第712話
「いくら中立国だと言っても魔王が急激に迫ってきたら、大混乱を起こしかねないからね」とアーサーの忠告。
「そりゃまあそうだろうけど・・・ケーコの説得に懸けるしかないか」
ドワーフ王国は中立国ではあるが、中立国は敵でもないけれど味方ということでもない。
危機が迫れば全力で排除しなければならないことから、実はどこの国よりも武装国家である場合がほとんど。
ドモン自身もドワーフと多少の繋がりを持ったとは言え、それは魔王になる前の話。
魔王となってしまった今、大急ぎで国に飛び込もうとすれば、歓迎されるはずもないし攻撃されるのがオチ。
なのでゆっくりと進みながら、途中で出会った旅人や魔物に手紙を何通も持たせドワーフ国王を説得しつつ、あとはケーコにドモンには危険がないことをドワーフ達に説明してもらうしかない。
「ケーコ様!今日もドモン様のお話をお聞かせください」「フゥフゥ・・・」「ゴクリ」
「いいわよ。あいつが魔王なんかじゃなく、ただの悪魔だってことを教えてあげるわ」
「昨日お話なさってたことよりも酷い目に?」
「あいつの話ならいくらでもあるわよ。女はみんなその沼にハマって、抜け出せなくなるの」
ドワーフ王国の王宮にある、とある一室にて。
ケーコはお付きの侍女達に、今日もドモンの話をしていた。
「・・・でね、身動きを取れない状態にしてから言うわけよ。『俺はイジメられて勝手に興奮する女を求めていない』って。でも女だったら分かるでしょ?そんな風に扱われたら多少はそりゃ・・・ねぇ?悔しいけど被虐心につい・・・」
「わかります」「ハァハァ」
「で、『俺が確かめて、もし興奮しているのを確認したらお仕置きをする。それが嫌なら素直に発情してしまいましたって言え』って言うのよ。酷いでしょ?女にとって屈辱よ」
「ほ、本当に悪魔だわ」「なんて酷い」「・・・」
「でも案外可愛いところもあって、そんな姿を見ると今度はこっちが苛めたくなっちゃうのよね。そんなの繰り返してるうちにお互い理性なんてなくなっちゃって、もう獣のように・・・」
神妙な面持ちでケーコと侍女の会話を聞く国王と大臣達。
ケーコがここ数日通されているのは、スパイ容疑がかかった人物を監視するための、盗聴用のパイプが仕組まれた部屋であった。
ドモンがどんな人物なのかケーコの本音を聞き出すため、悪いとは思いつつも罠にかけるような形でその部屋に通したのだ。
侍女達は当然それを知っていて、それとなくドモンの話を聞き出せと命令していたのだが、まともな話は初日のほんの初めの方だけで、あとはずっとスケベな話。
それもドワーフにとってはあまりにも非人道的な夜の営みであり、頭も体も沸騰しそうなくらいの体験談の連続で、本当に入国を許すべきなのかどうなのか頭を悩ませるばかり。
「陛下、ヨダレが垂れていますぞ。だらしのない」「そうですぞ」
「貴様らこそ随分と前が膨らんでいるように見えるが?それに昨晩は随分と激しかったようではないか」
「オホン!!さて何のことですかな?」「誰がそんなことを!」「仕方ありますまい・・・」
命を奪うことはなくても、人を堕落させる能力はやはり悪魔の所業。
話を聞いただけでこうなのだから、実際に対峙した場合の危険度は計り知れないとの判断が下された。
ドワーフ国王は自由の身を約束するのと大金を与えることを条件に、投獄されている罪人達の中から若い女性を十数名呼び寄せ、ドモンにその身を投じることを命令した。
当然その場でドモンが上位の悪魔であり、魔王であることも伝えたところ、死刑が確定している者一名と、終身刑の女性一名が立候補。
このふたりをドモンと立ち合わせ、その時のドモンの対応を見て、入国を許すかどうか決めることになったのだ。
「ふん!どうせ死ぬんだ。どうなったって後悔なんかしないよ」「・・・う、うん、私も・・・もういっそ死んだ方が・・・」と罪人達。
「貴様らにこの国の命運が懸かっておるのだ。良いな?心してかかれ。決して逃げ出そうとなどと考えるでないぞ?その時は」と大臣のひとりが睨みつけた。
「その場でこれだろ?わかってるよ!」自分の首を刎ねるような仕草をした気の強い方の女性。もう一人は俯いたまま。
「死ぬ覚悟があるならば、怖いものなどなか・・・」
そう、もう一人の大臣が口を開いた時、また遠くからケーコの話し声が聞こえてきた。
「もう殺せって叫んだわよ。気が狂いそうに?いや狂ったの実際に。裸で人混みの中歩かされてさ、その中でおしっこまでして。その場で死ねたならどんだけ良かったか」
「ヒィィ!」「酷い・・・」
「でもマシな方らしいわよ?中には縛られたまま何時間もくすぐられてウンチまで漏らしちゃった人や、お腹がパンパンに膨らむまでお尻から空気を入れられて、そのまま静かな美術館に連れて行かれた人もいるって。その後どうなったかは想像できるでしょ?」
「オナラ・・・」「聞いているだけで頭がおかしくなりそう」
「まああの悪い方のドモンの仕業だとは思うけど。で、みんな抜け出せなくなるの、そのトラウマから。もう一度あの酷い目にあったらどうしよう?あれよりもっと酷い目にあったら私どうなるの?ってね。気づいた時にはもう手遅れ。でね・・・」
ケーコの話を聞いていた侍女のひとりは、すでに幸せそうな顔で失神中。罪人の女性二人の顔は真っ青。
すっかり侍女と仲良くなったケーコが話す内容は、打ち解けたことによりどんどんと酷くなり、純真なドワーフにとっては地獄のような内容に。
ただよく考えてみればナナもサンも、何ならシンシアに至ってはもっと酷い目にあっているので、一概に『悪い方のドモン(父親)』のせいだとは言えないのが一番の恐ろしいところ。やはりドモンも悪魔なのだ。
「ままままま待ちなさい!!こここをただで通すわけには行かないわ!」
「にじみましたにじみました!おしっこ滲みました!助けて!怖いです!!」
「なんだあいつら。随分スケベな格好でイヒヒ」「こらドモン!」
大きな門の手前に停めたドモンの自動車の目の前に、体にバスタオルを一枚巻いただけのような格好で、二人の女性が両手を広げて立ちふさがった。
そして風邪かインフルかをケーコに移してしまい、具合の悪いまま看病させられるという・・・
熱下がったのに悪寒や関節痛だけ残ってる謎。