第715話
「そっちのお前は何やったんだ?このキレイなねーちゃんみたいにくだらない話か?にしても死刑囚って言ったか?」
「私は強盗殺人。金品奪って家主を殺したわ。あとその家族の10歳の子供にも傷害を負わせて、下半身不随にさせてしまったのよ」
「そりゃ・・・死刑になってもおかしくはないか」
「そうね。私なんか死んだ方が良いのよ。でも・・・」
死刑囚の女は、自由の身と同時に大金が貰えることも話した。
金貨にして50枚、日本円で約500万円ほどのお金だそうだが、女は受け取るつもりはなく、その被害者家族に全て送るよう約束してきたと言う。
「お金が届いているのを見届けたらあとは死ぬだけ。ありがたいことにこの国には死刑があるからね、自由の身になるのは放棄して、気分良く死なせてもらうさ。それまでタダ飯もいただけるしね。案外美味いんだよ、あそこの飯はハハハ」
「お前な・・・」
「もとより死のうと思ってたのよ。死にたい奴を殺してくれるってんだから、死刑制度っていいもんね。私にとっては罰どころかご褒美だわ」
「フン・・・死刑は死を与える罰じゃねぇけどな」
ドモンはタバコの火を指で弾き、右前方に火の粉を散らした。
女はいわゆる無敵の人。完全なる自暴自棄。元の世界でもたまにいる厄介者だ。
ドモンは小さくため息を付いた。その瞬間、横から口を挟んだのはナナだった。
「死刑は死を与える罰でしょ?他に何もないわよ。あと死刑囚のご飯に関しては、私達の国でも『死刑囚に税金でタダ飯を食べさせるな!さっさと刑を執行しろ!』っていつも声が上がってるわね」
「私だってさっさと殺してもらいたいくらいよ」死刑囚の女もナナの言葉に苦笑しながらヤレヤレのポーズ。
「馬鹿だなお前ら。死にたい奴をすぐに殺してどうするんだよ。生きたい奴を殺さなきゃ意味ねぇだろうが」
「???」「???」「???」「???」「???」「???」
ドモンの言葉が理解できない一同。
お互いに目を合わせて、同時に軽く首を傾げた。
「死刑は『死を与える罰』じゃなく、『死への恐怖を与える罰』なんだよ。だからそいつが死にたいと思ってる内は、死刑にしても意味がない。死への恐怖が芽生え、もう少し生きていたいとなった後に反省と後悔が生まれるんだ。そこからが本当の地獄の始まりだ」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」全員一斉に唾を飲み込む。
「刑が執行されるのは平日。つまりは金曜日を乗り越えられたらあと2日は大丈夫。これが大切。ほんの少しだけ気が抜けるんだよ。また今週も死ななかったなって。そして芽生え始めるんだ。生への執着が」
「ひぃ・・・」カチカチを歯を鳴らし始めた死刑囚の女。
「月曜日がまた来る。早朝、牢の前を歩く看守の足音が近づいて・・・通り過ぎる。もし目の前で足が止まれば、恐らく刑が執行される。その日は大丈夫だった。火曜日の朝、またカツカツと近づく足音・・・」
「ハァハァハァ!」「ヒィィ」「もうやめてよドモンさん!」「恐ろしい」「ウゥゥゥ」「お願い向こうに行って!」
ドモンの思い込ませる力はサキュバスの血によるものだけではなく、悪魔の能力でもある。
現在サキュバスの力の殆どを失ったが、相手に恐怖を与える場合ならば悪魔の力だけで十分。むしろより効果的。
散々そういった手記やドキュメント動画を見てきたドモンの話はあまりにも生々しく、全員を震え上がらせることになった。
絶対に死刑になることなどしないと心に誓う一同。
「あなたそれでも死刑でいいって言うの?何があったのかは知らないけど、気の毒というか・・・そこまで悪い人には見えないし、流石に同情しちゃうわね」とナナ。
「同情なんていらないよ!あいつらに騙されて旦那が首を括ったあと、私もすぐに後を追うはずだったんだ。でも涙を流した旦那の死に顔見てたらさ、私許せなくなって。だから!」
「復讐したのか。今ので大体察したよ。で、なんかの拍子に子供を巻き込んじまったんだな?それを後悔してると」
「・・・・」
死刑囚の女は言葉もない。ドモンの推察どおりだった。
「今この人の死刑を撤回して欲しいと街で声を上げている人もいるんですよ・・・以前記者の方に話を聞いたのですけど。それが驚くことに、声を上げているのがその被害者である息子さんらしいの」と終身刑の女。
「・・・知ってたのか。自分の父親がそもそもの原因だったってことを」
ドモンがそう言ってもう一度タバコに火をつけると、死刑囚の女は「ウワァァァ!!」と大きな声を上げて泣き出した。
死刑囚の女の夫は優しい男で、毎週孤児院の孤児達に、自腹で食事を振る舞うような男だった。
困った人を見れば見過ごせず、借金をしてでも他人を助ける。だから生活は苦しかったが、そんな男に一生添い遂げようと女は心に決めていた。
少し重たい話になり始めたところだけど、ちょいと泊まりで温泉行ってくる。
定期で更新したいが今は正直なんともかんとも。