第719話
「やっぱりケーコか。久々だな」
「シーッ!仲の良い子にしか名前は教えてないんだから!」
「いやお前盗聴されてバレバレだぞ名前。囚人達から聞いたけど」
「と、盗聴?なんでよ!!」
「なんでかは国王様に聞いてくれ。俺のせいじゃない」
キッとドワーフ国王をケーコがひと睨みすると、どんな顔をすれば良いのか咄嗟に判断できなかった国王が、両手で自分の顔を隠した。
「王様、あんた後で覚えときなさい!」とケーコが凄むと、今度は両手でお尻を押さえる国王。
「ケーコさん!まさかこっちの世界で会うなんて!」
「ナナ、元気だった?私ナナに謝らないとって思ってて・・・」
「ううんいいのよ。きっと私の為を思ってあの時そうしたんでしょ?それにね、私もケーコさんと一緒だったから・・・」
「ナナ・・・あんた相変わらず胸がでかいわね」
ギュッと抱きしめあったふたりだったが、ナナの胸に跳ね返されたケーコ。
あまりにも理不尽な大きさに、やっぱり腹が立ってきた。
「その秘密もなんとなくだけど解明したよ。俺が人から忌み嫌われる悪魔の子だったから、弱った時にチャンスとばかりに攻撃したくなるみたいなんだ。それが人間の習性なんだから仕方ない。たまにされる暴行も、俺が弱ってたりしょんぼりしてたりの時だったから、まず間違いない。お前らは悪くないよ」
「・・・・」「・・・・」
ドモンが説明すると、ふたりは少しだけ目に涙を浮かべてもう一度ハグ。
だがまた跳ね返って、ケーコはナナの胸を両手で握りつぶした。
「は、はじめましてケーコ様。お会いできて光栄です。そしてこれまでたくさんのお気遣い、感謝しても感謝しきれません」とサン。
「あなたがサン・・・ちゃんね?え?外国人の赤ちゃん?可愛いっ!」すぐにサンを抱きしめたケーコ。
「あ、赤ちゃんではないです。ミユさんの時はまだわかりますけど、目の前でこうして喋っているのが見えているというのに」
「どれどれ、ほっぺた柔らかいねチュチュチュ!くんくん・・・ほら頭の天辺が赤ちゃんの匂い。手のひらはスンスンスン・・・あーイイ匂い。あとで一緒に寝て足の裏の匂い嗅がせてね。私ちっちゃい子の足の裏嗅ぐの好きなんだよね」
「う、あ、ケーコ様駄目ですぅ・・・あのあの、うぅ~ん」
サン大困惑。そして大悶絶。
保母の資格も持つケーコは、こう見えても子供が大好き。
ただ見ての通り好きすぎるがゆえに暴走しがちで、資格を取っただけに終わり、就職は決まらなかった。
「ちょ、ちょっと!何をなさるのです!サンが困っていますわ!」
ガタッと席を立ったシンシア。
サンの頭の匂いを嗅ぐのはシンシアの日課であり、自分だけの専売特許だという自負があった。
このままでは取られてしまうとシンシアは焦った。嫉妬もした。
「あなたが噂のお姫様ね。ふぅん・・・確かにドモンが好きそうな感じね」
「おいケーコ・・・お手柔らかにな」ドモンは冷や汗。
「な、な、何をなさるのですか」
グイッと近づいてきたケーコの顔を、上目遣いで覗き込むシンシア。
身長が160センチのケーコと、高いヒールを穿いたシンシアは、あまり背丈が変わらないはずだけども、何故かシンシアは上から見下されている気分。
「お姫様の名前はシンシアだったっけ?気が強そうだけど、あなたドMでしょ。私と似てるもん」
「どえむ・・・とはなんですの?わかりかね・・・わ、わからないです・・・」
「イジメられたり、恥ずかしいことさせられたら興奮しちゃう人ってこと。ね?あなたそうよね?」
「ワタクシはそのあの・・・あの・・・ごめんなさいお姉様・・・」
ケーコに両手で両頬を持ち上げられ、ドモンも見たことがないくらいシンシアは狼狽えた。
脚もガクガクと震わせながら、涙目になって怯えている。まさに蛇に睨まれた蛙とはこのこと。
その様子を見ていたナナやサン、その他何人もの者が怯えつつも少しうっとり。
恐らくシンシアと同じ性癖を持つ者達なのだろう。
「ケーコ!いい加減にしとけってば。呑気に遊んでる場合じゃないんだよ。こっちの世界は大変なことになっちゃってるんだから」見かねたドモンがケーコを止めた。
「知ってる。あんた魔王になっちゃったんだって?プククク・・・魔王ドモンだって。プックック」
「笑うなよ。そのせいでなんか世界中から命狙われちゃってるみたいでさ、どうにかならないかってここまで逃げてきたんだ。なんならみんなで元の世界に避難・・・」
「大変なのは向こうも一緒だよ、多分。ううん、こっちどころの話じゃないかもね?」
「え?」
ドモンはケーコからとんでもない事実を知らされることになった。
ケーコの誕生日は7月19日なので719話で再会・・・ってなことはなく、今回は偶然。
それはともかく、やはり胸だか肺に水が溜まってるらしく、現在も水抜き中。
多少の食事位は大丈夫らしいけど、酒が飲めないのは辛いなぁ。