第720話
「あっちの世界のあんたがさ、あぁ、あっちの世界のあんたってのは、あんたじゃないあんたね。多分私の子供らの父親」
「あっちの俺ってなんだ?私の子供の父親?!あいつら俺の子供じゃ・・・」
「違った。なんとなくだけど私には分かるの。あぁ、こっちの赤い目のドモンが本当の父親だったって。ドモンには悪いけど・・・私も騙されちゃった」
「待て待て、ちょっと頭が混乱してる。そのそっくりな奴が多分俺の父親なんだけど・・・てか急に腹違いの兄弟出来ちまった・・・息子と娘だと思ってたら弟と妹だったなんて」
流石のドモンも頭を抱える。衝撃的な事実。
赤い目をしたドモンがという話になり、ナナもサンもシンシアもハッとした。
ドモン本人は、そんな事はあまり知らないのでますます混乱。
しかもナナに『今は本気の時だけ青い目になってるよ』と普通に言われて呆然。
出会ったばかりの囚人のふたりからも「先程もなっていましたね。結界がどうのと叫んでいた時」と教えられた。
「大人の悪魔は目が赤くて、赤ちゃんの悪魔は目が青いのかな?そう思うとなんかドモンが急に可愛く思えてきたわ。あんたそういや足の裏だけはイイ匂いだったものね。あとで久々にクンクンしてみよ、赤ちゃんドモンの足」とケーコが呑気にクスクスと笑う。
「駄目よケーコさん!今のドモンは私のだもん、私が先に嗅ぐ。ところでそれって自分でクンクンするやつ?それとも自分が寝てる時に、ドモンに顔踏まれるやつ?」
ナナの発言にざわつく周囲。
「あー、私はどっちもかなぁ。両手でドモンの足持って自分から顔をくっつける時もあるし、ドモンがいたずらに顔を踏んできた時に、スーって思いっきり嗅ぐこともあったし」「サンは顔を踏まれる方が好みです」「ワタクシもですわ」ケーコとサンとシンシアの、更に周囲をざわつかせる答え。
「酷い」「女性に対してなんて行いを」「やはり悪魔か」と、ドワーフ達からのドモンの評判は一瞬でガタ落ち。
しかしドモンはそれどころではない。
悪魔的だとは良く言われていたが、結構な割合で自身の悪魔部分が漏れ出していることにショックを受けた。
この世界は自分の父親が作った世界で、その悪魔の力でこの世界が保たれているというようなことを、前魔王の閻魔大王からドモンは聞いていた。
そして現在父親であるグレートデーモンの力は、この世界に影響を及ぼしていないということも教えられた。しかしこの世界はまだ壊れてはいない。
ドモンはずっとその話が引っかかっていたのだけれども、今この世界が保たれているのは、自分の悪魔の力によるものだと考えれば辻褄も合うのではないだろうか?と考えた。
では一体いつから自分がそんな力を発揮していたのか?
「もしかしてあれか??月がなくなって、みんなの言葉がわからなくなった時の・・・」
ドモンがエルフの村や魔王の城に向かう少し前、サンとシンシアの合同披露宴が行われる前日に、この世界が崩壊しかけていると感じた夜があった。
あの時、ナナやサンから青い目をしていたとドモンは聞かされ、とても驚いたのでよく覚えていた。
ドモンが青い目になった後、崩壊しかけていた世界は元に戻り、平穏を取り戻したのだ。
今となって考えれば、父親からドモンにこの世界の引き継ぎが行われたのだと思われる。
ただし自分がどう力を使っているのかもわからなければ、今の自分に何が出来るかも把握していないため、ドモンの思うままにどころかこの世界の現状維持すら出来ず。
しかも魔王になって変に能力解放までしてしまった為に、このピンチを迎えた。
サキュバスの力を失い騙していた人々を正気に戻し、その上自分が悪魔だと宣伝しただけ。
ドモンの父親はこうなることを知っていて、笑っていたのだ。
「どう考えても、こっちの世界の方が大変な気しかしないんですけど。魔王になるわ、命狙われるわ・・・悪魔だもん俺・・・」
「だからあっちの方が大変だって。赤い目のあいつが『あっちの世界に避難しとけ』って言って、みんなでこっちの世界に来ることになったんだから」ケーコは即答。
「向こうで何があったのか知らんけど、何万人に命は狙われねーだろ。行けるならすぐにあっちに戻りたいぞ俺は。え?みんなで?」
「向こうで何あったって、赤い目のドモンが、向こうの世界を滅ぼそうとしてんのよ。変な病気が流行ったり、戦争が起きたり大変よ。核ミサイルがどうのって話もあったし」
「え?」
サラッと更にとんでもない情報を言ったケーコの顔を見たドモン。
ケーコは元々自分に関係ないならどうでもいいかと、そこまで気にしないタイプ。
関東の隣が関西じゃないと知ったのがつい最近というくらい、自分に関係ないと思えば興味すらないのだ。
「そんなことよりあんた御飯作ってよ。もうこっち来てから肉肉肉で、頭と口の中おかしくなっちゃうわ。ここの人達、尋常じゃないくらい肉食なのよ。野菜も食べようって言ったのに、ハンバーガーのパンは小麦から出来ているから野菜だっていうのよ。どうにかして!」
「いや・・・地球より飯かよお前。それどころじゃ・・・」
「当たり前でしょってのっ!こっちはあんたの自慢散々してんだから、さっさとやってよ!野菜なり魚なり食べるようになるような、食の革命起こしてやるってもう言っちゃったの!ドモンが来たらって」
「どうしてそんな約束勝手にするんだよ!バカなの?お前。てか魚あるのか?」
「あるよきっと。だって私出てきたとこ湖の目の前だったし、海もすぐ近くだって。ただみんな食べないから漁をしてないみたい」
ドモンとケーコの会話を聞いたドワーフ達は、野菜や魚を食べさせられるのかと苦々しい顔。
ドモンは侍女に案内され、少し面倒くさそうに厨房へと向かった。




