
そばに来たナナとシンシアがニキータを押さえつけ、サンの時よりもずっと乱暴にドモンが縛り上げていった。