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第70話

皆に見送られながら馬車に乗り込んだ一同。

侍女から酒とタバコと、そしてスペアリブの入った鍋も受け取り、いよいよ出発の時となった。

先に乗り込んだ子供達が貴族達に手を振る。


「行ってきまーす」

「うむ、気をつけてな」

「ドモン殿の言う事をきちんと聞くのだぞ?」

「はーい」


護衛の騎士達が馬に乗り馬車を囲む。

そうして仰々しく馬車は出発した。



「プッ!なんであなたはナナの膝の上に座ってるのよ」と女の子が笑う。

「だってナナが・・・」と恥ずかしそうなドモン。


「ドモンさんは馬車の揺れが苦手ってのもあるんだけどね、ほら、まだ怪我が治りきってないからナナが心配して座らせてるのよ」

「ドモンはすぐに我慢して無理するからね」


エリーの返答に被せるように、ドモンの背中から顔をひょっこりと出して、ナナが真面目な顔をして答えた。


「あ~なるほどねぇ。この人怪我が治っていないのに怪我をして、その次の日に酔っ払って浮気してたんだっけ。無茶苦茶よあなた」

「それはあの・・・大変反省してます」


女の子とドモンのやり取りを聞きながら、ナナの怒りがぶり返す。

浮気のことは仕方ないとしても、指の怪我を縫ったまま酒を飲んだことが許せなかったのだ。


「浮気のことはもういいわ。でもねドモン、私『自分を大切にしてください』って前に言ったよね?」

「・・・はい」

「怪我をしたのは仕方ないしお母さんも悪かったしね。医者がいなくて時間つぶしに街を散策するのもまあわかるわ。でもどうしてそこでお酒を飲もうと思っちゃうのよ」


以前暴行されてボロボロになった時も、医者が駄目だというのにお酒を飲んで寝ていた。

それがナナには理解できない。


「うーん、酔うと痛みや苦しさが和らぐってのもあるんだけど・・・」怒られてしょんぼりとしながら答えるドモン。

「だけど?」

「酒を飲むとなぜか傷が治っちゃうんだよ。昔からそうなんだ」

「えぇ?!」


ナナだけじゃなく、エリーや子供らも声を上げた。


「あんた、ポーションは効かないのにお酒は効くっていうの?!」

「まあはっきり言ってしまえばそんな感じだ」

「そ、そういえば目も潰されていたけど、お酒飲んで寝て次の日には開いていたわよね?それってもしかして・・・」

「多分そういうことだろな」


ドモンとナナがそんな会話をしてる時、エリーが子供達にそれがどれだけ酷い怪我だったかを説明していた。

そして翌日の朝には料理をしていたことも。


「ドモンお前・・・本当に無茶苦茶だな」

「あ、あなたね、ナナが怒るのも無理はないわよ」

「ナナも大変だね・・・」


子供らも呆れるばかり。

膝の上に座らせたくなる気持ちが理解できた。



「ところで今はどこに向かってるの?うちでもないし街の方でもないわよね?」


ナナの言葉に子供らが「え?!」と驚く。

屋敷からあまり出たことがなく、地理に疎い子供らにはわからなかったのだ。


「ああ、まずはジャックのところへ寄っていく」とドモン。

子供達は、目的地が先程話に聞いたジャックの家だと知り大喜び。


「え?そうなの?あ!だからもしかして??」とナナがスペアリブの入った鍋の方を見た。

「ああ、あいつらにも食べさせてやりたいだろ?」

「うん・・・そうだったのね・・・」


ナナはずっとドモンがまた良からぬことを考えていると思っていた。

そんな自分を恥じた。が・・・・


「残りは街で売るけどなエヘヘ」

「だ、駄目よぉドモンさん!」

「やっぱりあんたスケベな店に行こうとしてるじゃないのよ!しかもお父さんまで連れて!」


子供らが冷たい視線をドモンに向けつつ、馬車はジャックの家の前へと到着する。

その様子にすぐに気がついたのか、ジャックと母親が家の外へと大慌てで飛び出してきた。


