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第709話

「さあ早く行くわよ」

「う、うん。いやぁマジか。冗談じゃなくちょっと期待してたのに」

「はいはい。思わせぶりにもならなかったわよ?誰も期待してないし。サンもほら、準備しながら目を逸らしてるじゃない」


ナナがサンの方へ目を向けると、サンは真っ赤な顔をしながら、下着やら服やらをカバンに詰めていた。

以前そんな様な事があったという話は何度もナナから聞いていて、その度に笑いを堪えるのに死にそうな思いをしていたのだった。

「きっといつか出来ますよ!」とドモンを励ましたこともあるが、まさか本当にその場面を見るとは思っていなかったのだ。


「今度こそいけると思ったんだ。これが小説なら、読者も『ついにあのドモンが!』と期待して次のページを捲ってるとこだぞ?なんなら次の話を楽しみにさせるために、わざと話を途中で切り上げるんだ。会話の途中や期待させる場面で。クリフハンガーって言ってな?それで次の本買わせたり・・・」

「最低ねそれ。はい出発」


ナナの言う通り当然何も起こらなかったが、ドモンが期待していたのは嘘でも冗談でもない。

魔王となってこの世界に変化が起きたのだから、自分自身にも変化が起こっているかもしれないからだ。


今は自分の武器となるものがひとつでも欲しい。

人を騙し魅了、もしくは発情させるサキュバスの能力を失った今、きっとこれまでのようにはいかないだろうとドモンは考えたのだ。

何かひとつの魔法、何かひとつの特殊能力、それを見つけることが出来たならばこの状況を変えられる可能性もある。


命が助かる可能性が高まるなら、どんな些細な事でも試しておきたい。

一時の恥など、命に比べればどうってことはない。


「案外左手でやれば出来るかもしれないぞ?ハァッ!ステータスオープン!やっぱ駄目か・・・」ガッカリしながら、への字口でナナの方を向いたドモン。

「ぶふっ!能力が欲しいからって、ギンギンの目で力入れても多分変わんないわよ。目が充血してるってば。ん?ちょっと待ってドモン、充血じゃなくて目にゴミ入っちゃってるかも?目、痛くない?」


ドモンの頬に両手を当てて、ナナはドモンの左目の白目の下の部分を覗き込んだ。

真顔で息がかかるほど近くに寄ってきたナナの顔はとても美しく、今更ながら自分なんかには似つかわしくないほどの美女が妻だという事実に、なんだかドモンは嬉しくもこそばゆい気持ち。


「んん~?これゴミじゃなくて、ん~、文字じゃないかなぁ?白目のとこにほら」そう言ってサンの方を向いたナナ。

「御主人様、少しだけかがんでいただけますか?あ!本当です奥様!角張った文字でええと・・・『E1=TIX3』と小さく書かれていますね。御主人様は何か違和感や痛みはないのですか?」とサンもドモンに顔を近づけ、大きな目を何度もパチクリ。可愛い。

「痛みも違和感も特にないな。てかなんだよその文字。意味はわからねぇし気持ち悪いし・・・しかも何にも役に立たなさそうだ」


ドモンはガッカリしながらナナと一緒に籠に乗り込み、別れの挨拶もそこそこに直ぐに出発。

何かの謎解きのようにアルファベットや数字を色々と変換してみたが、結局その謎は解けずじまい。

その上数分した頃にはその文字も消え失せ、たまたま今だけ文字のような痕が白目に浮かび上がったのだろうということにした。


それよりもナナが揺れる壺型の籠の中で、白いガウンから冒険着に着替えようと悪戦苦闘しているのを見るのが楽しく、文字が浮かび上がっていたことすら忘れてしまった。

結局ナナは次の休憩場所までに白いガウンを脱いだだけで、下着すらつけることが出来なかった。


何度も体がずり落ち、後ろでんぐり返しの失敗のようなポーズになっては、ドモンに助けを求める。

プロレス好きの人に説明するなら、全裸の女性にジャンピングパワーボムを食らわせたような姿勢。


「お前なぁ・・・今蓋を開けられたら終わりだぞ?ハァ・・・それに恥ずかしくないのか?もう全部・・・」

「恥ずかしいけどドモンだし。それよりそう思うなら、早く助けるなり下着穿かせるなりしてよ」

「大体こっちから薄っすらトロールの姿が見えてんだぞ?トロール達からもお前の姿見えてるんじゃないの?」

「えぇ~!!嘘でしょ?!」

「お前らどうなんだ?外から中が見えてないか、正直に答えてくれ」


蓋には中に明かりが入るように、わざとすだれのような隙間があり、そこから外の様子が薄っすらと見えていた。

ということは、外から見ても中が見えている可能性がある。

ドモンが問うと、籠を担いでいるトロール達が素直に答え始めた。


「いんや、中が暗いから外からは見えねぇだ」と右後ろのトロール。

「ナナ様が裸だどいうのは正直分かんだけども、ゴソゴソ動いてるのはわがっても、何してるのかまでは分かんねぇべな」

「ナナ様の大事などごも見えでねすから安心してくんろ。少しくらいは拝みてぇくらいだどもエヘヘ」「バカこくでねおめ!」

「ほ・・・」


トロール達の言葉にナナもほっと一安心。

ドモンもそんなやり取りを見ていて、かなり心のゆとりも出来た。


「よし!ここらで一旦休憩していくか!」

「え?ちょ?」


ガバッとドモンは蓋を開き、ナナは大事なところをしっかり拝まれることになった。




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