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第721話

ドモンを厨房に招き入れた料理人達は困惑した顔。

ただしドモンがどうのというより、木桶の水の中の魚を前にしてのもの。


「お嬢がどうしてもっていうから獲ってきたんだけども・・・ハァ」

「これをどう調理すればいいのかもわからねぇし、お嬢に聞いてもやったことがないから出来ないと言うしで」

「お嬢には言ってないが、実は海では魚は獲れなかったんだ。湖では大人数で魚を囲んで、素手で捕まえることは出来たんだが」


魚を食べる習慣がないのだから、魚を獲る習慣も当然ない。

物資の運搬用の船はあるものの、漁業などは行ってはなかった。


近隣諸国も似たような状況と聞き、アンゴルモア国での魚の流通の少なさについてドモンも納得。

よく考えればシンシアの国でも少し珍しがられていたのだから、それも当然の話なのかもしれない。


実際アジア、特に日本の魚介摂取量はある意味異常なのだ。

外国人の海外旅行において、日本旅行で「魚を食べさせられるかもしれない・・・生きていけないかも」とこぼす外国人はまだ多数いる。

もちろん旅行中にその誤解は解けるのだけれども、現代においてもそのレベルなのだから、中世ヨーロッパと似ているこの時代背景の中だと、魚を食べない獲らないのはある意味仕方のないこと。


「これはフナとマスか?フナの調理方法は流石に俺もわからんぞ・・・鮒ずしとかあるんだろうけど。とりあえず一旦塩焼きにして試食してみようか」

「はぁ」「や、焼けばなんだって食えるって俺の爺さんも昔言ってたしなハハハ・・・」


まだ生きているフナとマスに、器用に鉄串を刺していくドモン。しかし上がるのは歓声ではなく悲鳴ばかり。

案内した侍女もその場で思わず尻餅をつき、下着を見せてドモンを喜ばせた。


魚は肉を焼く大きなグリルでは上手く焼けず、薪を焚べた暖炉の灰に串を突き刺し魚を焼くことになった。

塩をふりかけ焼き始めると、残酷だの何だのと大不評。

魚を食べない者からすれば、ただ魚を殺してるとしか思えないためだ。


犬を食べない者から見ればそれを食べるのは残酷だと言うし、イルカを食べない者からすれば殺すのは可哀想だと批判が上がるが、他所の食文化にケチを付けることほどバカなことはない。

何故なら何を食べたって、罪深いものは罪深いのだ。だからこそ手を合わせ合掌し、ありがたく命を「いただきます」と言う。


ドモンは魚を焼きつつそう説明し、ドワーフ達を無理やり納得させた。


「まああんたが食べるなら俺らも食べるよ」「命は大事にいただかねぇとな」「食べ物に感謝だ」すっかりドモンに影響を受けたドワーフ達。

「じゃあまずはフナの方から食べてみよう。行儀よく食べたいとこだけど、こういう場合はこうして豪快にガブッと・・・ぺっ!!泥くせぇ!!だーめだこりゃ食えたもんじゃねぇ!捨てちまえ全部!」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」


泥抜きをしていないフナは、残念ながらとても食べられる状態ではなかった。

食べる寸前まで命をいただくことについて説いていたというのに、全てを台無しにする行動を取ったドモン。

ドワーフの調理人のひとりが「犬の餌にしておこう。それなら無駄にはならないよ」と気まずそうに片付けた。


「マスの方は多分大丈夫だと思うから。ニジマスとかならこうやって食べたことあるし・・・一回だけ」

「ほ、ほう」

「お?ムム?!同じとこで獲ったならこっちも泥臭いと思ってたけど、ぜんぜん違うぞ?大丈夫だ。いや大丈夫どころか、これはかなり美味いんじゃないかな?」

「そ、そうかい?」「じゃあ俺らも食べてみようか」「ああ、今度こそいただこう」


マスをひとかじりするなりドモンは立ち上がり、他の調理法を吟味。

ドモンはマスがサケ科の魚だとは知らず、今食べてようやくそれを知った。

一度食べたというのも約40年近く前の話。その後に実は鱒寿司も食べているが、ドモンの中では別物だという認識だった。


「う、美味いぞ?!信じられん!」

「見た目は悪いが、口に入っちまえば関係ないな!これが塩をふりかけて焼いただけだなんて・・・」

「・・・俺はまだ食べる勇気が出ねぇ。この目が俺を睨んでるように見える」

「ぺっ!味は美味いけど骨が・・・ぺっ!!駄目だこれは」


感想は正直賛否両論。だがドワーフ達にとっての大いなる第一歩。

ドモンは子供が初めて魚を食べているのを見ているような気持ちで、ニコニコと微笑みながら調理開始。

ほぼ鮭と変わらないとなれば、やりようはいくらでもある。


次々と魚をしめて、三枚下ろしや大きなものはぶつ切りに。

初めのうちは卒倒していた侍女も徐々に慣れ、手伝いに来たドワーフの料理人のひとりと一緒に小骨の除去作業。

手伝いに来たのは最初に食べて美味いと言った者。後にこの侍女の自慢の夫となる存在。


「じゃあまずはこれから行こうか」


塩と胡椒を振ったマスの切り身に小麦粉をまぶし、オリーブオイルとバターで焼いていく。

皮からしっかり焼いたマスをひっくり返し、フライパンの中の溶けたバターをスプーンで丁寧にかけ絡める。

焼けたマスを皿に乗せ、これまたケーコのためだけに用意された野菜類の中からレタスに近い物を選んで数枚添え、最後に輪切りにしたレモンを乗せて完成。


「まずは一品目、マスのムニエルだ。正確に言えば塩焼きの次の二品目だけどな」

「なんて香りだ!!」「お、お腹が鳴ります・・・」


まずは手伝ったこの二人が試食。

結果このマス料理が、ドワーフ王国の運命を大きく変えることになる。




体調不良が続いているのもあるけれど、普通に更新に間に合わなかった。

料理の話は案外時間かかってる。

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