「え・・え?!」


貴族達が馬車から出てくるのかと思っていたジャックは、子供達が馬車から現れて更に困惑していた。


「よおジャック。お母さんも元気になったみたいだな」

「ドモンさん!!これはどういうことなの?!この子達は一体??」

「ドモンさん、あの時は大変お世話になりました。なんとお礼を申せばよいのやら・・・」


ドモンを見るなり深々と頭を下げるジャックの母親。

すっかり元気になり、随分と血色のいい顔色となっていた。

服装も少しだけおしゃれな服を着ていて、何とも言えない色気を放っている。


その胸元に目が行ったドモンに気がついたナナが、ドモンの腕をつねりながら挨拶をした。


「ジャック久しぶりね」

「ナナさん!」


「どうもこんにちは~。いつもヨハンがお世話になっているみたいで」

「あ、もしかしてヨハンさんの奥さんですか?いえこちらこそ本当にお世話になってます。いつも豆をたくさん買っていただいて」


エリーとジャックの母親も挨拶を済ませる。

そして視線は貴族の子供達へと移った。


「ああ、こいつらは貴族の子供達だ。歳はジャックの方が少し下かな?まあ仲良くしてやってくれ」

「え?き、貴族様の?!」


「かしこまらなくてもいいわ。仲良くしてね」

「ドモンから話は聞いたよ。随分と頑張ったみたいだな」

「あなた凄いのね。こんなに小さいのに」

「君の話を聞いて僕も頑張らないとと思ったよ」


「え?え?え?!」


なぜ貴族の子供達が自分の事を知っているのか?何が何だかわからないジャック。

しかも随分と好意的な態度で見られ、ただただ恐縮していた。


「でもどうしてうちなんかにいらっしゃったのでしょうか?」とジャックの母親。

「ああ、屋敷でスペアリブを作ったから二人に食べてもらおうと思ったのと、あと、ついでにこいつらに庶民の暮らしを勉強させてやってもらえないかな?」

「お、お屋敷のお料理を?!」


ドモンの言葉にジャックが驚く。

庶民が口にすることなんてないのだから驚くのも当然である。


「貴族様のお屋敷の料理と言ってもドモンとこの子達が作ったものなのよ」とナナ。

「とっても美味しいわよぉ」とエリーが微笑む。


「お、お家に入るのはもちろん構いませんけども・・・うちなんかで宜しいのでしょうか?」

「ああよろしく頼むよ」


鍋を持ち、ぞろぞろとジャックの家へと入る一行。

護衛達は外で見張りを続けている。


「ドモンさん、うちなんてなんにもないよ?どうしたらいいの?」


何かおもてなしをしたいジャックだったが、何も思いつかず困惑している。


「あるじゃないか。ジャックには豆が。枝豆取ってこいよ」

「あ!!!!」

「どうせならこの子供達にも枝豆取りをやらせてくれ」

「だ、駄目ですよ!貴族様にそんな事させちゃ!!」


ドモンの言葉にそれだ!と思ったのも束の間、突然とんでもないことを言い出し、更に困惑することになってしまうジャック。

しかし子供らの目はランランと輝いていた。


「私やってみたいわ。その枝豆取りというものを」

「俺にも教えてくれ」

「僕も!」「私も!」


「えぇ?!」と驚くジャックに「ほら行ってこい!お前ら美味しそうなのたっぷり頼んだぞ!」と背中を押し、ジャックを含む子供達は、護衛を連れて畑へと向かっていった。



そこで貴族の子供達は、庶民の暮らしの現実を知ることとなる。





ドモンさんが酒で傷が治るのも実話である。良い子は絶対にマネしちゃダメ。


医者、警察、そして当然家族も驚き「そんなバカな?!」「き、気持ち悪い・・・」と小説以上の反応(笑)

酒を飲むと真っ黒な血が傷口をあっという間に塞ぎ、半日でかさぶたがバラバラと剥がれ、アザも残らない。折れた骨も数日でほぼ元に戻る。


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