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第71話

「ねぇあなた、これが枝豆?」

「は、はい!え、ええとまだ緑のこれをですねあの・・・」

「もう・・・緊張しなくてもいいと言ってるでしょう?」

「む、無理ですよぉ・・・ドモンさんじゃないんですから」


大豆畑で女の子に説明をするジャックだったが、貴族の子供達相手ではどうしても緊張してしまう。

女の子はそれがなんとももどかしい。


ただそんな会話をしながらも、ジャックはちゃっちゃと枝豆がついた株を引き抜き土を払い、背負ったかごへと入れていく。

貴族の子供達もそれには目を丸くした。


「ジャック君、僕達にも教えてくれないか?いや、教えてください」

「俺も少しでも手伝いたい。頼む」


そう言って頭を下げる。

ドモンが来てからというものの、頭を下げお願いすることに対して抵抗はなくなっていた。

なぜなら親達もドモンに対してそうしているからだ。

それによって得られる知識は自分の財産となる。ドモンと出会い、子供達はそれを知った。


「わかりましたから!お願いですから頭は上げてくださいよ!」

「それにあと、その言葉遣いもやめましょう?お友達になりたいの」

「だからそんなの無理だよ!あ!」

「ウフフそれでいいのよ。ううん、それでいいよ?」


突如フレンドリーな言葉遣いでニコっと笑った女の子に、顔を真っ赤にしてしまうジャック。

それに友達になりたいなんて今まで言われたこともなかったので、びっくりしてしまったのだ。


「お?ジャック、顔が赤いぞ?」

「や、やめてよ~」


男の子が肘でジャックをグリグリする。


「だいぶ調子出てきたじゃないのあなた。でも私はおねえさんなんだからね?ねえさんって言ってごらんなさい?」

「な、なんで!」

「弟はお姉さんの言う事を聞くものでしょ!ほら!」

「わ、わかったよ・・・ね、ねえさん」

「ウフフ可愛い!私こんな弟が欲しかったの!もう屋敷に連れて帰りたいわ!」


もう一人の女の子に抱きしめられて、これ以上ないというほど顔を紅潮させるジャック。

「や、やめてよもう~」と言いながら女の子を引き剥がしたジャックだったけども、ジャックも兄弟が欲しかったので、本当は嬉しくてたまらなかった。



「じゃ、じゃあ普段の言葉遣いで話すけど・・・あとから不敬罪とかは無しだよ?」

「大丈夫よ。それにこの街では不敬罪はもうないのよ?知らなかった?」

「えぇ?!知らなかった!!」

「ドモンさんが屋敷にやってきて不敬罪をなくしちゃったんだよ」

「俺本当はドモンの事尊敬してるんだ。でもみんなドモンには絶対言うなよ?」


貴族の子供達がサラッと打ち明けたが、ジャックは驚きすぎてクラクラしていた。

それと共に、確かにあの人ならやりかねないとも思った。


ジャックの言葉遣いが変わったことによって、子供達の距離が一気に縮まる。


「うん、じゃあみんな、このぐらいまで育った豆がついているやつを引っこ抜いて、土を落としてかごに入れていってくれる?」

「よしわかった!」

「私でも抜けるのかしら??」

「両手で引っ張れば女の子でも抜けると思うよ」

「ねえジャック君、これは抜いてもいい?」

「どれどれ・・・うんいいよ!」


炎天下の中、汗をかきながら収穫作業をする子供達。

ジャックは貴族の子供らが収穫した枝豆の余計な葉や枝をナイフでバサバサと切り落としていた。


「あなた、見かけによらずたくましいのね」お姉さんぶっていた女の子がそう言って少し頬を染めた。

「お父さんが生きてた時にナイフの使い方を教えてもらったんだ。木を削ってコップとかも作れるよ」

「あ・・・ごめんなさいね・・・」

「ああ気にしないで。もう昔の話だから」とジャックはニコっと笑い、以前ドモン達にも話をした『母に贈ったひび割れたコップ』の話を聞かせた。



「ジャックはいつもこうして母親の手伝いをしてるのか?偉いなぁ」と男の子。

「あはは、手伝いじゃなく僕がこうして豆を育てて売って生活してるんだよ。お母さんに手伝ってもらったりもすることはあるけれど、お母さんは身体も弱いし普段は家にいるからね」


「え・・?!」

「つ、つまりジャックがお母さんを養ってるってことなの?!」女の子が驚きの声をあげる。

「まあそういうことになるねアハハ」


そう言ってジャックは誇らしげに胸を張る。

そういえばドモンも『ジャックの畑』と言っていたのを子供達も思い出した。


貴族の子供達はなぜだか途端に恥ずかしい気持ちになった。


「なんだかごめんね。ジャックはこんなに大変なのに僕達偉そうにしちゃってて・・・」

「何言ってるの!貴族様は貴族様で大変なんでしょ?貴族様達がいるおかげで、僕らはこうして暮らしていけるんだからね。それに僕なんかお父さんがこの畑を残してくれたから随分と良い方なんだ」

「・・・強いのね、ジャックは」

「えー?そんなことないよ。特にドモンさんには敵わないよアハハ」


子供達は、ドモンがなぜ初めにここに連れてきたのかがわかった気がした。



「さあこのくらいでいいかな?」

「たっぷり採れたわね!」

「ふぅ!これだけあれば、売ったらどのくらいになるんだろうな?」


背中にかごを背負いながら、「これだけあれば銅貨30枚にはなると思うよ」と笑顔のジャック。


「え・・・?」

「嘘だろ??」

「本当だよ。ドモンさんのおかげで豆の値段が跳ね上がったんだ!まあ枝豆は夏の間だけだけどね」


貴族の子供達とジャックの話が食い違う。

当然貴族の子供達は銀貨数枚から十数枚にはなるものだと思っていたのだ。


ジャックは逆に随分と稼ぎが増え、意気揚々と自慢したつもりだった。

生活もかなり楽になり、母親に新しい服も買うことが出来たのだ。

ジャックの次の夢は、お金を貯めて大きな冷凍庫を買うことだ。夏にしか収穫出来ない枝豆を、冬にも売ることができると考えていた。



かごを背負って前を歩くジャックを後ろから見つめながら、貴族の子供達が神妙な顔つきをしながら話し始める。


「僕達、仕事を手伝って銀貨三枚もらったけど・・・」

「ああ、あの10倍収穫しなければ手に入らないということだな。しかもたった一人でだ」

「この前初めて仕事をして褒められて、私自分が凄いと思ってた。恥ずかしいわ」

「私も・・・。ねえみんな、あのね・・・」


貴族の子供達が話を終え、ウンウンと頷く。

そうしてジャックと共に家へと戻っていった。




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