第726話
「ドモンとやら・・・これは一体どうしたというのだ。用意していた秘蔵の果実酒はどうした?」
「合コンでいきなりそんなの飲んでも盛り上がらないって。最初は『とりあえず生』って決まってるから。生と言っても下ネタじゃないからな」
「生とは一体??」「生?」「なにそれ」「合・・・コン?」「下ネタとはなんなのだ」
「いいからいいから!とりあえずグラス持って乾杯するぞ!」
予定とまるで違う展開に戸惑うこの屋敷の主人である貴族。
元々エールは生のものだけに、『生』の意味もわからず女性陣も困惑。
そして薄いゴムで避妊することもないこの世界の人々にとっては、下ネタにもならない。
「はいはい今宵はかたっ苦しいのは抜き!抜くのはチンチンだけにして、テンション上げて~!下ーげて上げて~!最高!最高!最高潮!」
「ちょっとドモン!もう!そういうの言っちゃ駄目だってば。それに何なのよそれは」
ナナと、そばにいたサンもついでに顔真っ赤。
ならばと更に加速していくドモン。
「貴族様!ハイハイ!姫様も!ニャンニャン!準備がぁハイ!出来たらぁハイ!」合いの手を知らないので、仕方なくドモンがひとりでやる。
「とにかくそうやって返事すればいいのね?!」「わかりましたわ」盛り上げようとしているドモンを手伝う覚悟ができたナナとシンシア。
「愛を(ハイ!)コメて!(ハイ!)いちにのさんでぇ!チンチーン!」
「ちんちーん!!ちょっとぉぉ!!」「チン!・・・チン・・・」
エールの入ったグラスを掲げ、大きな声でとんでもないことを口走ってしまったナナと、途中でブレーキを踏んだシンシア。
「さあみんなも」とドモンに催促され、皆も渋々「チンチン」とグラスを掲げたが、調子の良いドモンの乾杯コールに皆笑顔。
この国に「チンチン!」という乾杯の挨拶が生まれた瞬間である。
「これこれ!これがドモンの唐揚げよ!そしてこれがマヨネーズ。これに付けるともっと美味しいの!」
誰よりも先に唐揚げを頬張るナナ。
だがすっかり場の雰囲気もほぐれて、それに文句を言う者もいない。
いつしか座る位置も男女向かい合わせから、隣同士の男女交互になり、各々が男と女の交流を楽しんでいた。
「流石ナナ殿、博識であられるな。さてはこの胸に知識が詰まっておるのかな?」
「ヤダもうおじさん!スケベなんだから!」
「シンシア殿はまるでどこかの国の姫様のようですな」
「え、えぇ、ワタクシ、いえ私など滅相もございませんのオホホホ」
とりあえず場が白けるからと、ナナとシンシアの素性は今のところ秘密。
ドモンが異世界から来たことと、ナナとシンシアの知り合いだとだけ伝えてある。
他の女性達も上手いこと貴族に取り入り、中にはいつの間にか別室に移動したカップルも誕生。
そんな中ニキータと例の貴族は、少しだけ離れた席で静かに語り合っていた。
「今思えば本当にすまなかったな」
「ハァ?なによそれ今更。おかげで私は終身刑になったのよ?」
「それはニキータが・・・いやそれも言うまい。それも私が悪かったのだ」
「自分が悪いと認めて同情でも買うつもりですか?それとも認めてしまえば示談で終わるとでもお思い?」
少しだけ険悪な雰囲気だが、二人の距離は近い。
この貴族にこうまで言わせたのは、美しきニキータのせいだ。
その美貌にこの距離で迫られれば、男は全員降参するしかない。
しかしその距離がこれ以上縮まることもない。
争いによって一度出来たその壁は、あまりにも分厚く頑丈だ。
地位を利用し強引に迫り乱暴な扱いをした男と、甘い汁を吸おうと近づき抱かれようとしたものの、嫌になって全てを暴露して復讐を果たそうとした女。
お互い惹かれ合う何かがあるものの、それ以上の反発力が二人の気持ちを遠ざける。
「さぁて他の男でも引っ掛けようかしら?え、なに?王様ゲームって。なんか不敬罪になりそうな名前の遊びね」
「待ってくれニキータ」
「あなたに縛り付けられる理由はないわ。一度実際に縛られたけどね!」
「だからそれは!」
「キャッ!あ!」
同時に席を立ったふたりの目の前には、秘蔵の高級ワインを運んできたサンが立っていた。
明日、小旅行予定。